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圏論入門

極限と余極限 積・等化子・引き戻しを一つにまとめる普遍性

公開日 / 更新日

二つの集合の直積、連立方程式の解、二つの空間を共通部分で貼り合わせた空間。これらは別々の操作に見えます。集合を組にする計算と、条件を同時に満たす解を探すことと、空間を接着することに、同じ名前を付ける理由はなさそうです。

圏論は、完成した対象の中身ではなく、その対象へ入る射や外へ出る射が果たす役割を比べます。この視点に立つと、積、終対象、等化子、引き戻しは「極限」という一つの構成にまとまり、余積、始対象、余等化子、押し出しは「余極限」として双対になります。個別の公式を増やすのではなく、多数の普遍的構成を一つの文法で扱う概念といえるでしょう。

図式を一つの対象から眺める錐

圏Cの中に、いくつかの対象と射を並べた図式D: J → Cがあるとします。Jは図式の形を指定する添字圏です。Dの外に対象Nを置き、Nから図式中の各対象D(j)へ射を伸ばしてみましょう。これらの射が図式内の矢印と可換になるとき、その一式をNからDへの錐と呼びます。

錐は円錐形の立体を描くための言葉ではありません。頂点Nから図式全体を矛盾なく参照する方法です。図式にD(j) → D(k)という射があれば、NからD(j)へ進んでからD(k)へ行く道と、Nから直接D(k)へ行く道が一致しなければなりません。

すべての錐が一意に通過する極限

図式Dの極限Lとは、Dへの錐のうち普遍的なものです。任意の錐Nから、Lへの射N → Lがただ一つ存在し、Nから図式の各対象への射がLの錐を経由して得られます。Lは図式を眺める最良の頂点といえるでしょう。

「最良」とは、大きい、小さい、簡単といった尺度ではありません。ほかのすべての錐が一意にLを通じて因数分解されるという射の性質です。この普遍性により、極限は存在すれば一意同型まで決まります。

極限は図式の単なる部分ではなく、図式へのすべての整合的な見方を代表する対象です。

積は二つの対象だけを並べた図式の極限

対象AとBだけがあり、その間に射を置かない離散図式を考えましょう。この図式への錐は、あるNからAへの射とNからBへの射の組です。普遍的な錐の頂点が積A×Bであり、射影π1: A×B → Aとπ2: A×B → Bを伴うことになります。

任意のf: N → Aとg: N → Bに対し、π1∘⟨f,g⟩=f、π2∘⟨f,g⟩=gとなる射⟨f,g⟩: N → A×Bがただ一つ存在します。集合なら⟨f,g⟩はnを(f(n),g(n))へ送る関数に当たります。直積の順序対という作り方は、この普遍的役割を実現する一例といえるでしょう。

終対象は空の図式に対する極限

対象も射もない空図式への錐を考えると、どの対象Nからも付け加えるべき射はありません。したがって錐はNを選ぶことだけです。その中で普遍的な頂点Lは、任意のNからLへの射がただ一つ存在する対象、すなわち終対象になります。

Setでは一点集合が終対象です。どの集合から一点集合への関数も一つしかありません。積と終対象が別々の定義ではなく、図式の形を変えた極限として統一される点に、圏論の整理力が表れています。

等化子は二つの射が一致する最大の部分

平行な二射f,g: A → Bを並べた図式を考えましょう。この図式への錐は、射e: E → Aでf∘e = g∘eを満たすものです。その中で普遍的な錐の頂点を、fとgの等化子と呼びます。

SetならE = {a∈A | f(a)=g(a)}と取れます。二つの関数の値が一致する要素だけを集めた部分集合です。任意のh: N → Aがf∘h=g∘hを満たすなら、hはEへの一意な関数を経由しなければなりません。方程式の解集合が極限として現れる基本例です。

引き戻しが二つの条件を共通の基準で合わせる

射f: X → Zとg: Y → Zがあるとき、その引き戻しX×ZYは、XとYの情報をZ上で一致させる極限です。Setでは{(x,y)∈X×Y | f(x)=g(y)}となるでしょう。単なる直積から、共通の条件を満たす組だけを残した集合です。

データベースの結合を思い浮かべると分かりやすいでしょう。顧客表と注文表を顧客IDで結ぶとき、両方のIDが一致する行の組を作ります。実際のデータベースには重複やNULLなど追加の事情がありますが、共通キー上で情報を合わせる骨格は引き戻しに近いものです。

極限を反転して得られる余極限

図式Dから一つの対象Nへ射を集めたものを余錐と呼びます。すべての余錐へ一意に射を伸ばせる普遍的な余錐の頂点が余極限です。極限のすべての射を反転した定義であり、反対圏Copにおける極限としても表せるでしょう。

反対圏と双対性を使えば、極限についての定理から余極限の定理を得られます。積に対する余積、終対象に対する始対象、等化子に対する余等化子、引き戻しに対する押し出しという対応です。

余積は混ぜずに合わせる構成

SetでAとBの余積は非交和A⊔Bです。同じ要素が両方に含まれていても、A側から来たものとB側から来たものを区別して収めます。AからCへの関数fとBからCへの関数gがあれば、A⊔BからCへの関数[f,g]が一意に定まるでしょう。

直積が「同時にAとBの情報を持つもの」を作るのに対し、余積は「A由来かB由来かを保った選択肢」を作ります。プログラミングの積型と直和型、論理の連言と選言がこの双対に対応するのも、入る射と出る射の普遍性が異なるためです。

押し出しが共通部分に沿って二つを接着する

射f: Z → Xとg: Z → Yがあるとき、押し出しX⊔ZYは、XとYをZに沿って貼り合わせる余極限です。SetではXとYの非交和を作り、f(z)とg(z)を同一視して得られます。

位相空間では、二つの空間を共通の部分空間に沿って接着する操作として現れます。円周を一点へつぶす商空間や、辺を同一視して図形を作る構成にも余極限の考え方が見つかるでしょう。「合わせる」といっても、引き戻しは条件の一致を選び、押し出しは対応する部分を同一視するため、働きは正反対です。

Hom関手が極限の普遍性を一つの式にする

図式Dへの錐全体は、頂点Nに応じて集合Cone(N,D)を作ります。Nを射で動かすと錐も合成で動くため、Cone(−,D)は反変関手です。極限Lが存在するとは、この関手がHom(−,L)によって表現可能であることにほかなりません。

つまりHom(N,L) ≅ Cone(N,D)がNについて自然に成り立ちます。極限への射と、図式への錐が一対一に対応するわけです。表現可能関手を先に理解すると、さまざまな極限の普遍性が同じ形式である理由も曖昧ではなくなるでしょう。

集合の極限は互換性を満たす要素の族

Setにおける小さな図式の極限は、各対象D(j)から一要素xjを選び、図式のすべての射に対して互換性を満たす族として作れます。まず全対象の直積を取り、射が要求する等式を満たす部分集合へ絞る構成です。

この見方から、積と等化子があれば一般の小さな極限を組み立てられることが分かります。余極限では反対に、全対象の余積を作り、図式の射が結ぶ要素を同一視します。個別の極限・余極限が、積と等化子、余積と余等化子へ分解できるわけでしょう。

極限を保つ関手と随伴の左右

関手F: C → Dが極限を保つとは、Cで極限を取ってからFで移すことと、図式をFで移してからDで極限を取ることが同型になることです。すべての関手が極限を保つわけではありません。

重要な原則として、右随伴は存在する極限を保ち、左随伴は存在する余極限を保ちます。自由関手と忘却関手の随伴で、忘却関手が積を保ち、自由関手が余積を保つことも、この一般則の例です。随伴の向きが、保存する普遍構成の向きを決めると考えられるでしょう。

完備・余完備という存在範囲の言葉

すべての小さな図式の極限を持つ圏を完備、すべての小さな図式の余極限を持つ圏を余完備と呼びます。Setはどちらでもあり、多くの代数的構造の圏にも広い範囲の極限・余極限が存在します。

ただし「すべて」には大きさの条件が必要です。圏そのものと同じほど巨大な図式まで無制限に許すと、集合論上の問題を避けられません。また、部分圏では必要な極限が外へ出てしまうこともあります。完備性は抽象的な豪華さではなく、方程式の解、積、逆極限などを圏内で作り続けられる範囲を示す性質です。

逆極限が有限段階の整合性を無限へ伸ばす

自然数nごとに対象Xnがあり、Xn+1からXnへの射が並ぶ逆系を考えましょう。その極限は、各段階の要素xnを選び、すべての遷移射に対して互換性を満たす族です。有限の近似をどの段階でも矛盾なく選べる情報が、一つの対象へ集まることになります。

p進整数は、整数をp、p²、p³で割った剰余系を互換的に選ぶ逆極限として構成できます。各有限段階は有限環ですが、その無限の整合族から通常の整数とは異なる完備な環が生まれました。極限は既存対象をまとめるだけでなく、有限情報の整合性から新しい対象を作る方法にもなるのです。

帰納極限が成長する対象を一つへまとめる

反対にX0 → X1 → X2 → …と対象が成長する順系の余極限は、各段階を一つの対象へ送り、遷移で同じになった要素を同一視します。集合の増大列なら、条件がよい場合には合併として現れます。

有限次元空間を次々に埋め込んで無限次元の対象を作る構成や、局所的な貼り合わせを拡張して全体を得る場面で使われます。逆極限がすべての段階へ投影できる整合族を集めるのに対し、帰納極限はすべての段階を受け入れる共通の行き先を作ります。この方向の差ほど、極限と余極限の働きを端的に示すものはありません。

極限と余極限が合成可能な設計を支える

極限は複数の要求を同時に満たす対象を作り、余極限は複数の部品を指定された関係に沿って統合します。この二つは、数学だけでなくデータ統合、型、遷移系、ネットワークなど、部品と制約から全体を作る場面に現れます。

圏論が提供するのは、どの分野でも同じ具体物を作る魔法ではありません。各分野で何を対象と射に選び、どの図式を作るかは別途決める必要があります。そのうえで「最も整合的に合わせる」「最も自由に貼り合わせる」という役割を、極限と余極限が共通の言葉にしてくれるのです。

参考資料

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