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ヒマラヤ山脈はなぜ高いのか 大陸衝突とエベレストに残る海の化石

公開日

世界最高峰のエベレスト。その山頂付近の岩石が、もとは暖かい浅い海でできた石灰岩だったと聞くと、海が山の高さまで上がったように感じるかもしれません。実際に大きく動いたのは、海面よりも岩石の側でした。

ヒマラヤ山脈をつくった主役は、北へ移動してきたインドとユーラシアの衝突です。ただし、二つの大陸が一度ぶつかり、その瞬間に山が完成したわけではありません。地殻が押し縮められ、重なり、侵食される変化が数千万年にわたって続いた結果、現在の山脈が形づくられました。

アジアの南に接近した、かつてのインド大陸

現在の地図では、インドはアジアから南へ突き出した半島に見えます。しかし、その位置は地球の長い歴史の中で固定されていたものではありません。インドを載せたプレートは、南半球の巨大大陸ゴンドワナの分裂後、北へ移動してきました。

プレートとは、地殻とその下の硬い部分を含む、地球表面の大きな岩盤です。その縁が大陸の海岸線と重なるとは限らず、一枚のプレートに陸地と海底が載ることもあるため、インドの移動も半島だけが海上を滑った現象ではありません。

インドとアジアの間には、テチスと呼ばれる海が広がっていました。接近が進むにつれ、その間の海洋の部分が沈み込み、海が狭まっていきます。大陸同士の衝突が本格化した時期は、おおむね5000万年前前後。何を衝突の開始とするかによって研究上の年代には幅があり、一日の出来事のような境目を決めることはできません。

横からの圧縮が、地殻の厚みに変わる仕組み

海洋地殻に比べ、大陸地殻は平均的に密度が低く、厚いという特徴があります。大陸同士が近づいても、一方が丸ごと簡単に深部へ沈んで消えるわけではありません。岩盤は断層に沿って重なり、褶曲と呼ばれる曲がりも生じ、横方向に縮められていきました。

床に広げた厚い布を両側から押すと、しわが寄って盛り上がります。横幅を縮めた分が厚みに変わる、と考えるとイメージしやすいでしょう。ただし、地下の変形は布のしわほど単純ではなく、インド側の岩盤の一部がチベット側へ低い角度でもぐり込むなど、立体的に進んでいます。

大陸衝突と地殻の厚み
大陸が接近し、山脈の上方と地下の両方へ地殻が厚くなる模式図

変形の関係を示す概念図です。特定地点の地下断面や縮尺を再現したものではありません。

厚くなった地殻は、地表の上だけに積み上がるのではなく、地下にも深い部分を持ちます。ヒマラヤの南北を切った断面を考えると、山の高さだけでは衝突の規模を捉えきれません。背後のチベット高原を含め、広い範囲の地殻がつくり替えられてきたのです。

エベレスト山頂に残る、約4億5000万年前の海

国際地質科学連合の地質遺産資料は、エベレスト山頂の石灰岩を、約4億5000万年前の暖かい浅海で堆積した岩石として紹介しています。そこには海の生物の化石も含まれていますが、生物が標高8000メートルを超える場所で暮らしていたという意味ではありません。

生物の殻や海底にたまった物質が岩石となり、その岩石が後の地殻変動で持ち上がりました。「化石の生物が生きていた時代」と「岩石が今の高さへ運ばれた時代」の間には、非常に長い隔たりがあります。

約4億5000万年前の海の堆積物と、約5000万年前前後に本格化した大陸衝突。この二つの数字を並べると、ヒマラヤは山脈ができるよりはるか前の岩石を材料にしていることが分かるでしょう。古い岩石が、そのまま古い山を意味するわけではないのです。

火山の噴出物では説明できない、衝突型の山脈

日本では高い山と火山が結び付きやすいため、ヒマラヤにも巨大な噴火を想像しがちです。しかし、富士山のように火口から出た溶岩や火山灰が積み上がる過程と、エベレストを含むヒマラヤの主要な峰々が高くなる過程は異なります。

ヒマラヤで重要なのは、既存の地層や岩体が圧縮され、断層を介して積み重なる作用です。地中で熱や圧力を受けて変質した岩石もあり、山脈全体の地質は一種類ではありません。「火山ではない」からといって、地下で熱の影響がなかったともいえないでしょう。

山の形や高さが似ていても、材料がどこから来たかは別問題です。地表に新しい物質を積む火山と、古い地殻を厚くする衝突。地球には、異なる方法で高い地形をつくる仕組みがあります。

隆起と侵食が同時に進む、未完成の山脈

インドとユーラシアの接近は、今も続いています。ただし、プレートが近づく速さをそのまま山頂の上昇速度に置き換えることはできません。動きの一部は地殻の圧縮や断層運動、広い地域の変形に使われるからです。

山を低くする働きも止まってはいません。雨水や河川が岩を削り、氷河が谷を広げ、崩れた物質が斜面を下ります。山頂の標高は、地殻変動による上向きの変化と、侵食による除去などが重なった結果です。

侵食で上に載っていた物質が減ると、地殻の重さのつり合いも変わります。地下にあった岩石が地表へ近づく過程と、山頂自体が高くなる過程も、完全に同じではありません。山の「成長」は、ものさし一本で表すには複雑な現象なのです。

山頂の高さと、岩石の来歴が示す別々の時間

ヒマラヤの高い峰は、大陸が衝突した力を目に見える形にしています。一方、山頂の石灰岩は、その力が働くずっと前に広がっていた海の環境を伝えています。現在の場所だけでは、岩石の生まれた場所まで説明できません。

海底の堆積、岩石への変化、大陸の接近、地殻の圧縮、地表での侵食。これらは同時に始まった出来事ではなく、異なる長さの時間を持っています。エベレストに海の化石がある理由は、一度の異変よりも、こうした長い過程の積み重ねにあるのです。

参考資料

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