ビクトリアの滝は、山の斜面から開けた谷へ落ちる滝とは違います。幅広いザンベジ川が、流れを横切るように伸びた細長い谷へ突然落ち込み、集まった水は狭い出口から下流へ抜けていきます。
この形を生んだのは、玄武岩の台地に刻まれた割れ目と、そこを長い時間かけて掘り広げた川の作用です。滝の下流に続く折れ曲がった峡谷には、かつて滝があった位置も残っています。
広い川と狭い峡谷の接点にある落差
ザンビアとジンバブエの国境にあるビクトリアの滝は、幅がおよそ1.7キロメートル、最大落差は約108メートル。上流の広く勾配の緩い川と、下流の深く刻まれた峡谷とをつなぐ地形の境目です。
上流では水が島を挟んだ複数の流れに分かれていても、滝では幅広い縁から一つの細長い峡谷へ落ち込みます。その底で集まった水は、狭い通路を通って、さらに折れ曲がった谷の連なりへ入っていくのです。
したがって、滝の正面に広い川がそのまま伸びているわけではありません。水が落ちる方向と、その直後に峡谷の底を進む方向が大きく変わることが、この滝の独特な形を生んでいます。
上は平面、下は断面で、いずれも説明用の模式図です。峡谷の数・間隔・出口の位置や落差の比率は実測ではありません。下段の破線は以前の崖、赤い矢印は後退方向で、地盤全体が左へ動く意味ではありません。
溶岩の台地にもある、削られやすい筋
この地域の土台は、ジュラ紀の火山活動によって流れた溶岩が固まった玄武岩です。硬い岩盤ですが、内部まで継ぎ目のない一枚板ではありません。
岩石が冷える過程や、その後の地殻の変形などによって割れ目ができ、そこには水が入り込めます。割れ目に沿って風化が進んだり、岩の塊が分離しやすくなったりすると、川は周囲の頑丈な部分より、その筋を優先して削ることができます。
ここでいう割れ目を、すべて同じ種類の断層と呼ぶのは正確ではありません。岩盤が割れただけの節理と、両側がずれる断層は区別されますが、いずれにせよ水が侵食しやすい方向を与えることが重要です。
細い谷があるからといって、ある日に地面が大きく裂け、水が落ち始めたという成り立ちではありません。岩盤の構造が道筋を与え、その道筋を川が拡大して峡谷にしたのです。
下流へ流れる水と、上流へ移る滝
水は下流へ進むのに、滝は上流へ後退する。少し不思議ですが、動いているものを分ければ矛盾はありません。移動するのは水だけでなく、水が乗り越える岩の縁でもあるためです。
落下する水や、流れに運ばれる砂礫が岩盤を削り、割れ目に区切られた岩塊が外れると、崖の位置が少しずつ上流側へ移ります。滝は同じ場所に立ったまま川底を掘るだけでなく、川の縦断形を変えながら位置を変えていくのです。
その進み方は、川の全幅で同じとは限りません。侵食の進みやすい場所に流れが集中すると、そこが先に上流へ切り込むため、滝の縁の形にも偏りが生まれます。
ジグザグの峡谷に残る、以前の滝の位置
ビクトリアの滝の下流では、川が何度も大きく向きを変えます。この折れ曲がりは、平らな土地の川が自由に蛇行してできる曲線とは違い、岩盤の割れ目などに沿ってできた、直線的な谷の組み合わせです。
滝が一つの筋を掘り進み、別の割れ目に沿った侵食が上流で優勢になると、水の落ちる位置が変わります。以前の滝の前にあった谷は、その後の川が通る下流の峡谷として残るのです。
宇宙から撮影した画像にも、この段階的な移動を示す谷の形が写っています。いま水煙を上げる一本の滝だけでなく、下流の峡谷まで含めて見ると、川が岩盤を削ってきた長い過程をたどれます。
水の少ない季節に見える、滝の縁の高低差
ビクトリアの滝は、どの季節にも同じ厚さの水の幕がかかるわけではありません。流量が減ると水の落ちる場所が分かれ、ふだん水に隠れている岩の面が現れます。
これは滝の縁が完全な水平線ではないためです。水が多ければ広い範囲を越えて流れ落ちますが、少なければ低い場所や深く削られた流路に水が集中します。
ジンバブエ側のデビルズ・カタラクトは、今後さらに侵食が上流へ進む起点として説明されてきました。ただし、将来の変化を毎年一定の速度で進む工事のように扱うことはできません。岩盤の状態や洪水の規模によって、崖の崩れ方と削られ方は変わります。
峡谷が生み出す水煙と、湿った森
狭い谷へ大量の水が落ち込むと、水は細かな飛沫になり、上空へ水煙を立ち上らせます。「雷鳴のとどろく煙」を意味するモシ・オ・トゥニャという呼び名は、その景観と音をよく表しています。
飛沫は眺めの一部であるだけでなく、周囲の植物を支える水の供給でもあります。滝の水煙が届く範囲には湿った森があり、その環境は川の水量と、飛沫の届く位置に強く結び付いているのです。
玄武岩の割れ目から始まった地形の違いが、水の落ち方を変え、霧のような飛沫をつくり、森の分布にまで影響する。ビクトリアの滝は、水が岩を削る場所であると同時に、その岩の形が水と生きものの環境を決める場所でもあります。
参考資料
- IUGS:Mosi-oa-Tunya / Victoria Falls(地質学的な位置付け、寸法、峡谷形成)
- UNESCO World Heritage Centre:Mosi-oa-Tunya / Victoria Falls(滝の移動と水煙に支えられる生態系)
- IUCN(1989):世界遺産推薦評価資料(岩盤の裂け目、季節による水の落ち方の違い)
- Moore・Cotterill(2010):Victoria Falls: Mosi-oa-Tunya — The Smoke That Thunders(周辺の地質と地形発達)
- NASA:Victoria Falls, Zambezi River(宇宙飛行士撮影画像に見える峡谷と過去の滝の位置)