ラゴスの地図では、市街地の中に大きな水面が入り込み、島や細長い陸地を橋が結んでいます。単に大河の河口にできた都市ではなく、大西洋と砂の地形、その内側のラグーンが組み合わさった都市です。
ラグーンは日本語で潟、あるいは潟湖と呼ばれます。外海と完全に切り離された湖ではなく、狭い水路などを通じて海とつながる水域です。この「海から隔てられながら、海へ通じる」という性質が、ラゴスの港と街の広がりを支えてきました。
外海と内側の水域を分ける、砂の帯
ラゴス周辺の海岸には、外海に沿って延びる砂州やバリアー状の陸地があります。その背後にラゴス・ラグーンなどの水域が広がり、さらに内陸側の土地が続きます。
砂の帯は、動かない壁ではありません。波や沿岸の流れが砂を運び、ある場所へ積もらせる一方、別の場所からは削り取ります。外海の波を直接受ける側と、内側のラグーンに面する側では、岸を変える力も違うのです。
このため、「海沿い」と一口にいっても、波を直接受ける砂浜と、ラグーンに面した岸では条件が違います。ラゴスの都市は、その両方にまたがっています。
海とつながる細い入口、コモドア水路
ラゴス・ラグーンの主な海への出口は、コモドア水路です。内側の水面は広くても、そのどこからでも直接外海へ出られるわけではありません。海と行き来する水も船も、この限られた入口の影響を受けます。
潮が満ちると海水が入り、引くとラグーン側の水が外へ向かいます。同時に、オグン川などから淡水が流れ込みます。潮汐と河川流入が重なるため、流れはいつでも一方向ではありません。
2020年のラグーンの調査研究でも、海に近い西側と河川の影響が強い場所、雨季と乾季で塩分が違うことが示されています。海とつながるから全面が海水、川が入るから全面が淡水、という二択にはならないのです。
ラゴス周辺の水域の接続を示す概念図で、正確な海岸線・島の配置・水路幅ではありません。青と赤の矢印は異なる潮時の向きで、同時刻の二層流を描いたものではありません。
天然の入口だけでは足りなかった、大型船の航路
ラグーンの入口があれば、そのまま大型船が入れる良港になるのでしょうか。ラゴスでは、入口付近の砂の移動と浅い場所が、船の出入りを難しくしてきました。
ナイジェリア港湾公社の沿革は、20世紀初頭に浚渫や突堤の建設が進められた経緯を記しています。浚渫は底の砂などを取り除く工事、突堤は流れや砂の移動に作用する構造物です。自然の水路を、船が通れる航路として維持するための仕事でした。
港が発達したのは、自然地形が完成品の港を用意していたからではありません。外海と内側の水域を結ぶ有利な位置に、工事と管理を加えて利用してきた結果です。
島の市街地から、本土側へ広がる港湾都市
ラゴス島などの市街地と、本土側の都市域は、水路を挟んでつながっています。アパパなどに港湾施設が発達すると、岸壁だけでなく、倉庫や荷物を運ぶ陸上交通のための土地も必要になりました。
港湾公社の資料では、アパパ港の岸壁整備に伴い、背後の土地を造成して倉庫や鉄道の設備を置いた経緯が紹介されています。船の入れる水域と、陸で荷物をさばく広さの両方が、港の成長を左右するのです。
都市全体も、一つの島に収まる規模ではなくなりました。ラグーンの西や北の本土側、東のレッキ方面へ市街地が広がり、水路を渡る橋や、限られた陸の帯に沿う交通が重要になっています。
水面を埋めれば、都市の問題はなくなるのか
土地が足りない場所では、埋め立てや砂の投入によって市街地を広げる動きが生じます。2024年の東部ラゴスを対象にした研究も、複数時期の衛星画像から、湿地や水際の土地利用の変化を調べています。
ただし、造成地ができることと、地域全体の水の問題が解消することは同じではありません。水のたまる場所や流れる道が変われば、周囲の排水条件も変化しうるからです。
外海側では、海岸構造物や砂の供給の変化が、侵食や堆積に関わります。2022年のラゴス沿岸の研究は、海岸を複数の区間に分け、同じ都市の中でも前進する岸と後退する岸があることを示しました。「ラゴスの海岸線」が一様に動くわけではないのです。
橋の下の水も、街の外の空白ではない
道路地図では、建物のない水面は街の空白のように見えます。しかし、ラグーンは河川の水を受け止め、潮とともに海へ流し、船の通り道や生物の生息場所にもなっています。
橋を架ければ両岸の距離は縮まりますが、水路そのものがなくなるわけではありません。陸上交通をつなぐ計画と、水が通る空間を保つ計画は、同じ地形の上で両立させる必要があります。
ラゴスが島と潟の周囲に広がったのは、外海への接続と内側の水域という利点があったからです。その成長を支えた水と陸の複雑さが、今度は移動や土地利用の制約にもなる。ラグーン都市の形には、その両面が表れています。
参考資料
- Fajemilaほか(2020):Spatial distribution of benthic foraminifera in the Lagos Lagoon
- Nigerian Ports Authority:Nigerian Ports Handbook 2018
- Oyedepo・Oluyege(2024):Spatiotemporal assessment of wetlands and land reclaim activities in Eastern Lagos State Nigeria
- Journal of African Earth Sciences(2022):Nearly five decades of changing shoreline mobility along the densely developed Lagos barrier-lagoon coast of Nigeria
- Gilbert・Shi(2024):Urban Growth Monitoring and Prediction Using Remote Sensing Urban Monitoring Indices Approach