ニュースでは「イギリス」、スポーツでは「イングランド」、英語表記ではUnited KingdomやGreat Britain。似た名称がいくつも現れますが、指している範囲は同じではありません。最も大きな区分である英国は、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの四地域から成ります。
グレートブリテンはそのうち最初の三地域がある島、イングランドは四地域の一つです。さらに、王室属領や海外領土は英国本体とも別の位置づけを持ちます。名称の重なりは、島の地理と、数世紀にわたる国家統合の歴史から生まれました。
英国を構成する四つの地域
United Kingdomの正式名称は、United Kingdom of Great Britain and Northern Irelandです。日本語では「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」と訳され、一般には英国またはイギリスと呼ばれます。
構成するのは、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドです。英国政府や英国国家統計局は、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドをcountryと表記することがあります。ただし、国際連合にそれぞれが別々の主権国家として加盟しているわけではありません。外交上の国家は英国です。
四地域には、教育、法制度、行政などに違いがあります。スコットランド、ウェールズ、北アイルランドには権限移譲された議会や政府があり、その権限の範囲も同一ではありません。単なる地方名の言い換えではなく、歴史と制度を持つ構成単位なのです。
グレートブリテンは三地域が載る島の名前
Great Britainは、ヨーロッパ北西部にある大きな島を指します。島にはイングランド、スコットランド、ウェールズがあり、北アイルランドは含まれません。北アイルランドは、西隣のアイルランド島の北東部に位置します。
したがって、英国全体をGreat Britainと呼ぶと、北アイルランドが抜けます。ただし、日常語や団体名ではBritainが英国全体の略称として使われることもあり、文脈によって地理名と国名の境界は曖昧です。公的な統計や制度を扱う場面では、範囲を確かめたほうが確実でしょう。
「Great」は政治的な優劣を示す称号ではなく、フランス北西部のブルターニュと区別する歴史的な呼び方に由来します。島の名前がのちの国家名へ組み込まれたため、地理と政治の二つの意味が重なっています。
イングランドは英国最大の構成地域
イングランドは、グレートブリテン島の南部から中央部を占め、英国人口の大半が暮らす地域です。首都ロンドンもイングランドにあります。この規模と政治的な存在感のため、外国ではEnglandが英国全体の意味で使われることがあります。
しかし、スコットランドのエディンバラ、ウェールズのカーディフ、北アイルランドのベルファストは、いずれもイングランドではありません。英国人全員をEnglishと呼べば、Scottish、Welsh、Northern Irishという帰属意識を無視することになります。
スポーツでは違いがいっそう目立ちます。サッカーやラグビーでは、四地域が別の代表チームを持つ競技があります。一方、オリンピックではTeam GBの名で英国の選手団が参加します。名称が競技ごとに変わるのは、スポーツ組織の成立史と国際大会の制度が異なるためです。
グレートブリテンは島の地理名です。北アイルランド、王室属領、海外領土を含む範囲とは一致しません。
1707年に成立したグレートブリテン王国
現在の区分は、一度にできたものではありません。ウェールズは16世紀の法整備を通じてイングランドの法と議会制度へ統合されました。1603年には、スコットランド王ジェームズ6世がイングランド王ジェームズ1世を兼ね、二王国が同じ君主を戴く同君連合になります。
それでも、イングランド王国とスコットランド王国は別々の議会を持つ国家でした。1707年の合同法によって両議会が統合され、グレートブリテン王国が成立します。島の地理名が、統合国家の名称になった瞬間です。
1801年にはアイルランド王国との合同で、グレートブリテン及びアイルランド連合王国となりました。その後、アイルランドの大部分が独立し、1920年代に現在の北アイルランドを含む名称へ移ります。正式国名が長いのは、統合と分離の経過を記録しているからなのです。
王室属領は英国の一部ではない
グレートブリテン島とアイルランド島の周辺には、マン島、ジャージー、ガーンジーがあります。これらは英国の一部ではなく、王室属領です。英国王を君主としながら、独自の議会、法律、税制度を持っています。
英国政府は防衛や国際関係について一定の責任を負いますが、王室属領は英国議会の一般的な立法範囲にそのまま入るわけではありません。地図では英国の近くに小さく描かれるため、単なる離島だと思われがちですが、憲法上の関係は独特です。
ジブラルタル、バミューダ、フォークランド諸島などの英国海外領土も、英国本体とは区別されます。王室属領とも同じ制度ではありません。「英国に関係する領域」を一色に塗るだけでは、それぞれの統治関係を表せないのです。
国旗ユニオン・フラッグに重なる統合の歴史
英国旗は一般にユニオン・ジャックとして知られますが、公式にはユニオン・フラッグとも呼ばれます。イングランドを表す聖ジョージの赤い十字、スコットランドを表す聖アンドリューの白い斜め十字、アイルランドを表す聖パトリックの赤い斜め十字が重ねられています。
ウェールズの竜が入っていないのは、現在の四地域の重要度に差をつけたためではありません。最初の連合旗が作られた時点で、ウェールズはすでにイングランド王国へ統合されており、独立した王国として旗の組み合わせに加わらなかったためです。
旗の図柄も、現代の地理区分を単純に並べたものではなく、国家形成の時系列を残しています。国名、代表チーム、議会、旗を一緒に見ると、現在の英国が一枚岩として突然成立したのではないことがわかります。
場面によって変わる正しい呼び分け
国家全体ならUnited KingdomまたはUK、島の地理ならGreat Britain、四地域の一つならEnglandというのが基本です。日本語の「イギリス」は通常、英国全体を指す慣用名として問題なく使えます。
ただし、スコットランドの制度をイングランドの制度として説明したり、北アイルランドをグレートブリテンへ含めたりすると、事実上の誤りになります。ニュースで教育、選挙、裁判、医療制度などを扱う場合は、英国全体の話か、特定地域の話かを見分ける必要があります。
呼び名が多いのは、整理が不十分だからではありません。海峡で分かれた島々、別々だった王国、段階的な統合、現在の権限移譲が、それぞれの名称に残っています。言葉を分けることが、そのまま歴史を分けて考えることにつながるのです。