モロッコからアルジェリア、チュニジアへ続くアトラス山系。サハラの平原とは対照的な高い山々が、アフリカ北西部に連なっています。ところが、地中海に近いからといって、すべてがアフリカとユーラシアのプレート境界線上にあるわけではありません。境界から離れた大陸の内側で、なぜ山が育ったのでしょうか。
アトラスの主要部では、アフリカとユーラシアが近づく力が、アフリカ大陸の内側に伝わりました。そこで再び動き始めたのが、かつて地殻が引き伸ばされた時代の断層です。昔の低い盆地が、後には山になる。アトラスには、地形の役割が逆転した歴史が残っています。
大陸の縁に近くても、境界線上とは限らない山脈
プレートの境界は、地図に引いた細い線だけで動くものではありません。境界で生じた力は広い範囲に伝わり、離れた場所の断層を動かしたり、地殻を変形させたりします。モロッコの高アトラスや中アトラスは、そのような大陸内部の変形を考える重要な場所です。
ただし、北アフリカの山をすべて一つの仕組みにまとめることもできません。地中海側のリフ山地やテル山地と、より内陸のアトラス主要部では、地質史や変形の特徴が異なります。アトラスという広い山系の中にも、高さや方向の違う複数の山並みがあるのです。
アフリカ北部に山がある理由は、大陸の北側が持ち上がったから、というだけでは不十分です。プレート間の力が、どの時代に、もともとどんな構造を持っていた地殻へ加わったかが、山の位置を決めています。
山脈に先立つ、三畳紀・ジュラ紀の裂け目
現在のアトラスの場所には、三畳紀からジュラ紀にかけて、地殻が引き伸ばされてできた盆地がありました。周辺で進んでいた大西洋などの開裂に関わる動きです。岩盤が断層に沿ってずれ、落ち込んだ部分に厚い堆積物がたまりました。
この時点で、今のような山脈ができていたわけではありません。地殻に残されたのは、周囲とは厚さや岩石の性質が違う帯と、変形しやすい断層でした。いったん静かになった裂け目も、地質的な特徴まで消えてしまうことはありません。
盆地反転の模式断面で、アトラスの実測断面ではありません。再活動する断層に加えて新しい断層も生じます。高い標高に関わる深部マントルの作用は、この図には含めていません。
同じ力を加えても、地殻のすべてが均等に変形するとは限らない。古い盆地と断層が残っていたことは、後の時代に変形が集中する場所を準備したのです。
引き伸ばされた盆地が、押し縮められる山へ
やがてアフリカとユーラシアの接近に伴い、この地域は圧縮されるようになりました。新生代に進んだ変形では、かつての伸張構造が再活動し、盆地をつくっていた地層が押し上げられたり、折れ曲がったりしています。こうした変化を「盆地反転」と呼びます。
「反転」といっても、昔の動きが録画を逆再生するように、完全に元へ戻るわけではありません。既存の断層の一部が使われる一方で、新たな断層もでき、堆積物とその下の岩盤が異なる形で変形します。かつての低地を土台として、新しい山地の構造が組み上がったという意味です。
山に堆積岩が見つかることと、その岩石が積もった時代に山があったことは別です。アトラスの山並みには、「材料ができた時代」と「高い土地になった時代」の間に、長い隔たりがあります。
圧縮の大きさだけでは説明しきれない高さ
山脈が高いほど、地殻も強く押し縮められ、地下に厚い根を持つ。そうした関係は重要ですが、アトラスではそれだけで高さを説明しきれない部分があります。地震波や重力などを使う研究では、地下深くの構造にも注目が集まってきました。
地殻と、その下の硬いマントルを合わせた層をリソスフェアといいます。アトラスの下では、この層の薄さや、より高温のマントルの存在が山地を支える浮力に関わると考えられています。熱いマントルが地表へ噴き出して山全体を積み上げた、という意味ではありません。
2014年の地震波研究は、モロッコ下のリソスフェアの一部が剝がれ落ち、高温の物質に置き換わる過程を提案しました。深部の動き方には研究上の議論が残るものの、地表の断層だけでなく、その下の支えまで含めて標高を説明する必要があるのです。
山並みの向きに残る、古い盆地の配置
アトラスは、端から端まで一直線の同じ山並みではありません。高アトラスと中アトラスでは延びる方向が違い、同じ山地の途中でも山列や分水界の向きが変わります。これも、昔の地殻の構造と無関係ではありません。
2025年の数値モデル研究は、ずれて並ぶ古いリフト盆地が後に圧縮された場合、山地の連なりや向きに、その配置が受け継がれることを示しました。研究はアトラスにもこの考え方を適用しています。ただし、模型の結果が実際の山のあらゆる細部を再現したわけではなく、山脈の曲がり方を説明する一つの枠組みです。
大陸を押す力だけでなく、押される前の地殻の形も山を決める。この点で、アトラスは現在のプレート運動と過去の裂け目が組み合わさった山脈と言えます。
完成した地形ではない、現在のアトラス
2023年9月には、モロッコの高アトラスでマグニチュード6.8の地震が発生しました。山脈が古い岩石を含むことと、断層が現在も動きうることは矛盾しません。長い地質史の末にできた土地でも、変形は終わっていないのです。
アトラスの山並みは、アフリカ北端に新しく積み上げられた壁ではありません。地殻が裂け、盆地に堆積物がたまり、その弱い部分が再び動き、深部の支えも変わる。異なる時代の作用が重なった結果として、現在の高さと位置があります。
参考資料
- Rift linkage and inheritance determine collisional mountain belt evolution(2025)
- Bezada et al.(2014):Piecewise delamination of Moroccan lithosphere from beneath the Atlas Mountains
- Zeyen et al.(2005):Lithospheric structure under the western African-European plate boundary
- U.S. Geological Survey:Major earthquake strikes Oukaïmedene, Morocco(2023)