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行動経済学入門

フレーミング効果とは 同じ結果でも言い方で選択が変わる理由

公開日 / 更新日

写真の復元サービスに、二つの説明がありました。「百枚のうち九十枚を復元できます」と「百枚のうち十枚は復元できません」。枚数も対象も同じなら、伝えている結果は等しいはずです。それでも、前者には期待を、後者には不安を感じやすいかもしれません。

フレーミング効果とは、実質的に等しい選択肢でも、表現や提示の枠組みによって評価や選択が変わる現象です。ただし、肯定的に言えば必ず選ばれるわけではありません。何を評価する場面なのか、確実な結果と不確実な結果を比べているのかによって、働き方は違います。

九十枚を復元できることと、十枚を復元できないこと

最初の例は架空の説明ですが、条件をそろえることが重要です。どちらも同じ百枚を対象にし、復元できるのは正確に九十枚、できないのは十枚。費用、画質、期間も変わらないとします。

「九十枚を復元」と「十枚を失う」が等しくなるのは、このように分母と結果が一致している場合です。「最大九十枚」「少なくとも十枚は無理」「九十%の利用者が満足」といった表現に変われば、別の情報になっています。数字が似ていることと、選択肢が等しいことは同じではありません。

百個の四角のうち九十が復元可能、十に復元不可を示すバツ。どちらを強調しても内訳は同じ。
図1 復元できる90枚と、復元できない10枚。同じ100枚を二つの側面から説明した架空の例。

図では同じ百枚を、残る側と残らない側から眺めています。表現は変わっても、九十と十の内訳は同じ。それでも先に注目するものが変われば、サービスへの第一印象が違ってくるかもしれません。

「確実に残る」と「確実に失う」で変わる、賭けへの態度

フレーミング研究の代表例を発表したのは、1981年のトヴェルスキーとカーネマンです。二人は、同じ結果を利得側と損失側から示すことで、確実な選択肢と不確実な選択肢への支持が変わることを検討しました。

その構造を、写真の架空例で考えてみましょう。六百枚の写真が破損し、対策Aなら二百枚を確実に復元できる。対策Bなら三分の一の確率で六百枚すべてを復元できるが、三分の二の確率で一枚も復元できないとします。

今度は同じ対策を、失う枚数で説明します。Aなら四百枚を確実に失う。Bなら三分の一の確率で一枚も失わず、三分の二の確率で六百枚すべてを失う。選択肢の名前を変えても、各結果と確率の対応は同じです。

対策Aは復元二百枚と損失四百枚。対策Bは三分の一で全数復元、三分の二で全数損失。
図2 「復元できる枚数」と「失う枚数」の対応。対策A・Bは異なる選択肢ですが、それぞれの対策の結果は言い換えても変わりません。

確実に二百枚を残せるという説明なら、その確実さが魅力になるかもしれません。四百枚を必ず失うという説明なら、損失を避けられる可能性に目が向くかもしれない。この例は原研究の題材を写真へ置き換えたもので、写真の復元で同じ効果が実証されたという主張ではありません。

もう一つ大切なのは、どちらの対策にも正解が一つ決まっているわけではないことです。期待される復元枚数はどちらも二百枚ですが、必ず二百枚あることと、ゼロか六百枚になることの価値は同じとは限りません。フレーミング効果として問題になるのは、危険を好むかどうかではなく、結果が等しい言い換えだけで、その好みが変わることなのです。

参照点の移動が変える、結果の意味

写真がすでに失われかけているものとして説明されると、復元できた二百枚は「取り戻したもの」です。六百枚が本来残るはずのものとして説明されると、復元できなかった四百枚は「失ったもの」になります。

この違いは、同じ最終状態でも、何を出発点にするかで利得と損失が分かれるというプロスペクト理論の考え方と関係します。ただし、「損失の言葉を使ったから損失回避が働いた」とだけ説明するのでは足りません。利得・損失それぞれの評価の形や、不確実さの扱いも含む問題なのです。

日常では、説明する人が参照点を作ることもあれば、受け取る人がすでに持っていることもあります。「写真が二百枚も戻った」と喜ぶ人と、「四百枚も戻らなかった」と落胆する人がいるなら、同じ情報を聞く前から、期待が違っていた可能性もあるでしょう。

ひとまとめにできない、三つのフレーミング

Levin、Schneider、Gaethは1998年、肯定的・否定的な表現によるフレーミングを三種類に分けて整理しました。ここを分けると、「良い言い方と悪い言い方」という単純な理解から一歩進めます。

一つ目は、確実な結果と不確実な結果の選択が変わるリスク選択フレーミング。写真六百枚の二つの対策がこの構造に当たります。比べるのは、危険を伴う選択肢をどちらの表現で選びやすいかです。

二つ目は、一つのものの性質を違う側面から示す属性フレーミング。「九十枚を復元」と「十枚は復元不可」の例がこちらです。必ずしも賭けを選ぶ問題ではなく、同じ対象への評価の変化を扱います。

三つ目は、ある行動をした場合の利点と、しなかった場合の不利益を強調する目標フレーミング。「バックアップすれば記録を守れる」と「バックアップしないと記録を失うおそれがある」という説明が、その形の例です。これは行動を促す説得の問題であり、前の二つとは、変えている部分も測っている結果も違います。

したがって、一つの実験で否定的な表現の効果があったからといって、広告も教育も公共の案内も否定形にすればよい、とは言えません。聞き手の反発や不信もありえますし、行動の種類や文脈によって結果は変わります。

印象が変わったことと、情報が増えたことの区別

「この列車は九割の日に定刻です」と「この列車は一割の日に遅れます」は、対象期間などが同じなら等しい情報です。ところが、「遅れるときは一時間以上になります」と付け加えれば、判断が変わるのは当然でしょう。深刻さについて新しい情報が加わっているからです。

また、「一割遅れる」と強調する話し手は、遅延を特に気にしているのだろうと推測する場合もあります。何を言うかだけでなく、なぜ今それを言ったかも情報になるため、実験の短い二択と、背景のある現実の会話は完全には重なりません。

フレーミングを調べるときは、こうした別の説明を可能な限り切り分けます。肯定形と否定形の文章があるだけでは、効果が実証されたとは言えません。同じ条件で別の群に提示して差を調べるなど、言い方の影響を確かめる手続きが必要になります。

「五十%増量」と「三分の一値引き」の落とし穴

身近な表示にも、基準の違いがあります。百グラム百五十円の商品を五十%増量すると、百五十グラム百五十円、つまり百グラム当たり百円です。一方、百グラム百五十円を三分の一値引きしても、百グラム当たり百円。単位量当たりの価格は同じになります。

しかし、この二つの商品は完全に同じ選択肢ではありません。増量品では支払額が百五十円で、買う量も増えます。値引き品なら支払額は百円のまま、量は百グラムです。多く使う予定があるか、余らせるかによって、選ぶ理由が違って当然でしょう。

これを「数字の見せ方にだまされる例」とだけ紹介すると、数量や出費の実際の違いを無視してしまいます。フレーミングを正しく理解するには、表現をそろえるだけでなく、そもそも何が等しく、何が異なるのかを確かめる必要があるのです。

平均二百枚と、確実な二百枚が同じではない理由

六百枚の復元の例には、もう一つ見落としやすい点があります。対策Bの平均が二百枚だからといって、一回利用すれば二百枚程度が戻るわけではありません。設定上、起こるのはゼロ枚か六百枚だけ。二百枚という平均そのものは、実際の結果としては一度も現れないのです。

家族の記録が少しでも残ればよいと考える人なら、確実な二百枚に価値を感じるでしょう。反対に、六百枚が一組の作品であり、一部だけでは目的を果たせないなら、全部を取り戻す可能性を優先する理由があります。どちらも、平均枚数だけで優劣をつけることはできません。

ここを押さえると、フレーミングの研究が何を比較しているかも明確になります。AとBを同じ価値にすることではなく、Aを「二百枚復元」と呼んだときも「四百枚損失」と呼んだときも、本人にとってのAの価値が整合しているかという問題です。

分母を隠した表示は、言い換えだけでは補えない

「復元できなかった写真は十枚でした」とだけ言われたら、サービスの出来は判断できるでしょうか。百枚を預けて十枚なら九割が戻った計算ですが、十一枚を預けて十枚なら、戻ったのは一枚だけです。十枚という同じ数値でも、分母によって意味が変わります。

この場合に必要なのは、前向きな言い方か後ろ向きな言い方かを見抜くことではなく、欠けている情報を補うことです。同じ百枚についての九十と十なら補数の関係ですが、分母が不明なら等価な言い換えを作る土台すらありません。表現の工夫と、情報の不足は別の問題なのです。

復元枚数を、残る側と失う側の両方から確かめる

写真の復元サービスに戻りましょう。九十枚という成果を知ることには意味があります。同時に、戻らない十枚について知ることにも意味がある。大事な家族写真がその十枚に含まれるかどうかで、サービスの価値は大きく違うでしょう。

肯定的な表現を否定的に言い直せば判断が正しくなる、ということではありません。片方しか示されていなかった側面を補い、何を得て、何が残らず、どこまで確実なのかを同じ単位でつかむ。そのために二つの言い方を並べる価値があります。

言葉から枠組みを完全に取り除くことはできません。何かを説明する以上、どこかを先に示すことになるからです。フレーミングを知ることでできるのは、言葉を疑い続けることよりも、言い換えたあとにも、自分が大切にしている結果は同じかを確かめること。九十枚と十枚を同じ百枚の中へ戻せば、印象とは別に比較すべきものが見えてきます。

参考資料

行動経済学入門

行動経済学の理論