グランドキャニオンの崖には、何億年も前の岩石が重なっています。では、この巨大な谷も同じくらい古いのでしょうか。答えは、岩石の年代と谷の年代を分けるところから始まります。
岩石は、谷が掘られる前からそこにありました。古い岩石の重なりを、後にコロラド川や支流、斜面の崩壊などが削って露出させたのが、現在の景観です。「材料ができた時期」と「形ができた時期」が違うため、グランドキャニオンには複数の時間が同時に現れているのです。
谷の壁になる前、岩石は海や砂丘で生まれた
グランドキャニオンの地層には、かつての海、海岸、砂丘など、異なる環境でたまった物質が含まれています。砂は砂岩、泥は泥岩などへ変わり、海の生物の殻などに由来する炭酸カルシウムは石灰岩の材料になります。
現在の乾燥した景色だけから、岩石ができた環境を想像することはできません。ある時代には海が広がり、別の時代には陸地で砂が移動していたという、環境の変化が地層に残りました。
深部には、さらに古い変成岩や火成岩が露出しています。見えているすべての帯が、同じ海で順番に堆積したものではありません。谷の底に近づくほど古い歴史へさかのぼれますが、岩石の種類とでき方には大きな違いがあります。
岩石をつくった時間と、谷を掘った時間
国立公園局は、グランドキャニオンに約20億年に及ぶ岩石の記録があることを紹介しています。一方、現在につながるコロラド川の流れが下流まで統合された時期は、約500万〜600万年前という年代が重要になります。
二つの数字が食い違うのは、同じ出来事を測っていないからです。約20億年という長さは露出する岩石の来歴であり、谷が約20億年前から同じ深さで存在したという意味ではありません。
期間の長さを縮尺で示した図ではありません。古い谷の区間など、現在の川が統合する以前の歴史もあります。
ただし、「谷は600万歳」と言えばすべてが決まるわけでもありません。以前から存在した谷や河川がつながり、現在の水系になった過程があり、場所によって前史は異なります。古い区間の存在と、新しい統合の年代は両立するのです。
硬い岩盤を削る水と、斜面を広げる崩壊
川が谷を掘る際には、水そのものの作用に加え、運ばれる砂や礫が川底を削ります。岩盤の割れ目や柔らかい部分も、削られやすさに影響します。ゆっくり流れる水が一様に石を溶かし続けた、というだけの過程ではありません。
細い主流だけが、谷全体の幅を直接削ったわけではありません。川が下へ掘り込んで周囲との高低差が生まれると、雨水や支流による侵食、岩石の風化、落石や斜面崩壊も加わり、谷は横へと広がっていきました。
崖が段々になっているのは、地層ごとの強さや崩れ方が違うためです。硬い層は急な壁として残りやすく、弱い層は削られて比較的緩い斜面になりやすい。同じ風雨にさらされても、岩石の性質によって地形の応答が変わります。
地層の境目にある、積もらなかった時間と失われた時間
地層は、毎年一枚ずつ欠けずに増える記録ではありません。ある場所で堆積が止まることもあれば、いったん積もった層が削られることもあります。その後に新しい地層が重なると、境界に長い時間の空白が残ります。
このような不連続な関係を不整合と呼びます。グランドキャニオンで知られる大不整合では、場所によって非常に長い地質時代の記録が欠けています。見えている二つの層が直接触れていても、年代まで連続しているとは限りません。
厚さがわずかな境界に、厚い地層より長い時間が隠れていることもあるため、厚みをそのまま年数の物差しにはできません。岩壁に積み重なった記録と、削られて失われた記録の両方を考慮して、地質学者は過去を復元しています。
川の年代を挟み込む、溶岩と河原の礫
岩石なら放射性元素などを使って年代を調べられますが、谷は削られてできた空間です。「谷そのものの石」を採って誕生日を測ることはできません。そこで、川が存在する前後の堆積物や溶岩との関係を利用します。
たとえば、川が運んだ礫の上を、年代の分かる溶岩が覆っていれば、その溶岩が流れた時点には川が存在していたことになります。反対に、以前の湖の堆積物などから、まだ現在の川が通っていなかった時期を検討できます。
国立公園局は、約440万年前のサンディポイント玄武岩の下に河川の礫があることなどを、コロラド川の年代を考える手掛かりとして紹介しています。単独の数値で決めるのではなく、「この時期より前」「この時期には存在」という証拠で範囲を狭める方法です。
海への出口が変える、川の削り込める高さ
川の侵食の下限を左右する、大きな湖や海などの高さを基準面と呼びます。下流への接続が変わって低い出口へ通じると、上流側にも新しい掘り込みが及ぶ可能性があるので、谷の形成をその場所だけで説明することはできません。
現在のコロラド川の成立では、カリフォルニア湾へ通じる下流の形成と、上流・下流の接続が重要です。高原が隆起したことだけでなく、運ばれた土砂と水がどこへ出ていくかも、谷の歴史にかかわっています。
グランドキャニオンは、古い地層を並べた巨大な壁ではありません。さまざまな時代の岩石、途中で失われた記録、後からつながった川が、一つの景観に重なっています。その壮大さは深さや幅だけでなく、隣り合う岩の間にさえ大きな時間差があることにも宿っています。