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行動経済学入門

バンドワゴン効果とは 「みんなが選ぶ」が人気をさらに大きくする仕組み

公開日

書店で知らない小説を手に取ったとき、「いま一番売れています」という札が目に入りました。表紙も文章もさっきと同じなのに、少し気になる存在へ変わる。友人も話題にしていたと思い出すと、ますます買いたくなってきます。

バンドワゴン効果とは、ほかの人が選んでいることが、その対象を自分も選びたい気持ちを強める現象です。ただし、人の多いほうを選ぶ行動が、すべて同じ仕組みで起きるわけではありません。品質を推測したのか、会話に参加したいのか、大勢で使うと便利なのか。人気に引かれる理由を分けると、流行は単なる「流されやすさ」より面白い問題になります。

人気は、商品の外側にあるもう一つの属性

小説の内容、装丁、価格は、その本に備わる特徴です。一方、何人が買ったかは、ほかの人の行動についての情報。この外側の情報が、買いたさに入り込むことがあります。

Leibensteinは1950年の論文で、ほかの人の消費が自分の需要を増やすバンドワゴン効果と、逆に減らすスノッブ効果、価格の高さが地位の表示として働くヴェブレン効果を区別しました。「みんなと同じがよい」「みんなと違うほうがよい」「高価だと分かることがよい」は、別の関係です。

これらは全員を三種類の性格に分類する話ではありません。同じ人が、友人と同じ小説を楽しみながら、服は人と違うものを選ぶこともあるでしょう。対象や場面によって、他人の選択が持つ意味は変わるのです。

「大勢が選んだならよさそう」という情報の使い方

初めて訪れた街で、二軒の食堂のどちらに入るか迷ったとします。片方には行列があり、もう片方は空いている。料理の味をまだ知らないなら、行列を品質の手がかりにするのは理解できる判断でしょう。

地元の人が繰り返し通っているなら、客の数は経験の集まりかもしれません。しかし、単に席数が少なくて回転が遅いのかもしれず、一団の観光客が到着した直後という可能性もあります。行列は情報にはなっても、味の評価そのものではありません。

このように、他人の選択を通じて対象の良し悪しを推測することは、社会的学習の問題です。「人に合わせる弱さ」と決めつけるより、他人の行動がどれほど確かな情報を含むかを考えたほうが、なぜ人気が判断に使われるのかを理解できます。

みんなが楽しむから、自分の楽しみも増える場合

小説を買う理由は、面白そうだからだけではありません。友人と感想を交換したい、読書会に参加したいという理由もあるでしょう。この場合、大勢が選んでいることは単なる品質の証拠ではなく、作品を楽しむ機会そのものを増やしています。

同じ映画を見た友人が多ければ、気づかなかった場面について話せます。同じボードゲームを持つ人がいれば、相手を見つけやすい。こうした利点まで含めて選ぶことを、ただちに判断の誤りとは呼べません。

通信サービスのように、使う人が増えることで連絡できる相手が増える仕組みは、ネットワーク効果として区別できます。人気が「よさそうという推測」を増やす場合と、「実際にできること」を増やす場合。同じ多数派への参加でも、価値が生まれる場所は違うのです。

多数派の選択を品質の情報にする、一緒に作品を楽しむ、連絡手段の利用者が増えて便利になる。三つの異なる理由。
図1 多数派を選ぶ理由の比較。社会的学習、共有する楽しさ、ネットワーク効果は同じ概念ではなく、現実の選択では重なる場合もあります。

作品を変えずに、人気の見え方だけを変える実験

よい曲だから人気が出たのか、人気が見えるからさらに選ばれたのか。実際のヒット曲を眺めるだけでは、両者を切り離すのは難しいでしょう。そこで、知られていない曲を使って市場そのものを作った研究があります。

Salganik、Dodds、Wattsが2006年に発表した実験には、1万4341人が参加しました。他の参加者が何回ダウンロードしたかを見られる条件と、そうした情報なしで曲を選ぶ条件を比べ、音楽の成功に社会的影響がどう関わるかを調べたのです。

他人の選択の影響を強めると、曲の成功の格差が大きくなり、どの曲が成功するかも予測しにくくなりました。ただし、内容のよさが無関係だったわけではありません。評価の高い曲はひどく不振にはなりにくく、低い曲は大成功しにくいという傾向もありました。品質だけで決まらないことと、品質が意味を持たないことは別です。

一票の差が、次の評価の材料になる循環

人気の数字は、人の選択を記録した結果です。ところがその数字が見えると、次の人にとっては選択するための材料にもなります。結果が、次の結果を作る過程へ戻ってくるわけです。

Muchnik、Aral、Taylorによる2013年の研究は、ソーシャルニュースサイト上で評価を無作為に操作し、後から訪れる利用者の反応を調べました。先に肯定的な票を加えた場合と否定的な票を加えた場合では、影響は対称ではなく、肯定的な評価ではその後の肯定的な反応が積み重なる効果が確認されています。

同じ文章でも、先に表示された評価が後続の評価を変えうる点が重要です。票数を「内容を独立に審査した人の数」としてそのまま扱うと、すでにある票を見て判断した部分まで、独立した意見として数えてしまうかもしれません。

十人の賛成が、十個の独立した根拠とは限らない理由

読書会で十人が同じ本を勧めてくれたとしましょう。全員が作品を読んだうえで、別々の観点から勧めているなら、十人分の経験が集まっています。

しかし、最初の一人が推薦し、二人目はその推薦を聞いて賛成し、三人目は二人が勧めているから賛成したのだとしたら、どうでしょう。賛成の人数が増えても、作品についての新しい経験が同じ数だけ増えたわけではありません。

Bikhchandani、Hirshleifer、Welchの1992年の理論が扱う情報カスケードでは、先行者の行動を観察した人が、自分の情報より先行者の選択を優先する連鎖が起こりえます。ここでの読書会はその構造を考えるための例であり、実際の推薦がすべてこうして生まれるという説明ではありません。

三人が独立した経験を持ち寄る場合と、最初の推薦に二人が続く場合。賛成人数が同じでも情報源は異なる。
図2 人数と情報の独立性を比べる模式図。下段は、後の二人が作品を経験せず前の推薦に続く設定です。実際の集団の行動を測定した図ではありません。

多数決が役立つ条件と、人気順が作る片寄り

だからといって、意見を集める意味がなくなるわけではありません。別々の経験、違う専門知識、異なる用途からの評価が集まるなら、一人では知れなかった情報を得られます。重要なのは、人数だけでなく、情報の出発点の広がりです。

反対に、全員が同じランキングの上位から候補を選び、その評価が次のランキングへ戻る仕組みでは、最初に目に入りやすかったことが後の露出にも影響する可能性があります。よく見られるから選ばれ、選ばれるからさらに見られるという循環です。

順位表から分かるのは、その条件の中で多く選ばれたという事実。順位が高くない作品まで含め、同じ機会で比較した結果とは限りません。「見つからなかった」と「試して低く評価された」を分けないと、人気の数字に、示していない意味まで持たせてしまいます。

バンドワゴンとスノッブが、同じ流行の中にいる

まだ知る人の少ない作家を発見することが好きな人もいれば、大勢と同じ話題を楽しみたい人もいます。一つの作品が広まる過程には、両方が参加できるでしょう。

「人が知らない」という価値は、人気が出ると小さくなります。一方、「人と話せる」という価値は、大勢が知るほど大きくなるかもしれません。作品自体が変わらなくても、人によって魅力が逆方向へ動く理由です。

この違いから、流行が必ず一定の順番で始まり、同じ速さで終わるとまでは言えません。それでも、全員が同じ評価軸で動くという想定を外すと、「有名になって離れた人」と「有名になって出会えた人」が同時にいることは、不思議ではなくなります。

「人気一位」に足りない、誰の一位かという情報

旅行案内で人気一位の場所でも、誰に人気なのかで意味は変わります。子ども連れの家族、写真を撮りたい人、静かに散策したい人。同じ満足を求めているとは限りません。

同様に、小説の販売順位は購入の数、最後まで読み終えた人の評価は読後の満足、読書会で選ばれる回数は話し合いやすさを反映している可能性があります。どの指標も有用ですが、答えている問いは異なります。「人気」という一語が、違う行動をまとめているのです。

自分に近い関心を持つ人が、何を理由に評価したかが分かれば、人数の少ない感想が役立つこともあるでしょう。大勢の評価を捨てるのではなく、何の経験を集めた数字なのかを補う。それによって、人気を自分の目的に結びつけやすくなります。

売れた数と、見た人が選んだ割合の違い

架空の二冊で考えてみましょう。Aは500人が展示を見て50人が購入し、Bは50人が見て25人が購入しました。販売数ではAが二倍ですが、展示を見た人に限った購入率ではAが10%、Bが50%です。

これだけで、Bの内容のほうが優れているとは言えません。Bの展示を訪れた人は、そのジャンルを好きな人に絞られていたのかもしれないからです。販売数にも購入率にも意味はありますが、目にする機会や訪れる人の違いまで自動的に調整されるわけではありません。

人気を判断の手がかりにするときには、何人が選んだかに加え、誰がどのように選べる状況にいたかが重要です。少ない機会から選ばれた対象と、広く知られた対象を同じ順位表へ置くと、数字の差には内容以外の条件も混ざります。

集団の評価が変わることと、一人の好みが変わること

ある作品の高評価が増えたとき、すでに見た人の意見が好意的に変わったのかもしれません。しかし、好意的に評価しそうな人が新しく集まったため、全体の評価が上がることも考えられます。

たとえば、友人の熱心な感想を聞いてその作家のファンが集まれば、最初の集団とは好みの構成が変わります。作品への評価が変化していても、同じ一人の判断が動いたとは限らないでしょう。集団の平均値から、個人の心理をそのまま逆算できない理由です。

Muchnikらの研究でも、意見の変化と、評価に参加する行動の変化を合わせて捉えることが重要になります。インターネット上の数値は、考えた人全員の気持ちではなく、評価を投稿した人の行動を集計したもの。声を出さなかった人がどう感じていたかまでは、その数字からは分かりません。

人気に乗る楽しみと、自分の評価を持つ余地

話題の小説を友人と同じ時期に読むことには、一人で読むのとは違う楽しさがあります。バンドワゴン効果を知ったからといって、売れている本を避ける必要はありません。反対を選ぶことだけでも、結局は人気に判断を預けているからです。

感想を書くときに、ほかの評価を見る前に印象を短く残しておけば、あとから何に影響されたかを比べられます。他人の感想で気づきが増えたのか、それとも高評価に合わせて言葉を変えたのか。影響を完全に消す方法ではありませんが、自分の経験と追加の情報を区別する余地にはなるでしょう。

人気の数字は、過去の選択を映すだけの鏡ではありません。次の選択の環境も作る情報です。書店の「一番売れています」という札には、作品の実績と、これからの実績を動かす力が同居しています。その二つを知ったうえで手に取る本は、流行に乗った一冊であっても、自分で選んだ一冊にできるのです。

参考資料

行動経済学入門

行動経済学の理論