世界地図では巨大な面積を占めるカナダですが、人口の分布は国土の形に似ていません。トロント、モントリオール、バンクーバーなどの大都市は南側に並び、その北には人口密度の低い地域が広がっています。
北が寒いという説明は大切ですが、それだけでは十分ではありません。農業に使いやすい土地、水上交通、アメリカとの交易、都市に集まった仕事と施設。これらが重なる場所に人が定着し、後から来る人も引き寄せてきたことが、南への偏りを強くしています。
国土の約4%に、人口の約3分の2
カナダ統計局は2016年国勢調査の結果を説明する際、人口の66%がアメリカとの南側の国境から100キロメートル以内に住んでいたと示しました。その範囲は国土の約4%です。国全体で割った人口密度では、この集中の強さは見えません。
ここでの100キロは、国境からの距離です。国土を同じ緯度で上下に二分した数字でも、アラスカとの境界を含む全周の数字でもありません。五大湖沿いに国境が入り組むため、東部の大都市群もこの細い帯に含まれます。
この値は2016年の状況を表したもので、現在の割合を推計した数字ではありません。それでも「広い国土に少しずつ人が散らばっている国」という印象とは違い、限られた場所に人口が集まる構造をよく示しています。
冬の暖かさより重要な、作物が育つ季節の長さ
南部にも厳しい冬はあります。モントリオールやウィニペグが大きな都市になったのは、一年中温暖だったからではありません。北方と比べて夏に得られる熱や農作業のできる期間に恵まれ、周囲の土地を継続的な生産に使いやすかったことが重要です。
カナダの主な農地は南部に集中しています。ただし、一続きの同じ畑ではありません。オンタリオ南部には多様な農畜産業があり、中西部のプレーリーでは広い農地が都市を取り巻くなど、地域ごとに土地の使われ方も違います。
寒さは地域の選択肢を狭めますが、都市の位置を一点に決めるわけではありません。同じ南部でも、平地、土壌、水、交通がそろう場所と、山地や岩盤の多い場所では、形成された集落の密度が違います。
南オンタリオと楯状地を分ける、土の厚み
オンタリオ州では、南部の農地から北へ進むと、岩と森林と湖の多い景色へ変わります。この変化の背景にあるのが、カナダ楯状地という古い岩盤の広がりです。
氷期の氷床は、岩を削るだけでなく土砂も運びました。岩盤が露出し、土壌が薄い場所では、大きな畑を連続して確保しにくい。一方、南オンタリオには氷床が残した堆積物が厚く覆う土地があり、農業を支えてきました。
楯状地にも、谷に厚い土が残る場所があり、全域が裸の岩というわけではありません。それでも地質と土壌の広域的な違いは、畑や道や町をどこまで連続させやすいかに影響します。「寒い北、暖かい南」という二色だけでは表せない差なのです。
五大湖とセントローレンス川に沿った交通の軸
東部の人口集中は、単に国境と平行な帯ではありません。五大湖からセントローレンス川へ続く水路に沿って、都市と産業が連なる形を持っています。内陸の都市でも、大きな湖や川に接することで、外の地域へ物資を運ぶ経路を得られました。
船の輸送には、一度に多くの荷を動かせる利点があります。もちろん、湖と海の間にある高低差や急流を、船がそのまま通れたわけではありません。運河や閘門などの整備によって、水路のつながりが長距離輸送に使える形へ変えられてきました。
その周辺に鉄道や道路、工場、市場が重なると、次の事業も既存の交通網を利用できます。土地が広く空いている場所へ一から設備を延ばすより、すでに結ばれた地域へ集まる方が有利な場合が多いのです。
国境は壁であると同時に、大きな市場への接点
南側にあるのは、気候条件だけではありません。国境の向こうには、アメリカの都市と市場が連なっています。貿易や人の移動に使う距離が短いことは、カナダ側の都市や製造業にとって重要な立地条件です。
ただし、南部が一続きの巨大都市になっているわけではありません。西岸の港湾都市、プレーリーの農業や資源産業に結び付いた都市、五大湖・セントローレンス地域では、発展の経路が異なります。
エドモントンのように、アメリカとの南側の国境から離れて発展した大都市もあります。南への人口集中は全体の傾向であって、「国境から100キロを超えると都市がない」という意味ではありません。
すでにある都市が、次の人口を引き寄せる仕組み
現在の人の移動は、農地の条件だけでは説明できません。仕事、学校、交通、生活を支えるサービス、家族や知人とのつながりが、転居先の選択に関わります。都市が育った後には、その集積自体が人を呼ぶ条件になるのです。
2021年国勢調査では、移民人口の92.2%が国勢調査上の大都市圏に住んでいました。この数字は「人口の92.2%が国境近くにいる」という意味ではなく、対象も範囲も2016年の国境沿いの統計とは違います。都市への集中を示す、別の側面です。
北方にも先住民の生活の場や地域の中心都市があり、人口密度の低さを、人の営みが存在しないことと取り違えることはできません。カナダの南北差は、住めるか住めないかの線引きではなく、多くの人が定着する条件が、どこで重なってきたかという地理の問題なのです。
参考資料
- カナダ統計局:Population size and growth in Canada(2016年国勢調査)
- カナダ統計局:Agricultural Ecumene Boundary File, Reference Guide(2021年)
- カナダ政府:Discover Canada, Canada’s Regions
- カナダ天然資源省・オンタリオ地質調査所:Parry Sound GeoTour(2015年)
- カナダ統計局:Immigrants make up the largest share of the population in over 150 years(2021年国勢調査)
- セントローレンス海路管理機関:The St. Lawrence Seaway