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鉄の船が浮く理由 浮力・平均密度・船体の安定性を解説

公開日 / 更新日

鉄の塊を水へ落とせば沈むのに、鉄や鋼でできた巨大な船は浮かびます。材料が水より軽くなったわけではありません。船体の内部に大量の空間を持たせ、水中へ押しのけた水の重さが船全体の重さと釣り合う形にしているからです。

この働きを表すのが浮力です。ただ浮くだけなら説明はそこで終わりますが、船には傾いても戻る安定性、荷物を積んでも沈みすぎない余裕、波で壊れない強度が必要です。「なぜ浮くのか」をたどると、アルキメデスの原理から船体設計までが一つにつながります。

押しのけた水の重さに等しい浮力

水中の物体には、深い側ほど大きな水圧がかかります。底面を上向きに押す力が上面を下向きに押す力を上回るため、全体として上向きの力が生まれます。この力が浮力です。

アルキメデスの原理によれば、浮力の大きさは物体が押しのけた流体の重さに等しくなります。船が水へ沈み込むほど排除する水の体積は増え、それに応じて浮力も大きくなる仕組みです。船の重さと浮力が釣り合った位置で沈み込みが止まり、船は水面に浮かびます。

一万トンの船が静かに浮いているなら、船体の水面下部分はおよそ一万トン分の水を排除しています。船の重さを「排水量」で表すのは、この関係によるものです。排水量は船内に入っている水の量ではなく、押しのけた水の重さを意味します。

浮いて静止する船では、重さと浮力がつり合う

荷物を増やすと、船はより深く沈んで多くの水を押しのけ、新しい重さと同じ浮力を得ます。

鉄の密度ではなく船全体の平均密度

鉄の密度は水より大きいため、中身の詰まった鉄球は沈みます。しかし船は、薄い鋼板で大きな空間を囲んだ構造です。船体、機関、燃料、貨物、乗員、内部の空気をすべて合わせ、その外形の体積で割った平均密度は、水より小さくできます。

アルミニウム製の空き缶を水へそっと置けば浮き、つぶして空気を追い出せば沈みやすくなります。材料の種類が変わらなくても、外形と内部空間によって平均密度が変わるためです。鉄船も同じ原理を、はるかに大きく精密な構造で利用しています。

船底に穴が開き、水が内部へ入り続けると、空気だった空間が水で満たされます。船全体の重さは増えるのに、外形が押しのけられる水の量は十分には増えません。やがて浮力との釣り合いを保てなくなり、沈むことになります。

船型が決める喫水と積載量

水面から船底までの沈み込みが喫水です。貨物を積めば船の重さが増え、より多くの水を押しのけるまで船体が沈むため、喫水は深くなります。荷を降ろしたときには、反対に浅くなります。

船側に描かれた満載喫水線は、安全に積載できる沈み込みの目安です。海水は淡水より密度が高いため、同じ船でも海水ではやや浅く、川や湖の淡水ではやや深く沈みます。水温による密度差や、季節・海域の条件も考慮されます。

幅の広い船体は、浅く沈んだ段階でも大きな体積の水を押しのけられます。細長い船体は抵抗を減らせる一方、同じ積載量を支えるには長さや深さが必要です。速さ、積載量、港の水深という要求が、船の形を決めます。

浮くことと転覆しないことは別の問題

十分な浮力があっても、船が安定しているとは限りません。船が少し傾いたとき、水中にある船体の形が変わると、浮力の中心も横へ移動します。その上向きの力が船を元へ戻す向きに働くか、さらに倒す向きに働くかが重要です。

船全体の重心が高すぎると、傾きを戻す力が弱くなります。重い貨物を上甲板へ積みすぎる、貨物が横へ移動する、浸水した水が船内で動くといった状況は、安定性を損ないます。液体が広いタンク内で移動する「自由表面効果」も、重心が高くなったような影響を与えます。

そのため船では、貨物の重量だけでなく、どこへ積むかまで計算します。バラスト水を船底のタンクへ入れて重心や喫水を調整するのも、安定した姿勢と推進性能を保つためです。

「浮く」と「傾いても戻る」は別の条件
重心 G船体と積荷を合わせた重さが下向きに働く代表点。積荷を高く積むと上がります。
浮心 B水中にある船体容積の中心。船が傾くと形が変わり、位置も移ります。
復原力傾いたときの浮力線と重力線のずれが、船を戻す回転力を生むかを確かめます。

実際の復原性は船型、重心、自由表面、風や波などで決まります。単に平均密度が水より小さいだけでは転覆を防げません。

区画分けが浸水を船全体へ広げない

大型船の内部は、水密隔壁によって複数の区画へ分けられています。一部が損傷しても、扉や隔壁が水をせき止めれば、浸水する体積を限定できます。残った区画の浮力によって、船全体が直ちに沈むのを防ぎます。

二重底や二重船殻も、外板の損傷がそのまま貨物区画や機関室への浸水につながるのを避ける構造です。ただし、区画分けには限界があります。複数区画へ水が入る、隔壁を越えて水が流れる、船体が大きく破断すると、残存浮力を失います。

タイタニック号の事故後、国際的な海上安全規則では水密区画、救命設備、無線などの要件が強化されました。浮力の原理は古くても、安全な船をつくる技術は事故調査と規則改正を通じて更新されてきたのです。

潜水艦は浮力と重さの釣り合いを変える

潜水艦も、水に浮く原理そのものは同じです。海面では浮力が重さを上回る状態を保ち、潜航するときはバラストタンクへ海水を入れて全体の重さを増やします。浮力とほぼ釣り合う中性浮力に近づければ、一定の深さを保ちやすくなります。

浮上時には圧縮空気でタンク内の海水を押し出し、重さを減らします。飛行機が翼の揚力で空中へ上がるのとは異なり、潜水艦は基本となる浮力を調整し、舵や推進力で姿勢と深度を制御します。

鉄の船が浮くのは、鉄に特別な力が働くからではありません。どれだけの水を押しのけ、その浮力をどこで受け、重心との関係をどう保つか。材料よりも船全体の形と重量配置が、水上に巨大な構造物を成立させています。

海水と淡水で変わる船の沈み方

海水には塩類が溶けているため、同じ体積なら淡水より重くなります。物体が受ける浮力は押しのけた水の重さに等しいので、同じ重さの船なら、密度の高い海水では少ない体積を押しのければ釣り合います。その結果、海では浅く、川では少し深く沈みます。

貨物船の船側にある満載喫水線には、海水、淡水、熱帯、夏季、冬季などの条件に応じた複数の印があります。水温が上がれば密度は下がり、荒天の多い冬には乾舷の余裕を大きく取る必要があります。一本の線だけで世界中の安全な積載量を決められないためです。

川港で貨物を積み、海へ出る船は、海水へ入ると少し浮き上がります。この変化を見込んで積載を管理しますが、川で許容線を越えてよいという意味ではありません。浮力は目に見えない一定値ではなく、船体が置かれた水の密度によって変わるのです。

鋼板が薄くても船体全体で力を受ける構造

大型船の船殻は、厚い鉄の塊を削って作るのではありません。鋼板を骨組みに取り付け、甲板、側面、船底が一体となった箱形の梁として波の力を受けます。船首と船尾が別々の波頂に乗る場合と、中央だけが波頂に乗る場合では、船体を曲げる向きが反対になります。

船が浮いていても、長い船体には自重、貨物、浮力が場所ごとに異なって作用します。荷重の偏りが大きければ、船体中央へ強い曲げが生じます。積み付け計画では安定性だけでなく、縦方向の曲げモーメントやせん断力も確認します。

鉄船が成立するのは、空洞によって平均密度を下げるからだけではありません。その大きな空洞を、波と荷重の中で形を保てる構造にしているためです。浮力、安定性、強度の三つがそろって、初めて実用の船になります。

船が大きいほど浮きやすいわけではない

船体を大きくすれば押しのけられる水も増えますが、材料と貨物の重さも増えます。寸法を二倍にすると体積はおおむね八倍になる一方、板厚や構造は単純な相似形のままでは必要強度を保てません。大型化には独自の設計条件があります。

また、平底の箱でも静水上では浮かべられますが、波の中を効率よく進み、風や旋回に耐えるとは限りません。船首形状、船尾、プロペラ周り、乾舷は、抵抗、耐航性、操縦性と関係します。浮くという最低条件から、安全に目的地へ運ぶ船までには、多数の工学的な選択があるのです。

参考資料

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