本文へ移動
世界と暮らしの疑問を整理する知識ポータル
世界・国際理解

オランダとホラントの違い 国名・地域名・王国の範囲を整理

公開日 / 更新日

オランダを英語で紹介するとき、NetherlandsとHollandという二つの呼び方に出会います。日本語の「オランダ」は国全体を指しますが、Hollandは本来、その国を構成する一部の地域名です。両者を完全な同義語とすると、東京都を日本全体の別名にするようなずれが生じます。

それでもHollandが国名のように広まったのは、この地域が長く政治、経済、海外交易の中心だったからです。さらに、国としてのオランダと、カリブ海の領域を含む「オランダ王国」も同じ範囲ではありません。名称の違いをたどると、海洋国家の歴史と現在の統治構造が見えてきます。

ホラントは12州のうち二つの地域

現在のオランダは12の州から成り、その中に北ホラント州と南ホラント州があります。この二州を合わせた地域がHollandです。アムステルダムは北ホラント州、ロッテルダムと政治の中心デン・ハーグは南ホラント州に位置します。

国の東部にあるヘルダーラント州や南部の北ブラバント州、北海に面したフリースラント州などは、オランダの一部ではあってもホラントではありません。したがって、オランダ人全員をHollanderと呼べば、地域によっては違和感を持たれます。

公式な国名に当たるNederlandは、直訳すれば「低い土地」です。国土の多くが低地にあり、干拓や堤防、水管理によって形づくられてきた地理をよく表しています。複数形のThe Netherlandsという英語名にも、歴史上の低地地方をまとめた呼び方の名残があります。

海外交易の中心だったホラントの存在感

Hollandが国全体の代名詞になった背景には、17世紀のオランダ共和国で同地域が持った圧倒的な影響力があります。アムステルダムを擁するホラント州は、人口、税収、貿易、金融の中心でした。東インド会社を通じた海外交易でも、ホラントの都市や商人が大きな役割を果たします。

外国の商人や船員が接する「ネーデルラント」は、しばしばアムステルダムやロッテルダムなどホラントの港でした。そのため、最も目立つ地域名が国全体を表す通称として定着します。イングランドを英国全体と呼んでしまう現象に似ていますが、両者の政治的な構造は同じではありません。

現在でも、観光やスポーツの場面でHollandという語を見かけます。覚えやすく、長く国際的に流通した名称だからです。ただし、政府機関や公的な表記ではNetherlandsが基本となります。通称として通じることと、地理的に正確であることは分けて考える必要があります。

日本語の「オランダ」はポルトガル語に由来

日本語ではNetherlandsを「オランダ」と呼びます。この語は、16世紀以降に来航したポルトガル人を通じ、Hollandに由来する呼び方が伝わったものです。江戸時代に交流したオランダ商人の活動もあり、「オランダ」が国名として定着しました。

つまり、日本語の正式な通称そのものが、歴史的には一地域の名を受け継いでいます。英語でNetherlandsとHollandを使い分ける必要があっても、日本語で国を「オランダ」と呼ぶことが誤りになるわけではありません。日本語に定着した国名と、現代英語の地域区分は別の問題です。

漢字では「和蘭」「阿蘭陀」などと書かれ、「蘭」という一字が略称になりました。「日蘭関係」「蘭学」といった語に残る蘭も、同じ由来です。国名が言語を越える過程で、音と指す範囲が変わった好例といえるでしょう。

「オランダ」と「オランダ王国」は同じ範囲ではない

現在のオランダ王国は、オランダ、アルバ、キュラソー、シント・マールテンという四つの「国」から構成されます。ここでいう国は、王国の内部で自治を持つ構成国です。国際法上の主権国家として王国と対等に四か国が並ぶ、という意味ではありません。

最大の構成国であるオランダには、ヨーロッパ本土だけでなく、カリブ海のボネール、シント・ユースタティウス、サバも含まれます。この三島は「カリブ・オランダ」と呼ばれ、オランダ国内の特別自治体に近い公的団体として位置づけられています。

一方、アルバ、キュラソー、シント・マールテンは、それぞれ独自の政府を持つ王国の構成国です。外交や防衛など王国全体の事項と、各構成国が担う内政が分かれています。ヨーロッパの地図だけを見ていると、現在の王国がカリブ海へ広がる構造を見落としやすいのです。

王国・国・ホラントは指す範囲が異なる
オランダ王国

オランダアルバキュラソーシント・マールテン
国としてのオランダ:12州

北ホラント州南ホラント州そのほか10州

ホラントは現在の国全体ではなく、北ホラント州と南ホラント州を中心とする歴史的地域名です。

アムステルダムが首都、デン・ハーグが政治の中心

名称だけでなく、首都にも一見不思議な分担があります。オランダ憲法が首都として扱うのはアムステルダムですが、議会、中央官庁、首相府、最高裁判所などはデン・ハーグに置かれています。外国の大使館も多くがデン・ハーグにあります。

アムステルダムは歴史的・象徴的な首都であり、国王の即位式も行われます。デン・ハーグは中世以来、統治機関が集まった行政の中心です。首都という一語が、政府所在地と必ず一致するとは限らない例でしょう。

国際司法裁判所や国際刑事裁判所があるため、デン・ハーグは国際法の都市としても知られます。アムステルダムだけを見てオランダの政治を考えると、都市ごとに分かれた役割を取り逃します。

国名、地域名、王国名を分ける三つの範囲

整理すると、Hollandは北ホラント州と南ホラント州、Netherlandsは12州とカリブ海の三つの公的団体を含む構成国、Kingdom of the Netherlandsはさらに三つのカリブ海構成国を加えた王国です。三つの語は、歴史的に重なりながらも同じ範囲ではありません。

旅行の行き先を話す程度ならHollandでも通じます。しかし、行政、スポーツ代表、国際関係、カリブ海地域を扱う場面では、どの範囲を指すかが重要になります。名称を正確に分けることは、細かな言葉遣いへのこだわりではなく、複数の地域と統治単位を混同しないために必要なのです。

一地域の名が海外で国名として広まり、日本語では正式な通称になり、現在の王国は海を越えた構成を持つ。オランダという短い国名の中には、交易と言語と統治の異なる歴史が折り重なっています。

Dutchという形容詞がHollandを避ける理由

英語では、オランダの人や言語をDutchと表します。Netherlandishという語も美術史などで使われますが、日常の国民名・言語名はDutchです。国名Netherlandsとも地域名Hollandとも形が違うため、初学者には結びつきにくいでしょう。

Dutchは、もともと「民衆の言葉」を示すゲルマン系の語に由来し、かつて英語ではドイツ語圏や低地地方の人々を今より広く指しました。その範囲が狭まり、現在のオランダ人とオランダ語を表す語として定着します。ドイツ語が自らをDeutschと呼ぶのも、遠い語源を共有するためです。

Hollandを使わずDutchと言えば、北・南ホラント州だけでなく国全体を表せます。ただし、王国のカリブ海構成国にはそれぞれの言語と帰属意識があり、Dutchだけで王国全体の文化を一括りにはできません。名称の範囲を意識すると、国民名にも地域の多層性が見えてきます。

参考資料

関連する疑問

同じ分類の近い疑問へ進む