本文へ移動
世界と暮らしの疑問を整理する知識ポータル
世界・国際理解

ナイル川はなぜ北へ流れるのか 高低差と砂漠を越える水の来歴

公開日

ナイル川はアフリカの内陸から北へ向かい、エジプトを通って地中海へ注いでいます。北を上に描く地図では、水が下から上へ流れているように感じられるかもしれません。しかし、川が従うのは紙の上下ではなく、土地や水面の高さの差です。

ナイル川が北へ流れるのは、流域の高い場所から、低い地中海側へ下る道筋があるためです。さらに興味深いのは、その長い下り坂がどのようにつくられ、乾燥した砂漠を越える水がどこから来るのかという点。エジプトだけの雨を見ても、ナイル川の水は説明できません。

北は「上」ではなく、地球表面の一方向

地図で北を上に置くのは、方角をそろえるための約束です。紙を逆さにしても、山の標高や川の流れる方向は変わりません。地球上で物が落ちる「下」はおおむね地球の中心へ向かう方向で、北極や南極のどちらかへ向かうことではありません。

川の流れを考えるときの高低差は、海面を基準にした標高や水面の高さで把握できます。南にある地点のほうが高ければ、そこから北の低い地点へ水が流れても不思議はないでしょう。

地図の線としての川と、地形断面としての川を重ねると、ナイル川は上り坂ではなくなります。南北に長いことが目立つだけで、水の流れの基本法則から外れているわけではないのです。

白ナイルと青ナイルが合流するハルツーム

ナイル川の水の来歴は、一本の細い線では表しきれません。赤道付近の湖沼地域などから北へ向かう白ナイルと、エチオピア高原側から来る青ナイルという二つの主要な流れが、スーダンのハルツームで合流します。

青ナイルはタナ湖を起点とする川として知られますが、川の水は湖だけから来るのではありません。その下流でも、流域に降った雨を支流が集めます。白ナイルの側も、湖、川、湿地を含む大きなつながりです。

白ナイルと青ナイルから地中海へ
白ナイル赤道付近の湖沼・湿地を含む水系
青ナイルエチオピア高原側の降水を集める水系
ハルツーム二つの主要な流れが合流
スーダン・エジプト下流へ進みながら全体として北へ
地中海デルタを経て海へ

流れの接続を示す概念図です。矢印の画面上の上下は、実際の方角を表しません。

川の始まりとして一つの湖や泉に名前を付けることと、水を供給する範囲を把握することは別です。合流点より上流に広がる土地の雨が、遠く離れた下流の水量を左右しています。

砂漠を流れる川に、遠くの雨が届く仕組み

エジプトのナイル沿いには、緑の耕地と乾いた大地の境界がくっきり見える場所があります。周囲の雨が少なくても川が流れるのは、上流の比較的雨の多い地域から水が運ばれてくるためです。川は、その場所だけの気候を映すものではありません。

特にエチオピア高原側の降雨は、青ナイルの季節変化に大きくかかわります。NASAの衛星資料でも、この集水域の強い雨と、ハルツーム付近から下流の増水との関係が示されています。

一方、湖や広い湿地を通る水には、一時的に蓄えられる分や蒸発する分もあります。上流で降った雨が、すべて同じ速さで下流へ届くわけではありません。ナイルの流量は、各支流の雨季、貯留、蒸発、さらに現在のダム運用や取水などが重なって決まります。

南にある「上エジプト」と、北にある「下エジプト」

上エジプトは南側、下エジプトは北側。この地域名を地図で確かめると、「上下が逆ではないか」と戸惑うかもしれません。呼び方の基準は紙面の上下ではなく、ナイル川の上流・下流にあるのです。

下エジプトには、地中海へ向かって川が枝分かれするデルタ地帯があります。上流から運ばれた土砂が河口付近に堆積してきた土地で、川の細長い谷とは異なる広がりを持っています。

上・下という言葉は、地図の配置だけでなく、水の流れや地形に基づいて使われます。ナイルの場合、地図の上にある地域が下流になるという関係を押さえるだけで、古代エジプトの地名も理解しやすくなるでしょう。

北へ下る地形と、地球内部のゆっくりした動き

では、ナイルが北へ向かう地形は、なぜ長い期間保たれたのでしょうか。2019年の研究は、地表の下にあるマントルの動きが、南側のエチオピア高原を支え、北側を相対的に低く保つことに寄与したという説明を示しました。

研究チームは、エチオピア高原の火山岩やナイルデルタ地下の堆積物、地球内部の動きを再現する計算を組み合わせています。その結果として、北へ流れる水系の歴史が約3000万年前までさかのぼるという推定を提示しました。

ここでいうマントルの流れは、地下を巨大な水の川が流れるという意味ではありません。高温の岩石が、地質学的な長い時間の中でゆっくり変形する運動です。地表の勾配をつくる要因に、その深部の動きも含まれるという考え方なのです。

約3000万年という推定と、現在の流路の違い

この研究から、「現在とまったく同じ川が、同じ岸の間を3000万年間流れ続けた」とまではいえません。支流の接続、谷の形、降雨、堆積、海面の変化などによって、川の細部は変わります。研究が扱う長期的な水系や地形の持続と、今日の一本の流路は区別が必要です。

また、川の成立時期は何を連続したナイルと数えるかにもかかわるため、約3000万年は一つの研究が示した推定として捉えるのが適切です。ナイルの正確な誕生日を測った数字ではありません。

北へ流れるという素朴な疑問には、まず高さの差が答えになります。その先には、遠方の雨を集める流域と、長い下り坂を支える地球内部の歴史がある。ナイル川は、砂漠の一本の川であると同時に、離れた土地と異なる時間尺度をつなぐ水系なのです。

参考資料

関連する疑問

同じ分類の近い疑問へ進む