赤道のすぐ南にあるのに、ナイロビでは朝晩に上着が欲しくなることがあります。「赤道に近いほど暑い」という地理の基本と、矛盾しているように見えるかもしれません。けれども、緯度だけで気温が決まるわけではないのです。
ケニアの首都ナイロビは、おおむね標高1800メートル前後の高地にあります。低緯度の強い日射を受けながら、地表近くの空気は高地特有の条件に置かれている。この組み合わせが、ナイロビの気候を理解する出発点です。
赤道に近い都市を、山の高さまで持ち上げた場所
同じケニアでも、インド洋沿岸の低地と内陸の高地では気温の条件が違います。ナイロビは東アフリカ地溝帯の東側に位置し、市街地自体にも高低差があります。「アフリカの都市」「赤道付近の都市」という分類だけでは、この大きな標高差が消えてしまうでしょう。
緯度は、太陽の高さや昼の長さを通じて、地表に入るエネルギーに関わります。一方、標高は気圧や周囲の大気の温度分布に関わる要素。二つは同じ役割を持つ指標ではありません。
つまり、赤道に近いという理由からナイロビの日差しが弱くなるわけではなく、高地だから一年中寒いわけでもないのです。日中には暖かくなり、夕方から冷え込むという、一日の変化にも目を向けると実態がつかめます。
太陽に近い高地ほど、なぜ気温が下がるのか
山の上は太陽に少し近いのに、なぜ涼しいのでしょうか。数キロメートルの標高差は、地球と太陽の距離に比べればごく小さなもの。気温の違いを生む中心的な理由にはなりません。
大気の下の層は、太陽光を受けた地表との熱のやり取りや、空気の上下の動きによって温められます。空気が上昇すると、周囲の気圧が低くなるため膨張し、外へ押し広げる仕事にエネルギーを使って温度が下がる。この断熱冷却も、下層大気で一般に上ほど低温になる仕組みの一部です。
ただし、「ナイロビにある空気がすべて海岸から登ってきて冷えた」という意味ではありません。高地の気温は、その高さの大気、雲、風、地面からの加熱などで決まります。上昇する空気の説明は、大気の温度分布を理解するための基本なのです。
大気の基本過程を示す模式図で、気球やナイロビへ来る実際の空気の経路ではありません。円の大きさは測定値でなく、空気の塊の冷え方と、周囲の気温の高さ分布は別の量です。
「標高100メートルで何度低い」は便利でも固定値ではない
標高による気温の変化は、学校では一定の割合で説明されることがあります。大まかな比較には便利ですが、現実の気温差をいつでも同じ数値で計算できるわけではありません。
上昇中の空気が雲をつくれば、水蒸気が凝結する際の熱が温度変化に関わります。よく晴れた夜に地面が冷えると、そのすぐ上の空気が低温になり、上空の方が暖かい「逆転」が生じる場合もあるでしょう。空気の塊が移動する際の冷え方と、ある時刻に測った周囲の気温の高さ方向の変化も、別の量です。
したがって、海岸の気温から一定の値を引くだけで、ナイロビの当日の気温を言い当てることはできません。標高は強い説明力を持ちますが、天気まで一つで決める条件ではないのです。
夏と冬の差より目立つ、昼と夜の温度差
ナイロビを対象にしたケープタウン大学の2017年の気候資料では、一日の最高・最低気温の差が、平均的に約12度と整理されています。これは市内の全地点を毎日実測した値ではなく、同資料が用いた気候データによる地域的な特徴です。
同資料の1981〜2010年の平均では、日最高気温は暖かい時期に27度前後、涼しい時期に22度前後。日本の多くの地域ほど大きな夏冬の差はありません。一方、夜が明ける頃と昼過ぎでは、体感がかなり変わることになります。
低緯度では年間の昼の長さの変化が小さく、日射の季節差も中高緯度とは異なります。それでも一日の間には、日が地面を温める時間と、夜に地面が熱を失う時間がある。高地の暮らしでは、この日々の温度差が重要なのです。
雨の少ない時期にもある、曇って涼しい朝
乾いた季節なら、毎朝きれいに晴れるのでしょうか。ナイロビでは、そう単純ではありません。ケニア気象局は、ナイロビを含む地溝帯東側の高地について、6〜8月に涼しく曇りがちな天候が現れ、朝に霧雨を伴う場合があると説明しています。
強い雨が長く続くことと、低い雲が空を覆うことは別です。雲が日射を遮れば昼間の気温は上がりにくく、雨季ではなくても肌寒さにつながります。乾季の朝に低い雲が残ると、日差しで暖まるまでにも時間がかかるでしょう。
逆に、雲の少ない夜には地表が熱を失いやすくなります。同じ高地でも、雲が昼と夜のどちらにあるかで、最高気温と最低気温への作用が違う点が面白いところです。
ナイロビの季節を分ける、気温と雨の別々のリズム
ナイロビの雨は、一般に3〜5月の長雨と、年後半の短雨という二つの時期に集中します。熱帯の雨雲の帯や湿った空気の流れが、季節とともに移動するためです。ただし、短雨が毎年同じ日に始まり、同じ量をもたらすわけではありません。
雨の多い月が必ず一年で最も寒い月になるわけではありません。高地であることが全体的な気温の水準に作用し、その上に日射、雲、風、雨の季節的な変化が重なります。
赤道からの距離は、ナイロビの気候を説明する一本の軸にすぎません。地図に標高という縦方向を加えると、強い日差しと涼しい朝が同じ場所にある理由が、無理なくつながってきます。