マダガスカルには、湿った東海岸と、乾燥の強い南西部があります。同じ島を海が取り囲んでいるのに、なぜ雨の量は均等にならないのでしょうか。鍵は、海から来る空気が、どちら向きに吹き、どこで山を越えるかにあります。
島の東側にはインド洋から湿った貿易風が届き、その内側には中央高地が横たわっています。東の斜面で持ち上げられた空気が雨を降らせ、西側はその風下になる構造です。ただし、西側すべてが一年中乾いているわけではありません。夏の雨をもたらす別の大気の流れが、この東西差に重なります。
海から高地へ、急に立ち上がる東の斜面
マダガスカルの中央部は広い高地で、東海岸からは比較的急な斜面を上ってそこへ達します。一方、西側はより長い斜面を経て海岸へ下る地形です。島を東西に横切る空気にとって、左右対称の障害物ではありません。
マダガスカル気象当局の2023年の資料では、中央の高地は平均して標高800〜1600メートルほどの範囲と説明されています。海面付近を進んできた空気を持ち上げるには、十分な高さでしょう。沿岸と高地の距離が短い東側では、空気が急に上昇しやすいのです。
南東貿易風が東海岸へ届ける水蒸気
南半球のインド洋では、南東から吹く貿易風が、海の水蒸気を含んでマダガスカルへ向かいます。東側の斜面はその進路上にあるため、空気は水平に進み続けることができません。上方へ押し上げられると、気圧の低い所で膨張して冷えるのです。
冷えると、空気中の水蒸気が凝結して雲粒になり、条件が整えば雨となります。山が雲を物理的にせき止めるだけの話ではありません。湿った空気を冷やし、雲や雨をつくる過程そのものを、地形が促しているのです。
貿易風に対する風上・風下を示す模式断面です。標高や雨量の実測図ではなく、中央高地の凹凸や迂回する風は省略しています。夏の西部の雨を運ぶ別の循環は本文で説明しています。
西側へ下る空気と、雨陰の仕組み
東の斜面で雨を降らせた空気が山を越え、西側へ下降すると、今度は圧縮されて暖まります。東側で失った水分が、下降しただけで戻るわけではありません。相対湿度も下がりやすく、風上より雲や雨が生じにくい環境になるのです。
この風下側の環境を雨陰と呼びます。相対湿度は、その温度で水蒸気が飽和する状態にどれだけ近いかを表す割合なので、水分がどれだけあるかだけでは決まりません。水蒸気の量が同じでも空気が暖まれば割合は下がり、雲のでき方にも違いが生じるのです。
雨陰という言葉は、「山の向こうには一滴も水蒸気が届かない」という意味ではありません。空気が山を迂回する場合も、別の向きから湿気が入る場合もあります。東西差は雨が降る確率や量の偏りであって、島の中央に越えられない気象の壁があるわけではないのです。
西部にも雨を運ぶ、南半球の夏
マダガスカルでは、概して11〜4月が暑く湿った季節、5〜10月が比較的涼しい乾いた季節に当たります。冬も貿易風の影響を受ける東部と違い、西部や中央高地の雨は夏へ集中しやすい傾向です。南半球の1月を、日本のような冬の月と考えることはできません。
夏には、低緯度の湿った空気が集まる熱帯の雨帯や北西からの流れ、地表の加熱に伴う対流が重要になります。雷雨やサイクロンも雨の供給に関わるため、東から吹く貿易風だけで一年を説明することはできません。西側にも雨季があるのは、中央高地が消えるからではなく、雨を運ぶ条件が季節とともに変わるためなのです。
「西は乾燥」だけでは分からない北西と南西の差
気象当局は、島を湿潤な東海岸、中央高地、北西部、半乾燥の南西部という四つの大きな気候域に分けています。西側を一色で塗ると、北西部の雨季と、さらに雨が少ない南西部の違いが消えてしまいます。
たとえば2019年の研究が用いた南西部トゥリアラの1951〜1990年の観測では、年間降水量は約418ミリメートルで、その81%が11〜3月に集中していました。これは特定地点の過去の平年状態であり、島全体の雨量ではありません。総量が少ないうえに、雨の降る月まで偏ることが、南西部の乾燥を特徴付けています。
反対に、北西部は夏に熱帯の湿った空気の影響を受けやすくなります。東西の位置が似ていても、雨帯に近い北と、その届き方に左右されやすい南とでは条件が違うのです。島の気候を分ける線は、中央高地に沿った一本だけではありません。
同じ山並みでも変わる、雨季の強さ
山の位置は年ごとには変わりませんが、雨季の雨量は変動します。南西部に届く熱帯の湿気の量は、雨帯がどこまで南へ動くか、周囲の海面水温や大気循環がどう変わるかに左右されるためです。乾燥の原因を地形だけに固定すると、こうした年々の差を説明できません。
南西部の石筍を調べた2019年の研究では、過去の湿潤・乾燥の変化にも、雨帯の移動と海面水温の両方が関係していました。中央高地は東西差の土台をつくり、その上に季節と海洋の変動が重なります。マダガスカルの多様な気候は、山と風の一回きりの衝突ではなく、この組み合わせの結果なのです。
参考資料
- Météo Madagascar:Changements Climatiques(2023年、地形・気候の概要)
- Direction Générale de la Météorologieほか:マダガスカルの気候変化資料(2019年、気候区分)
- Scroxton et al.(2019):Competing Temperature and Atmospheric Circulation Effects on Southwest Madagascan Rainfall During the Last Deglaciation
- World Weather Attribution:マダガスカル南部の少雨に関する研究報告(気候背景)