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行動経済学入門

現在バイアスとは 先延ばしを生む「今」と「未来」の不一致

公開日 / 更新日

日曜日には、来週こそ写真を整理しようと思っていました。スマートフォンに何千枚もたまった写真を選び、旅行のアルバムを一冊つくる。完成したものを想像すると楽しみです。ところが、予定していた土曜日になると、まずは短い動画を一つだけ。そのあとで、と考えているうちに夕方になってしまいます。

ここには、単に面倒なことが嫌いという以上の問題があります。日曜日の自分も、整理に手間がかかることは知っていました。それでもやるつもりだったのに、作業が「未来の負担」から「今の負担」に変わると選択が変わる。現在バイアスは、未来同士の比較に比べて、今この瞬間の利得や負担へ特別に大きな重みを置く傾向です。

未来を軽く評価することと、「今だけ」を特別扱いすること

今日の楽しみと一年後の楽しみなら、今日を選ぶことにはさまざまな理由があります。一年後に同じ機会があるとは限りませんし、待つこと自体に不便があるかもしれません。未来の価値を割り引くことそのものは、現在バイアスと同じではありません。

違いを考えるため、確実に受け取れ、期限も使い道も同じ架空の特典を想像してみましょう。「三十日後に十枚の写真を印刷できる券」と「三十一日後に十二枚の券」なら、一日待って十二枚を選ぶ。ところが、「今日十枚」と「明日十二枚」なら、今日は待ちたくない。間隔はどちらも一日なのに、現在が含まれると比較の仕方が変わっています。

このような選好の逆転が現在バイアスの中心です。もちろん実際の印刷券なら、今日だけ家族が集まるなどの事情があるでしょう。その場合、選択の変化は新しい必要を反映したもので、バイアスの証拠にはなりません。理論上の例では、価値や条件をそろえて、時間の位置だけを動かしています。

予定を決めた自分と、予定を実行する自分の不一致

写真整理をするかどうかも、遠い段階では「少し手間をかけて、長く楽しめるアルバムを手に入れる」という比較です。作業の負担も完成の喜びも、どちらも未来のもの。ところが当日には、作業の負担だけが目の前へ来ます。完成の喜びは、まだ少し先に残ったままです。

この非対称を単純化したのが、準双曲割引と呼ばれるモデルです。一定の割合で先の価値を小さくする要素に加え、現在から未来へ移るところで、もう一段大きく重みを下げる要素を置きます。曲線の名前を覚えるより、「今日と明日の境目に、特別な段差がある」と考えるほうが入りやすいでしょう。

計画時は負担三に対し価値五。当日は今の負担だけ六に戻り、未来の価値五を上回る。
図1 作業が今に近づくことによる選好の逆転。負担6、翌日の価値10、未来には一律半分の重みを置く説明用モデル。一般的な時間割引は省略しています。

図では説明のため、整理する負担を六、完成の価値を十とし、未来の負担と価値には半分の重みを置きました。計画時には負担が三、価値が五なので整理を選ぶ。当日になると目の前の負担は六に戻り、翌日の価値は五のままなので、着手が魅力を失います。数値は実験結果ではなく、逆転が起こる仕組みを示すためのものです。

実際の人の心に、六や十というメーターが表示されているわけではありません。このモデルの利点は、先延ばしを「やる気がない」という一語で終わらせず、負担と報酬がいつ現れるかに分けて検討できる点です。逆転が起こらない人や課題も、もちろんあります。

「明日の自分ならできる」が繰り返される仕組み

今日やらずに明日へ回すと、その瞬間には楽になります。しかも、アルバムを完成させるという目標は捨てていません。「今日は休むが、明日はやる」という予定なら、楽しみを残しながら今の負担だけを避けられるように感じられるでしょう。

難しいのは、明日になると、明日の作業がまた「今の負担」になることです。翌日の自分にも同じ選択の変化が起こるなら、予定は毎日一日ずつ後ろへ動きます。一回ごとの延期は小さく見えても、全体としては何週間も着手しない結果になりかねません。

O’DonoghueとRabinの1999年の理論研究は、現在バイアスに加え、将来の自分の行動をどれほど予測できるかを区別しました。未来の自分は予定どおり動くと考える人と、未来の自分も先延ばししそうだと分かっている人では、現在の対策や選択が違ってきます。

この区別は、知っていれば必ず解決するという意味ではありません。自分の傾向を分かっていても、予定を守る手段がなかったり、制約を設ける費用が大きすぎたりすることもあります。理論でも、自己認識がどんな場面でも良い結果を保証するわけではないのです。

お金の二択だけでは分からない、実際の手間への反応

「今日少額、来週多額」のような質問は、時間の好みを調べる典型的な方法です。ただ、これだけで現在バイアスを測り切れるとは限りません。来週本当に受け取れるかという信頼や、今日お金が必要な事情も答えに影響するからです。

また、お金を受け取る日と、それを使って何かを楽しむ日は同じとは限りません。今日受け取っても使うのは来月かもしれず、金銭の受け取り方だけから、実際の楽しみや負担の時間配分を直接推定するには限界があります。

Augenblick、Niederle、Sprengerの2015年の研究は、実際に行う作業の配分を用いて、前もって決めた配分と実行時の選択の不一致を検討しました。こうした研究は、架空の報酬の二択を離れ、負担が本当に発生するときの行動を確かめる点に意味があります。ただし、その実験課題で観察された傾向が、家事、趣味、学習のすべてに同じ強さで現れるとは限りません。

未来の自分に残す、変更できる約束と変更しにくい約束

先延ばしを予想している人は、未来の選択をあらかじめ変えることがあります。友人と日曜日にアルバムを見せ合う約束をする、作業会に参加する、写真を印刷する日を予約する。これらは説明用の例ですが、将来の自分の行動へ現在の自分が働きかける「コミットメント」の考え方につながります。

ただし、予定表への書き込みと、変更できない高額な予約では性質が違います。前者は思い出す助けになり、後者は予定変更に費用を生みます。拘束が強いほど優れているわけではありません。急用や体調の変化があれば、柔軟に変えられること自体に価値があるからです。

そこで区別したいのが、忘れていたために着手できない場合と、覚えているのに目の前の負担を避ける場合です。通知は前者には役立ちうる一方、後者では通知を閉じるだけかもしれません。同じ「できなかった」という結果でも、原因によって必要な工夫は変わります。

負担を減らすことと、報酬を近づけること

写真を全部整理してから初めて完成品を楽しめるとすれば、報酬は遠いままです。一方、今日は一日分だけ選んで小さなアルバムを完成させるなら、着手と楽しみの間隔は短くなります。作業を細かくする価値は、量が減るだけでなく、途中にも完了の手応えを置けるところにあるでしょう。

これは、作業を分割すれば誰でも解決するという実証済みの万能処方ではありません。一度に集中したほうが効率的な作業もあり、分割による準備の手間も増えます。ただ、モデルの言葉に戻せば、現在の負担を小さくすることと、価値の一部を現在に近づけることは、違う経路から選択を変える可能性があるのです。

スマートフォンを別の部屋へ置く工夫なら、アルバムの価値を増やすのではなく、すぐ楽しめる競合の選択肢を手に取りにくくしています。こうして作用の場所を分けると、「意志を強くする」という一つの説明では見落とす違いが分かります。

遠い未来でも一日待つことが嫌なら、別の好み

現在バイアスと普通の時間割引の違いは、同じ計画を時間の経過に沿って追うと分かりやすくなります。三十日後の十枚と三十一日後の十二枚なら、十二枚を選ぶ。その後、受け取る日が近づいても、条件が同じなら十二枚を選び続ける。この場合、待つ負担は評価していても、選好の逆転は起きていません。

反対に、どの時点でも一日早い十枚を選ぶ人もいるでしょう。その人は待つことを強く嫌っているかもしれませんが、それだけで現在バイアスとは言えません。遠い未来同士でも現在を含む比較でも、同じ選び方を保っているからです。

大切なのは、待てる人と待てない人という性格分けではなく、時間の位置が変わったときの一貫性です。「せっかちだから先延ばしする」という一見矛盾した説明も、すぐ得る楽しみとすぐ負う手間を同じ時間軸へ置けば、理解の手がかりが生まれます。

締め切りの前に急に動ける理由は、一つではない

家族に見せる日が近づけば、アルバムの整理に着手できるかもしれません。現在バイアスのモデルからは、完成の喜びや間に合わない不利益も現在へ近づき、その重みが増したと考える余地があります。

しかし、締め切り直前に動いたという事実だけでは、その説明が正しいとは決まりません。必要な写真が最後にそろったのかもしれず、まとまった時間を取れるのがその日だけだった可能性もあるでしょう。同じ行動を生む別の条件を確かめることが、心理学の用語を日常に持ち込む際には欠かせません。

先延ばしを、性格の欠点だけにしないために

予定を延期する理由は一つではありません。必要な情報がまだない、作業量を過小評価していた、疲れて集中できない、そもそもその目標を本当には望んでいなかった。こうした場合まで、現在バイアスという名前で片づけるのは不適切です。

一週間前の予想より写真が多かったなら、予定変更は新しい情報への対応でしょう。家族との時間を優先したなら、優先順位の合理的な変更かもしれません。現在バイアスを考えるのは、条件や価値が大きく変わっていないのに、負担が今へ近づくだけで選択が反転する場合です。

完成したアルバムを楽しみたい気持ちと、目の前の整理を避けたい気持ちは、同じ人の中に両立します。どちらかが偽物というわけではありません。だからこそ、日曜日の決意を強めるだけでなく、土曜日の自分に、どんな負担とどんな楽しみが見えるのかを考える余地があります。計画の問題は、未来の自分に任せるところから、その自分が実際に選ぶ場面へ移るのです。

参考資料

行動経済学入門

行動経済学の理論