カナダの冬といえば、雪に覆われた街を思い浮かべるかもしれません。ところが、太平洋側のバンクーバーでは、冬の降水の多くが雨です。一方、東部のモントリオールでは、真冬に一日中氷点下という日も珍しくありません。
しかも、緯度はバンクーバーのほうが高め。冬の寒さを分けているのは、単純な南北の位置よりも、空気が海の上を通ってきたのか、大陸の上を通ってきたのかという違いなのです。その空気の通り道に、西部の山脈が大きく関わっています。
1月の平均気温に表れる13度以上の差
カナダ環境・気候変動省の1991〜2020年平年値では、バンクーバー国際空港の1月の日平均気温は4.1℃、モントリオール・トルドー空港はマイナス9.2℃でした。同じ期間、同じ種類の平均値を比べても、差は13.3℃に達します。
これは最低気温の比較ではありません。昼夜を含む平均で、モントリオールは氷点下に大きく下がっているということです。また、空港の観測値なので、都市の全域がいつもこの気温になるわけでもありません。それでも、二つの都市の冬がどれほど異なるかは、はっきり表れています。
カナダ環境・気候変動省の1991〜2020年平年値。月平均値を直線で結んでいます。空港観測点の比較であり、各市内全域の温度や、特定年の天気を示すものではありません。
海から届く空気が和らげるバンクーバーの冬
水は陸地に比べて温まりにくく、冷めにくい性質を持っています。海では上下の混合や流れによって熱が移動するため、表面の薄い部分だけが急速に冷え切るわけではありません。冬の北太平洋は、冷え込んだ大陸内部ほど低温にはなりにくいのです。
その海の影響を街へ運ぶのが、中緯度を西から東へ流れる大規模な空気の動きです。太平洋上で水温の影響を受けた空気が沿岸へ入ることで、冬の寒さが和らぎます。ただし、毎日西風が吹き続けるわけではありません。個々の低気圧によって風向きが変わっても、長期的な気候には、海との熱のやり取りが強く表れるのです。
山脈の西と東で変わる寒気の入りやすさ
海岸山脈やロッキー山脈など、カナダ西部を南北に貫く山地は、内陸の寒気が海岸へ広がる際の障壁になります。太平洋側にあるバンクーバーへ、大陸で冷えた低い層の空気がそのまま押し寄せることは簡単ではありません。海からの空気を受けやすく、内陸の空気は山に隔てられるという、二重の位置関係なのです。
ただし、山脈は気密性のある壁ではありません。気圧配置によっては、内陸の寒気が谷を通って流れ出し、沿岸にも厳しい冷え込みや雪をもたらします。温暖な平年値と、まれに起こる大雪は矛盾しないのです。
大陸の寒気が届くモントリオール
モントリオールは大西洋に面した港町ではなく、セントローレンス川沿いの内陸都市です。西や北から入る空気は、広い陸地の上を通ってきます。冬に強く冷やされたカナダ北部の空気の影響を受けやすく、太平洋沿岸のような海の保温効果は期待できません。
地図で大西洋までの距離を測るだけでは、この違いを十分に説明できないでしょう。海が近くにあるかどうかに加え、空気が主にどちらから来るかが重要だからです。海から陸へ入りやすい西岸と、大陸の空気が届きやすい東部では、同じ緯度でも冬の条件が異なります。
夏には逆転する二つの都市の気温
冬に暖かいバンクーバーが、一年中モントリオールより暖かいわけではありません。同じ平年値の7月は、バンクーバーが18.2℃、モントリオールが21.7℃。夏には順序が逆転します。
海は冬に暖めるだけの装置ではありません。温まりにくい太平洋は夏の昇温も抑えるため、バンクーバーの気温は一年を通じて穏やかに変化します。それに対し、陸地の影響が強いモントリオールでは、冬の冷え込みと夏の昇温の両方が大きくなるのです。
月平均の最高と最低を引くと、バンクーバーでは14.3℃、モントリオールでは30.9℃。この「一年の中でどれだけ変わるか」という差こそ、海洋性と大陸性の気候を見分ける手掛かりになります。
雨の多い冬と、雪の残る冬
バンクーバーの冬は、暖かいから乾燥しているのではありません。太平洋の低気圧や前線が水分を運び、山地にぶつかった空気が上昇すると、雲や降水が発達します。市街地では雨でも、標高の高い周囲の山では雪になることもあるでしょう。
モントリオールでも冬に雨が降る場合はありますが、低温の期間が長いため、降った雪が残りやすい条件です。「雨の街」と「雪の街」の違いは、水分の量だけでなく、その水分がどの温度の空気を通って地上へ届くか、降った後に融けるかによっても生まれます。
二つの都市の冬を隔てているのは、数千キロの距離だけではありません。海の熱、空気の移動、山脈の配置が組み合わさり、北にある街のほうが暖かいという、一見逆転した気候をつくっています。
参考資料
- Environment and Climate Change Canada:Vancouver International (Airport), Canadian Climate Normals 1991–2020
- Environment and Climate Change Canada:Montreal Trudeau (Airport), Canadian Climate Normals 1991–2020
- Environment Canada:Georgia Basin-Puget Sound Airshed Characterization Report 2014, Chapter 3
- Natural Resources Canada:From Impacts to Adaptation: Canada in a Changing Climate 2007, Chapter 8
- Parks Canada:Climate, Chambly Canal National Historic Site