新しいアプリを使い始めるとき、通知は最初からオンになっています。後で設定を変えられると思い、そのまま先へ進む。数か月たっても通知が届き続けているのは、毎回「受け取りたい」と考えているからでしょうか。それとも、最初の状態を変える機会がなかっただけでしょうか。
変更しなければ適用される選択肢を、デフォルトと呼びます。デフォルト効果は、その初期設定によって選択が左右される現象です。「選べるのだから、結果は本人の好み」という説明では、チェックを付けた人と、チェックを外さなかった人を区別できません。何もしないと何が起きるかも、選択の重要な一部なのです。
同じ二択でも異なる、チェックの出発点
地域の美術館が、講座のお知らせをメールで届けるとしましょう。申込欄が空欄なら、希望者だけがチェックを付ける方式です。最初からチェックが付いていれば、不要な人が外す方式。受け取る・受け取らないという選択肢は同じでも、何もしなかった人が入る側は反対になります。
前者はオプトイン、後者はオプトアウトと呼ばれます。どちらも「選択できる」という説明は正しいものの、操作を必要とする側は同じではありません。関心がはっきりしている人だけでなく、急いでいる人、判断を後回しにする人、設定に気づかない人も、この画面を通ります。
さらに、どちらにも印を付けず、希望する側を必ず選んでもらう方式もあります。これは能動的選択と呼ばれる設計です。ただし、未回答なら申込み自体が進まない場合、選択の手間が増えて途中でやめる人も出るかもしれません。初期設定をなくせば、選ぶ環境の影響まで消えるわけではないでしょう。
面倒だから変えない、だけではない三つの経路
デフォルトの説明で思い浮かびやすいのは、変更の手間です。設定画面を探す、説明を比べる、保存する。操作が数回でも、細かな判断が一日に何度も続けば負担になります。今の設定で大きく困っていなければ、ほかを調べずに済ませることにも理由はあるでしょう。
第二の経路は、暗黙のおすすめです。「最初からこれが選ばれているのだから、普通はこれでよいのだろう」と受け止める人もいるでしょう。専門知識がなくても、設定した側が適切な選択を知っていると信頼すれば、従う理由になります。この場合、初期設定は省力化だけでなく、判断に使う情報も提供しているのです。
マッケンジーらの2006年の実験は、デフォルトが、設定を決めた側の推奨を伝える働きを持つことを示しました。大切なのは、人が何も考えていないとは限らない点です。むしろ「用意した人には理由があるはず」と推測して選んでいる場合もあります。
第三の経路は、初期設定が現状として受け止められることです。あらかじめ選ばれた機能を外すと、「余計な機能を付けない」よりも「使える機能を失う」と感じるかもしれません。最初の状態を基準に、そこから何が減るかで比較しているわけです。
たとえば、説明用に、写真アプリの自動整理機能を考えてみましょう。機能をオンにするか尋ねられた人には、便利さと手間の比較が必要です。初めからオンになっている人には、便利な機能をあえて止める判断に見えるかもしれません。同じ機能でも、追加と削除では問いの印象が違います。
58研究が示した影響と、平均値では決まらない結果
ジャヒモビッチらが2019年に公表したメタ分析は、条件を満たした58研究、合計7万3675人分のデータをまとめました。全体としてデフォルトの影響が確認された一方、研究ごとの差も大きく、有意な影響がないものや、逆方向の結果を示すものも含まれています。
この研究では、設定が推奨や現状として働くと見込まれる条件で、効果が大きい傾向も調べています。ただし、研究間の比較から、目の前の一人が設定を変えなかった理由まで特定できるわけではありません。同じ最終画面でも、納得して選んだ人と見落とした人は区別できないのです。
したがって、「初期設定にすれば何割が従う」という固定の数字は使えません。たとえば、文字サイズの設定は、見づらければすぐに変更したくなるでしょう。一方、年に一度しか使わない機能なら、不都合に気づくまで初期設定のままでも不思議ではありません。選択の重要さだけでなく、結果をいつ体験するかも異なります。
信頼も条件の一つです。自分の希望に沿う設定だと思えば、そのままにする根拠になるでしょう。しかし、サービス側に都合のよい設定だと疑えば、最初に選ばれた側を避ける人もいるはずです。デフォルトは、誰が、何のために用意したかという文脈から切り離せません。
両面印刷の実験が区別した、行動と意識
エーゲバルクとエクストロームが2016年に発表した研究では、大学のプリンターを使う人々に対し、紙の節約を呼びかける方法と、初期設定を片面から両面へ変える方法を調べました。この実験では呼びかけによる削減は確認されず、初期設定の変更で紙の使用量がおよそ15%減りました。
ここで減ったのは用紙の消費であり、印刷したい内容そのものが大幅に減ったわけではありません。設定が、同じ内容を何枚の紙に載せるかを変えたのです。紙の節約という結果が出たからといって、環境に対する考え方まで変わったと結論づけることはできません。
この区別は、家庭の習慣にも当てはめて考えられます。たとえば、動画の自動再生をオフにすれば、一本が終わった後に次が始まらない状態を作れます。しかし、それだけで「夜は短時間しか見たくない」という本人の希望が強まるわけではないでしょう。見続けたい日は、自分で次を選ぶことも可能です。
意志の強さを毎回試す代わりに、希望に合った停止地点を先に用意する。初期設定には、そのような使い方があります。ただし、動画についての説明は実験結果ではなく、印刷研究との違いを踏まえた日常への応用例です。自動再生の変更で誰の視聴時間も減るとまではいえません。
申込みを増やすことと、学習を続けることの距離
デフォルトで増やしやすいのは、必ずしも最終的な成果ではありません。講座の受講枠が自動で確保されても、会場へ行き、話を聞き、自宅で復習するには別の行動が必要です。入口を通った人数と、学びを得た人数の間には、時間や努力を要する過程が残ります。
ベーレン、ヒムラー、イェックレによる2023年の研究は、大学の試験登録を対象に、この問題を調べました。複数の試験を一括して登録する設定では、登録は増えても、その後の成果は改善しませんでした。一方、一つの試験を対象にした条件では、受験や、一部の学生の合格に改善が見られています。努力を要する行動では、対象者や設定の意味も結果を左右するのです。
市民講座を例にすれば、自動で申込みが入った人は、そもそも開催日時を意識していないかもしれません。反対に、参加したくても予定を確保できず、登録だけ残る人もいるでしょう。学習のためには、初期設定とは別に、内容への関心、参加できる時間、無理のない進め方が必要になります。
これはデフォルトが無意味という話ではありません。入口の負担と、その先の実行の負担は別だということです。講座を知る機会を作る役割には役立っても、理解度の向上までを初期設定一つに期待すれば、仕組みに任せる範囲が広すぎるのです。
「いつでも変えられる」と「変えやすい」の違い
設定を変える権利が残っていても、その場所が分からなければ、実際の選びやすさは限られます。通知をオンにするのは一画面なのに、オフにするには複数のページをたどる。こうした設計で残った利用者を、全員が通知を望んだ人とみなすのは適切ではありません。
反対に、何も受け取らない設定でも、希望者が簡単にオンにできれば、必要な情報を得る機会は残ります。大切なのは、どちらの設定が一律に善か悪かではなく、何が起きるかが分かり、反対の選択も無理なくできることです。設定が本人の利益になるかどうかも、選択率だけでは判断できないでしょう。
たとえば、家族で使う端末の通知音を小さくする設定は、静かに使いたい人には便利です。しかし、大きな音で知らせてほしい人に同じ設定を適用すれば、通知に気づきにくくなるかもしれません。多数派が選んだ状態が、その人にも適しているとは限らないのです。
そのため、目的の違いが大きい選択では、初期設定に加えて、選択の意味を短く示すことが重要になります。「おすすめ」という表示だけでなく、「何が届くか」「どこで変えられるか」が分かれば、自分の希望と照らし合わせられるでしょう。説明を長くするほどよいのではなく、選ぶための違いが見える必要があります。
初期設定を、自分の希望へ引き戻す方法
設定を見直す際は、まず「自分が選んだ記憶があるか」より、「何もしないと、次に何が起きるか」を確かめると具体的です。次の動画が始まるのか、通知が届くのか、写真が自動整理されるのか。初期設定の影響は、その先の動作として現れるからです。
次に、「逆の状態が初期設定でも、わざわざ今の状態へ変えたいか」と問い直せます。通知がオフだったとしても、この美術館のお知らせだけは受け取りたい。そう思うなら、オンの設定は自分の希望とも一致しているでしょう。変えなかったこと自体が問題なのではありません。
もちろん、すべての設定を毎日点検していては、その手間の方が大きくなります。新しいサービスを使い始めたとき、通知が増えて困ったとき、生活の時間帯が変わったときなど、設定と希望がずれやすい機会に見直す方が現実的です。細部を常に最適化することが、自由な選択の条件ではありません。
家族の端末を整える場面でも、「普通はこの設定だから」と決めるだけでは、使う本人の希望が抜け落ちます。文字を大きくしたい、音を出したくない、講座の案内だけは見逃したくない。こうした具体的な希望を聞いたうえで初期状態を整えれば、その人は毎回同じ変更を繰り返さずに済むでしょう。選ぶ手間を減らすことと、本人の選択を省くことは別なのです。
デフォルト効果が明らかにするのは、選択には、候補そのものだけでなく出発点もあるということです。初期設定は判断の負担を軽くする一方で、希望していない結果を続けてしまうかもしれません。その便利さを生かす鍵は、何もしないときの行き先が、自分の望む行き先と合っているかという点にあります。
参考資料
- Jachimowicz, J. M., Duncan, S., Weber, E. U., & Johnson, E. J. (2019). When and why defaults influence decisions: a meta-analysis of default effects. Behavioural Public Policy, 3(2), 159–186.
- McKenzie, C. R. M., Liersch, M. J., & Finkelstein, S. R. (2006). Recommendations Implicit in Policy Defaults. Psychological Science, 17(5), 414–420.
- Egebark, J., & Ekström, M. (2016). Can indifference make the world greener?. Journal of Environmental Economics and Management, 76, 1–13.
- Behlen, L., Himmler, O., & Jäckle, R. (2023). Defaults and effortful tasks. Experimental Economics, 26, 1022–1059.