アフリカとアラビア半島の間に、細長く伸びる紅海。地図では、二つの陸地を切り離した隙間のようにも見えます。この形には実際に、大陸が離れていく運動が関わっています。ただし、地面にできた空の裂け目へ、海水だけが流れ込んだという仕組みではありません。
紅海では、大陸の地殻が引き伸ばされて落ち込み、さらに一部ではマグマから新たな海洋地殻がつくられてきました。海水はその上を覆っています。細長い水面の下で進んでいるのは、海の「器」そのものを増やす運動なのです。
アフリカから離れていくアラビア半島
アラビア半島が載るアラビアプレートと、アフリカの大部分が載るヌビアプレートは、紅海を挟んで互いに離れています。大陸の縁が長い帯に沿って分かれてきたため、海もその帯に沿う細長い形になりました。川が一本の谷を削った結果とは、成り立ちが異なります。
この離れ方は、どこでも同じ幅だけ均等に開く動きではありません。プレートの相対運動には回転が含まれ、場所によって速度や方向に違いが生まれます。中央の海底にも、ひと続きの単純な溝ではなく、細かな区間のずれや起伏があります。
海岸線も、プレート境界そのものではありません。地殻の変形に加え、堆積物、サンゴ礁、海面の変化などの影響を受けるので、現在の両岸をそのままぴったり合わせれば昔の大陸が復元できる、というほど単純ではないのです。
引き伸ばされる地殻と、落ち込む地表
大陸の地殻が引き伸ばされると、厚さが減り、断層に沿って岩盤がずれ、相対的に低くなった場所へ堆積物や水が集まります。こうした伸張の帯を「リフト」と呼び、地殻がどのように離れ始めたかを調べる手掛かりにしてきました。
これは、岩石が水飴のように地表で滑らかに伸び続けるという意味ではありません。浅い場所では割れたりずれたりし、より深い高温の場所では別の変形の仕方をします。地表の断層と、地下深くの薄化を合わせて、地殻全体が広がっていくわけです。
海底拡大の概念断面です。紅海全域で同一の構造が確認済みという意味ではありません。塩や堆積物、断層の細部を省略し、地殻の厚さや海の深さは縮尺どおりではありません。
やがて大陸性の地殻のつながりが失われ、新たな海洋地殻をつくる段階へ進む場合があります。しかし、リフトができれば必ず海になるとは限りません。途中で活動が弱まり、大陸内部の盆地として残る裂け目もあります。
海の底を増やす、海底拡大という過程
プレートが離れる場所では、下のマントルが上昇し、圧力の低下によって一部が融けることがあります。生じたマグマは冷えて新しい岩石となり、両側へ離れていく古い海底の間を埋めます。海底拡大は、岩盤の移動だけでは成り立ちません。新しい岩石の供給も伴う過程なのです。
「隙間が広がる」という言葉から、底のない割れ目を想像する必要はありません。むしろ、岩石が追加されるため、広がった場所にも底ができ続けます。海が広くなることと、地球内部の物質が新しい地殻になることが、同時に起きています。
紅海は、幅の広い大西洋に比べれば小さな海ですが、海底の成り立ちを考える上では重要な比較対象です。「海」と「大洋」という地理上の呼び分けだけでは、地下が大陸地殻なのか海洋地殻なのかは決まりません。
厚い塩と堆積物に隠れた海底の履歴
紅海の地下構造を調べる難しさの一つは、厚い塩類や堆積物が岩盤を覆っていることです。現在の海底の凹凸を測っても、その下の地殻がいつ、どのようにつくられたのかまでは直接見えません。露出する岩石の採取に加え、重力、磁場、地震波などを使った調査が必要になります。
2021年の研究は、重力の細かな変化、海底地形、地震活動を組み合わせ、紅海のほぼ全域で海底拡大が約1300万年前まで遡るというモデルを提示しました。塩や堆積物の下に隠れた、火山活動の高まりの痕跡を手掛かりにしたものです。
一方、同じ2021年の別の地震波研究は、北部紅海を大陸リフトから海底拡大へ移る段階として解釈しています。紅海がプレートの分離でできたという大枠と、どこまで海洋地殻が連続し、いつ拡大を始めたかという詳細は、確かさの段階が違います。
北端の二つの湾、南端の海への出口
紅海の北端は、シナイ半島を挟んでスエズ湾とアカバ湾へ分かれます。どちらも細長い湾ですが、地殻の動き方まで同じとは限りません。アカバ湾側は死海方向へ続く横ずれの構造につながり、紅海の拡大運動が別の境界の動きへ受け渡される場所でもあります。
南側ではバブ・エル・マンデブ海峡を通じてアデン湾、さらにインド洋へつながります。その近くのアファールに集まるのは、紅海、アデン湾、東アフリカの三方向のリフト。紅海をつくる運動は両端で途切れず、動き方の異なる周囲の境界と結び付いているのです。
海水の入口と、海盆をつくる原因
海峡が開いていることは、海水の出入りを考える上で重要です。しかし、それが紅海を細長くした原因そのものではありません。海水が通う経路と、その下の海盆を形成した地殻運動は、別の仕組みです。
現在の紅海の形には、離れていく大陸の縁、新たにつくられる海底、堆積物に覆われた昔の構造が重なっています。地図の青い細長い帯は、単なる陸地の隙間ではなく、大陸から海洋へ地殻の性質まで変わる過程の表面なのです。
参考資料
- Afar Rift Consortium:Geology of Red Sea and Gulf of Aden
- Augustin et al.(2021):13 million years of seafloor spreading throughout the Red Sea Basin
- El Khrepy et al.(2021):Transition from continental rifting to oceanic spreading in the northern Red Sea area
- U.S. Geological Survey:East Africa volcanoes / Afar Triple Junction
- U.S. Geological Survey:The Red Sea Basin Province(北端の湾と断層の配置)