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アタカマ砂漠はなぜ海の隣なのに乾燥するのか 寒流・山脈・霧の関係

公開日

チリ北部のアタカマ砂漠は、太平洋に面しているのに、世界でも特に雨の少ない地域です。すぐ隣に大量の海水があるなら、蒸発した水が雲になり、雨を降らせそうにも思えます。ところが、海に近いことと、雨雲が発達しやすいことは同じではありません。

乾燥の理由は、海からの距離だけでは説明できません。アンデス山脈、沖の冷たい海流、上空の大気の状態が重なり、海の隣にも砂漠が広がっています。しかも、その海岸には湿った霧が流れ込むのです。

東から来る水分を遮るアンデス山脈

南アメリカの西側には、南北に長いアンデス山脈がそびえています。大陸内部の湿った空気が西へ進むとき、この高い山地をそのまま通り抜けることはできません。山に沿って持ち上げられた空気は冷え、水蒸気の一部が凝結して雲や降水になります。

山の反対側へ下る空気は圧縮されて暖まり、相対湿度が低下するため、風上と同じようには雨を降らせません。この雨陰という作用によって、アンデスは東側からアタカマへの水分供給を制限しています。

ただし、山脈のどこでも同じ風が吹くわけではなく、季節や高度による違いもあります。山の上や高原に雨や雪があることと、その西側の低い砂漠が極端に乾いていることは矛盾しません。

雨を少なくする三つの条件
東側:アンデス山脈が水分の流入を妨げる雨陰
西側:冷たい海低い空気を冷やし、逆転層の形成に関係
上空:下降する空気大気を安定させ、雨雲の発達を抑える

海岸に霧が生じても、雨雲が高く成長するとは限りません。各要因の強さは場所や季節によって異なります。

太平洋の水が、雨雲を育てるとは限らない理由

アタカマの沖には、冷たい水を運ぶフンボルト海流の影響があります。冷たい海面に接する空気は冷やされますが、その上により暖かい空気があると、下の空気が勢いよく上昇しにくくなります。

高度とともに気温が上がるような層を、逆転層と呼びます。下の冷たい空気を押さえるふたのように働くので、湿った空気があっても上昇を続けられず、雨を多く降らせる厚い雲へは成長しにくいのです。

海があれば必ず大量の雨になる、という関係ではありません。水蒸気の供給に加えて、空気がどこまで上昇できるかが重要です。ヨーロッパ南天天文台も、冷たい海流による海岸の逆転層を、この地域で雨雲が発達しにくい要因に挙げています。

沈み込む空気が乾燥を強める亜熱帯の位置

アタカマの乾燥は、海流と山だけで完結する話ではありません。南東太平洋の亜熱帯高気圧に伴う下降流も、大気を安定させます。下降する空気は圧縮されて暖まり、雲が発達しにくい条件をつくります。

地表近くに冷たい海の空気、その上に暖かく乾いた空気があれば、上下の混ざりにくさが強まります。海からの湿気が存在しても、大きな雨雲になる道筋が塞がれやすいのです。

砂漠ができる条件は、単なる「水の不足」ではなく、水分が運ばれる経路と雲の育ち方の問題でもあります。アタカマでは、大陸の山並みと海洋、大規模な大気循環が、同じ場所を乾かす側に働いています。

雨が降らなくても、海岸に霧がかかる仕組み

冷えた空気が水蒸気を抱えきれなくなると、小さな水滴が生じます。地面付近に浮かぶその水滴が霧です。霧ができること自体には、高い積乱雲のような大きな上昇運動は必要ありません。

このため、海岸に霧や低い雲があるのに、内陸では雨がほとんど降らないという景観が生まれます。霧の水滴は、植物の表面や岩、地面などに付着し、限られた場所で生物が利用する水になります。霧の分布は地形や風、高さに左右され、砂漠全体を均等に潤すわけではありません。

NASAが紹介するラス・ロミタスの研究では、霧や低層雲と生物土壌クラストの水分供給との関係が扱われています。雨量計で測る雨の量だけでは、生き物に届く水のすべてを数えられないことが分かる例です。

「雨が少ない」と「雨が絶対に降らない」の違い

アタカマは一枚岩の気候地域ではなく、海岸、内陸、高地で条件が違います。NASAは、ごく少量の雨しか受けない場所がある一方、例外的な降雨で植生が増える現象も紹介しています。平均が極端に小さくても、まれな雨がなくなるわけではありません。

2019年の衛星画像では、まとまった雨の後に、普段は乾いた景観が緑に変わった様子が確認されました。また、天文台のある地域でも雪が観測されています。「地球で最も乾いた場所」という印象だけでは、こうした変化を見落としてしまうでしょう。

極端に少ない平均降水量は、少しずつ毎年同じ雨が降ることを意味しません。ほとんど降らない期間と、例外的な雨の組み合わせでも、長期平均は小さくなります。普段の乾燥と、一度の強い降水は分けて考える必要があります。

天文台が多い高地と、霧のかかる海岸の違い

アタカマに世界的な天文観測施設が集まったのも、乾いた空気や晴天の多さと無関係ではありません。宇宙から届く赤外線や一部の電波は水蒸気に吸収されるため、水分の少ない大気は観測に有利なのです。

とはいえ、海岸の霧の中に望遠鏡を置けばよいわけではありません。観測施設では、高度、雲、風、大気の揺らぎなどを含め、適した地点が選ばれています。同じアタカマという名前でも、低い海岸と高い観測地では空の条件が違います。

隣に海があり、海岸には霧が出て、高地には乾いた空が広がる。アタカマの極端な景観は、水が存在するかどうかではなく、水がどの高さを通り、どんな形で地上へ届くかによって生まれているのです。

参考資料

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