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メルカトル図法でグリーンランドが大きく見える理由 世界地図の歪み

公開日 / 更新日

一般的な世界地図では、グリーンランドが南アメリカ大陸と同じくらいの大きさに見えることがあります。しかし実際の面積は、南アメリカの約8分の1にすぎません。地図が間違っているのではなく、球体の地球を長方形へ移すときに生じる「投影」の性質が、両者の見かけを変えているのです。

この違いを生む代表的な図法が、メルカトル図法です。方角を扱いやすい一方、赤道から離れるほど面積を大きく引き伸ばします。グリーンランドだけでなく、カナダ北部、ロシア、南極大陸が巨大に見えるのも、同じ仕組みによります。

グリーンランドは南アメリカの約8分の1

米国地質調査所(USGS)は、メルカトル図法の典型的な歪みとして、グリーンランドが南アメリカより大きく見える例を挙げています。実際には、グリーンランドの面積はおよそ216万平方キロメートル、南アメリカは約1780万平方キロメートルです。形を眺めるだけでは、これほどの差を感じにくいでしょう。

赤道に近いアフリカ大陸も、横長の世界地図では実際の広さより控えめに見えがちです。アフリカはグリーンランドの約14倍の面積を持ちますが、地図によっては数倍ほどにしか見えません。大陸の大きさを比較する目的では、メルカトル図法の見た目をそのまま信じられないのです。

一方、グリーンランドの形だけに注目すると、輪郭は比較的自然に見えます。ここにメルカトル図法の重要な特徴があります。小さな範囲の角度や形を保つ代わりに、場所によって縮尺を変えているのです。

実際の面積を同じ尺度で比べる
アフリカ約3,037万km²
南アメリカ約1,784万km²
グリーンランド約216万km²

数値は概数です。メルカトル世界地図の見かけではなく、実面積を横棒の長さで比較しています。

球面を長方形に広げると避けられない歪み

オレンジの皮を切らずに一枚の長方形へ平らに延ばそうとすれば、どこかが裂けるか、伸びるか、重なります。地球の表面を地図へ移す作業にも、よく似た制約があります。球面の距離、方角、面積、形を、平面上ですべて同時に正しく保つことはできません。

地図投影とは、この避けられない歪みをどこへ配分するかを決める方法です。面積を正しく比べやすい図法もあれば、中心からの距離を重視する図法、方角を使いやすくする図法もあります。地図には用途があり、その用途に合わせて何を守り、何を変形させるかが選ばれます。

したがって、「最も正しい一枚の世界地図」は存在しません。地球儀なら球面の関係を保てますが、全世界を一度に見渡したり、紙へ印刷したりするには不便です。平面地図の便利さは、一定の歪みを引き受けることで成り立っています。

緯度が高いほど拡大されるメルカトル図法

メルカトル図法では、経線を等間隔の縦線、緯線を横線として表します。もし緯線も等間隔のままなら、高緯度では東西方向だけが引き伸ばされ、形が横長につぶれてしまいます。そこで南北方向も同じ割合で広げ、局所的な角度と形を保つようにしました。

この拡大率は極へ近づくほど急激に高まります。赤道付近では比較的小さかった歪みが、北欧やカナダの緯度で目立ち始め、極では理論上無限大になります。そのため、完全な北極点や南極点を通常のメルカトル世界地図へ描くことはできません。

グリーンランドは北緯60度から80度を超える高緯度に広がっています。大部分が強く拡大される位置にあるため、赤道をまたぐ南アメリカよりも、見かけ上は著しく大きくなるわけです。国の面積そのものより、地図上の緯度が拡大の度合いを左右します。

メルカトル図法は高緯度ほど同じ距離を大きく描く
赤道 0度長さの拡大率は基準の約1倍。
緯度60度東西・南北とも約2倍。面積は約4倍に見える。
緯度80度長さは約5.8倍。面積は約33倍に達する。

球面上の小さな範囲を比べた理論上の局所拡大率です。極へ近づくほど拡大率は急増します。

航海で重宝された「一定の方角が直線になる」性質

大きさを歪める地図が広く使われたのは、欠点が知られていなかったからではありません。ゲラルドゥス・メルカトルが1569年に発表した地図は、一定の方角を保って進む航路を直線で引けるという、航海上の大きな利点を持っていました。

船が羅針盤で同じ方位を保つ経路は「等角航路」と呼ばれます。メルカトル図法では、この線が地図上の直線になります。航海者は出発地と目的地を線で結び、その線と経線の角度を測れば、進む方位を決められました。帆船の時代にとって、実用性の高い設計だったのです。

ただし、一定方位の航路が球面上の最短距離とは限りません。長距離の航空路などで使われる大圏航路は、メルカトル図法では曲線に見えます。方角を保つ便利さと、距離や面積を正しく示すことは、別の要求なのです。

面積比較には正積図法、位置関係には地球儀

国や大陸の広さを比べたい場合は、面積の比率を保つ「正積図法」が適しています。形には歪みが出ますが、同じ面積の土地を同じ広さで表せるため、人口密度、森林面積、土地利用などの分布図に向いています。

中心から各地への距離や方角を見たいなら、正距方位図法が役立つ場合があります。国連の紋章に使われる北極中心の図に似た投影です。ただし、この図法も中心以外の地点同士の距離まで正しいわけではありません。名前に含まれる「正距」が、あらゆる距離を保証するとは限らない点に注意が要ります。

大陸の位置と大きさを直感的につかむには、地球儀が最も素直です。平面地図を使うなら、目的の異なる図法を見比べることで、一枚の地図が作った印象から離れられます。グリーンランドの大きさは、図法の個性を知るための格好の入口なのです。

世界地図がつくる「大国」の印象

面積の歪みは、単なる作図上の話にとどまりません。高緯度の国々が大きく、赤道付近の地域が小さく描かれれば、世界の勢力や重要性について無意識の印象を与えることがあります。地図が政治的な意図で作られていなくても、投影法の選択によって見え方は変わります。

だからといって、メルカトル図法を「誤った地図」と退けるのも適切ではありません。ウェブ地図で広く使われるのは、北を上にした正方形のタイルへ分割しやすく、拡大・縮小や方角の把握に都合がよい面があるからです。世界全体を面積比較する場面と、街路を移動する場面では、地図に求める役割が異なります。

重要なのは、描かれた形を地球そのものと思わないことです。グリーンランドが巨大に見えたなら、まず位置と図法を確かめる。その一手間で、地図は結論を受け取る画面から、世界の表し方を考える道具へ変わります。

ウェブ地図が採用するWebメルカトルの長所と限界

オンライン地図の多くは、メルカトル図法をコンピュータ向けに調整したWebメルカトルを採用しています。世界を正方形の画像タイルへ分け、拡大率に応じて必要な部分だけ配信しやすいことが大きな理由です。北を上にしたまま街路の角度を保ちやすく、画面を滑らかに移動させる用途にも向いています。

ただし、地球を厳密な回転楕円体ではなく球として扱う近似を含み、南北約85度より極側は表示できません。街角の案内では実用上の利点が勝りますが、世界規模の距離や面積を測る画面としては限界があります。ウェブ上で見慣れていることと、あらゆる比較に適していることは同じではありません。

歪みを目で確かめる方法に、同じ大きさの小さな円を地図全体へ並べる「ティソーの指示楕円」があります。メルカトル図法では円の形は保たれる一方、高緯度ほど巨大になります。グリーンランドの錯覚は例外的な失敗ではなく、地図全体で規則的に増える拡大の一部だとわかります。

参考資料

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