フィンランドとスウェーデンの間に浮かぶオーランド諸島では、海辺の岩に赤みが目立ちます。その色は、夕日が差す時間だけのものではありません。地表に広く露出する赤褐色の花崗岩が、島の印象をつくっています。
岩が赤いからといって、地面全体が鉄の塊というわけではありません。色を生むのは、岩を構成する鉱物と、その内部に含まれるごく小さな物質です。さらに、赤い岩の滑らかな表面には、色とは別の時代に刻まれた氷河の痕跡も残っています。
赤い粒、灰色の粒、黒い粒の集まり
花崗岩は、地下でマグマがゆっくり冷えて固まった岩石です。冷却に時間がかかるため、肉眼で見分けられるほどの結晶が育ちます。岩全体を一色の素材と考えるより、性質の異なる鉱物の粒が組み合わさったものと考えるほうが実態に近いでしょう。
オーランドの赤い花崗岩では、赤みを帯びた長石が目立ちます。その間に灰色がかった石英や、黒っぽい鉱物が入り込み、岩の模様をつくる。赤い粒の大きさや割合が変われば、同じ花崗岩でも全体の印象は違ってきます。
長石の赤みには、微細な酸化鉄などが関係することが知られています。ただし、長石という鉱物が本来すべて赤いわけではありません。白い長石もあり、含有物や微細な構造によって色が変化します。「花崗岩だから赤い」でも「長石だから赤い」でも、説明としては足りないのです。
鉱物の分布や傷を模式化した図で、実物の顕微鏡写真ではありません。長石は必ず赤いわけではなく、オーランドの岩の組成・結晶組織も一様ではありません。上下の縮尺は異なります。
ラパキビ花崗岩に見られる、大きな丸い結晶
オーランドの地質を語るときに登場するのが、ラパキビ花崗岩という名称です。代表的なものには、丸みを帯びた大きなカリ長石の結晶があり、その周囲を別の長石が縁取ります。切断面によっては、岩のなかに輪や目玉が並んでいるように見えるかもしれません。
外側の縁取りをつくるのは斜長石です。同じ「長石」という仲間でも、組成の異なる結晶が内側と外側に配されているわけですね。こうした組織は、マグマのなかで結晶が成長した条件の変化を考える手がかりになります。
もっとも、オーランドのラパキビ花崗岩すべてに、きれいな輪があるわけではありません。縁取りの少ないものや、結晶の形・大きさが異なる種類も分布しています。観察した岩に輪がないという理由だけで、別の岩石だと即断することはできません。
約16億年前の地下が、いまは海辺の地表に
オーランドの主要なラパキビ花崗岩は、およそ16億年前のマグマ活動にさかのぼります。恐竜の時代より、はるかに古い岩です。当時は地中で冷えていたものが、その上を覆う岩石の侵食などを経て、地表に現れました。
したがって、海辺に赤い岩が露出していても、その場所で赤い溶岩が海へ流れ出したとは限りません。地下でゆっくり冷えた岩と、地表の溶岩が急に冷えた岩では、結晶が育つ条件が異なります。大きな結晶は、地表ではなかった時代の履歴なのです。
島の岩には、少なくとも二つの時計があります。岩そのものができた年代と、その岩が現在の地形として露出するまでの時間です。古い岩があるからといって、現在の島の輪郭まで16億年間変わっていないということではありません。
岩を赤くした作用と、岩を磨いた作用の違い
オーランドの海岸では、丸く滑らかな岩肌や、表面に平行に延びる筋が見られます。ここで重要になるのが、花崗岩の形成よりずっと新しい時代の氷河です。厚い氷が動くと、氷の底に取り込まれた石や砂が、下の岩盤を削りました。
細かい粒による研磨と、大きな石による引っかき傷。こうしてできた筋は、氷がどの向きに動いたのかを調べる手がかりになります。赤い色は主に岩石側の性質、滑らかさや傷は地表で受けた加工の結果です。
色の筋と氷河の傷を混同しないことも大切でしょう。鉱物が並んでできた模様は、岩を構成する物質の違い。表面を刻んだ溝は、その後に力が加わった痕跡です。一つの岩肌に、全く異なる時代の出来事が重なっています。
島の色が、建物や道路の色にもなる理由
オーランドでは、地元の赤い石材が建物や舗装にも利用されてきました。自然の岩肌だけでなく、人がつくった景観にも同系統の色が現れるのは、材料を地域の岩石から得ているためです。砕石なら粒は小さくなっても、その鉱物の色は残ります。
一方、諸島の岩石はどこでも均一ではありません。花崗岩にも複数の種類があり、周辺には異なる岩石も分布しています。赤い地面をオーランド全域の絶対的な特徴とするより、広く分布する岩石が地域の景観に強く表れている、と捉えるのが適切です。
赤褐色の岩を見つけたら、まず粒ごとの色を確かめ、その次に表面の傷や丸みへ目を移す。結晶の成長、岩盤の露出、氷河による研磨という順に考えると、一見単調な岩場にも、長い地球史の異なる場面が現れます。