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サヘルは砂漠なのか草原なのか サハラ南縁で移り変わる雨と植生

公開日

乾いた土にまばらな木が立つ景色と、雨を受けて一面に草が伸びる景色。どちらもサヘルの姿です。サハラ砂漠の南に広がるこの地域は、砂漠と草原のどちらか一方に分けられる土地ではありません。長い乾季と短い雨季があり、同じ場所でも季節によって見た目が大きく変わります。

サヘルは、極端に乾燥したサハラと、より雨の多い南側の地域をつなぐ半乾燥の帯です。砂漠との境目に、一本の線を引くことはできません。木と草の比率も、雨が届く時期も場所によって異なり、「砂漠が広がる」「緑が戻る」というだけでは捉えきれない変化が起きています。

国境とは重ならない、半乾燥の帯

サヘルは大西洋側からアフリカ大陸を東へ横切る地域名で、国の集まりを指す場合と、気候・植生の帯を指す場合があります。後者の境界は、長期平均の雨量などを基に定めるもの。同じ国の中にも、乾燥の強い北側と、草木が増える南側が含まれます。

米国地質調査所の西アフリカの区分では、サヘルの年降水量の目安は150〜600ミリです。これはすべての研究が使う唯一の線引きではありません。植生が連続的に変化する帯を便宜的に分けているため、区分によって範囲にも幅が生まれます。

また、砂丘の端がそのままサヘルの北端になるわけでもありません。サハラには岩石や礫の広がる土地があり、サヘルにも砂の多い土地があります。地面の材質と、植物が育つ水分条件は別の特徴なのです。

夏に届く湿った風と、長い乾季

西アフリカでは、北半球の夏に大西洋からの湿った空気が内陸へ入り、雨をもたらします。雨の多い帯は季節とともに北へ進み、やがて南へ。北寄りのサヘルに十分な雨が届く期間は短く、植物は限られた雨季に成長と繁殖を進めなければなりません。

冬にはサハラ側から乾いた風が吹きやすくなり、西アフリカで「ハルマッタン」と呼ばれる、ちりを伴う風も現れます。乾季の景色が茶色くなるのは、すべての植物が死に、土地が恒久的な砂漠へ変わったという意味ではありません。季節的に地上部を失う草と、その後も残る木が、異なる周期で暮らしています。

サヘルの短い雨季を生む、雨域の南北移動
縦方向は北から南。雨の多い帯が北半球の夏に北へ進み、後に南へ戻る。北寄りのサヘルには、南側の湿潤域より雨の届く期間が短い。

西アフリカの季節的な関係を示す概念図です。境界線・帯の幅・雨の到達位置は実測地図ではなく、年や経度によって異なります。矢印は風の流向ではなく、雨域の移動です。

短い雨季に一生を進める草と、乾季にも残る木

サヘルの草には、雨季に芽を出して成長し、種子を残す一年草が多く含まれます。雨の時期に葉を広げて光合成を行い、乾季には次の発芽の機会を待つ。そのため、ある時期の地表が草で覆われているかどうかは、降雨からどれだけ時間がたったかにも左右されます。

多年生の木や低木は、一年草と同じ反応をするとは限りません。雨季の本格化前や終盤に降る雨を利用できる場合があり、葉を保つ期間にも違いがあります。空から同じ「緑」として見えても、そこにあるのが草なのか木の葉なのかで、季節の意味は変わります。

この違いは、家畜の餌になる草地を考える際にも重要です。緑の総量が増えていても、草の量や種類まで同じように増えたとは言えません。衛星の画像と地上の植生調査を組み合わせる必要があるのは、そのためです。

「サヘルの緑化」の中で変わる、木と草の比率

2019年に公表された研究は、セネガルの1987〜2016年の現地観測と衛星データを組み合わせ、木の葉の量と草の量を分けて調べました。観測地点では、木の葉の量が草より速く増加していたのです。サヘルの広域の衛星観測も、両者の増え方が異なる傾向を示しました。

研究が木の葉の増加と結び付けたのは、雨季の中心期だけでなく、その前後に降る雨でした。一年草の成長期間から外れた雨でも、木は利用できる場合があります。年間雨量が増えたという同じ変化が、草と木に同じ恩恵を与えるとは限らないのです。

もちろん、この結果をサヘルのすべての場所へ一律に当てはめることはできません。それでも、緑化という一語の内側で植生の構成が変わりうることは、乾燥地の変化を考える上で大切な発見です。

干ばつの記憶と、雨量だけでは決まらない回復

サヘルでは、1960年代末から1980年代にかけて広域で深刻な干ばつが続きました。その後は雨量が持ち直した地域もありますが、どの期間と比べるか、雨季のどの部分に注目するかで、回復の評価は変わります。2018年の研究も、1854〜2014年の長期観測を用い、モンスーンの時期を分けて変化を調べています。

雨が戻れば、土地がただちに以前と同じ状態へ戻るわけではありません。地表の植生が失われた場所、耕作や放牧の影響を受けた場所、土が水を吸い込みやすい場所では、降った水の行方も異なります。強い雨が短時間に集中すると、植物に利用される前に流れ去り、土を削ることもあります。

干ばつも豪雨も、年間雨量という一つの数字だけでは表せない現象です。サヘルの植物にとっては、水の総量に加え、届く時期と、根のある土にとどまる時間が問われます。

乾燥した帯の中にある、川と湿地

サヘルにはニジェール川の内陸デルタやチャド湖周辺など、大きな湿地もあります。周囲が半乾燥地だからといって、あらゆる場所の水が、その地点に降った雨だけで決まるわけではありません。離れた上流の雨が川を通じて届けば、乾いた地域にも広い水面や湿地が生まれます。

こうした水辺と、雨季にだけ草が伸びる土地とでは、植物や人の水の利用方法も変わります。サヘルは、北から来る砂漠と南から来る緑が押し合うだけの帯ではなく、季節の風、草と木の生活史、流域を通じた水の移動が重なる地域なのです。

参考資料

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