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モザンビーク海峡にはなぜ巨大な渦ができるのか 島と大陸の間を流れる海水

公開日

アフリカ大陸とマダガスカル島の間には、南北に長いモザンビーク海峡があります。海流の地図に南向きの矢印が一本あれば、大きな川のように海水が流れていると思うでしょう。しかし観測された海は、はるかに複雑でした。

海峡では、直径が数百キロメートルに及ぶ渦が、周囲に海水を回しながら移動しています。島と大陸がつくる通路、流れの速さの違い、地球の自転も関わる大規模な動きです。浴槽の排水口のように、中央の穴へ水が吸い込まれる現象ではありません。

海峡を流れる川ではなく、移動する渦の列

2000年に実施され、2002年に論文として報告された船舶観測では、直径300キロメートルを超える大きな渦が捉えられました。水面付近だけの模様ではなく、海底に近い深さにも回転の影響が及んでいたのです。海に浮かべた観測ブイも、渦の周囲を回る軌跡を描きました。

この調査で、大陸棚の縁に沿って途切れず流れる一本の「モザンビーク海流」は確認されませんでした。だからといって、海峡を通じた南向きの水の輸送がないわけではありません。回転する水を抱えた渦が南へ進めば、それ自体が水の輸送になります。

マダガスカル島が分けるインド洋の流れ

インド洋を西へ向かう流れは、マダガスカルをそのまま通り抜けられません。島の周囲へ分かれ、北側を回った水の一部がモザンビーク海峡へ入ります。その先も一様な幅の水路ではなく、北側の広い海域から狭い部分を経て、南へ開く形です。

海岸線の曲がりや幅の変化は、流れの向きと速さの分布を変えます。速く進む水のすぐ隣に、遅い水や逆向きの水があれば、その境目にはずれが生じるでしょう。この横方向の速度差が不安定になり、大きな流れのエネルギーが渦へ移る仕組みが重要なのです。

流れのずれから育つ、海の回転運動

2024年の研究は、衛星観測と海洋モデルなどを組み合わせ、北部のコモロ海盆や海峡中央部で渦が生まれる過程を調べました。特にコモロ海盆西部では、マダガスカル北東側から回り込む南向きの流れと、その近くの逆向きの流れとの速度差が、渦を育てる条件になっています。

専門的には、こうした横方向の速度差から成長する仕組みを順圧不安定と呼びます。狭い所を水が通るだけで、必ず同じ渦ができるわけではありません。海底地形、海峡へ入る流れ、周囲から伝わる波なども関係するため、「島があるから渦ができる」という一段だけの説明では足りないのです。

南半球の高気圧性の渦と、その南向きの移動
大陸を左、マダガスカル側を右に置き、中央の渦の西側で水が南向き、東側で北向きに動く。赤い矢印は渦全体の南向き移動で、水の回転と区別する。

典型的な高気圧性の渦を一つ示した模式平面図です。海岸線、幅、速度は実測ではありません。逆向きの渦や深層の北向き流れは省略しています。海峡のすべての水が南へ動く、という図ではありません。

渦の回転方向と、渦が進む方向の違い

南半球の代表的な高気圧性の渦を上から見ると、西側では水が南へ、東側では北へ進み、全体として反時計回りになります。高気圧性という名は、天気の高気圧と同じ向きに回ることに対応するものです。海中に空気の高気圧がある、という意味ではありません。

その渦全体が南へ移れば、海峡のある地点で測った流れは、渦のどの部分が通過するかによって変わります。一日の観測では北向きでも、長期間の輸送が南向きであることと矛盾しません。水粒子の回転、渦の移動、海峡全体を通る正味の輸送は、それぞれ別の量なのです。

反時計回りの渦の中心が観測点の東側を通る場合、その点では南向きの流れが強くなり得ます。中心が西側なら、反対に北向きの流れを捉えるでしょう。観測機器を海峡の幅全体に並べるのは、一点の流速を海峡全体の流量と取り違えないためでもあります。

海面の高さと海中の流速で確かめる渦

海面は完全な平面ではありません。渦に伴う緩やかな盛り上がりやくぼみを人工衛星の高度計で追うと、海の表面近くの流れを推定できます。ただし、それだけでは深い場所の流速や水温までは分かりません。

2009年の研究では、海峡の狭い部分に並べた係留観測機器の、2003〜2006年の記録を解析しました。表層の強い変動に加え、大陸斜面沿いの深い所には北向きの流れも存在します。衛星で広がりを捉え、海中の機器で深さ方向を補うことで、海峡の水の動きを立体的に確かめられるのです。

一種類ではない渦と、南方へ運ばれる海水

初期の観測で目立った大きな反時計回りの渦だけが、この海峡の全容ではありません。逆向きに回る渦や、回転の異なる二つが組になる双極性の渦も研究されています。2024年の解析は、こうした渦の生まれる場所や分布の違いを示しました。

海峡を南へ通る水は、さらに南方のアガラス海流系につながり、その途中で渦による水温や塩分の輸送、周囲の水との交換が起こります。海流図の一本の矢印では、こうした違いまで描き切れません。同じ海峡でも、表面と深層、渦の内側と外側で、違う経路の水が行き交っているのです。

このため、海峡を通る水量を比較する際には、観測期間や測った深さが重要になります。実際、2000年の航海から得た推定値と、2003〜2006年の長期観測の平均値は同じではありませんでした。海流が単に強くなった、弱くなったと結論する前に、変動の大きい海をどの時間幅で捉えたかが問われます。

参考資料

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