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メキシコシティはなぜ熱帯に近いのに涼しいのか 高原都市の標高と気温

公開日

メキシコシティは北緯約19度。緯度だけなら、日本の南西諸島よりも赤道に近い都市です。それなのに、年中蒸し暑い海辺のリゾートのような気候ではありません。

大きな違いを生むのが、海抜約2,240メートルという高さです。都市の多くは、高い場所にある盆地に広がっています。太陽の当たり方を決める緯度と、空気の温度に強く関わる標高。その二つを重ねると、低緯度に涼しい大都市がある理由が分かります。

回帰線の内側にある、標高2,000メートル台の都市

メキシコシティは、地理的には北回帰線より赤道側に位置します。ただし、「回帰線の間にある」という位置の説明と、「一年を通じて高温の熱帯気候である」という気候の説明は同じではありません。山が高ければ、低緯度でも気温は下がります。

UNAMの大学都市にある観測地点も、標高は2,268メートルです。高い山へ特別に登った人だけが経験する高さではありません。大学へ通う人や通勤中の人が歩く地面そのものが、日本なら山地に相当する高さにあるのです。

空気の上昇と膨張が支える、高地の低温

天気が起こる対流圏では、一般に上へ行くほど気温が低くなります。この分布には、地表と大気の熱のやり取りや、空気の上下の移動が関わっています。太陽に少し近づいた分だけ暖かくなる、という仕組みではありません。

空気の塊が上昇すると、周囲の気圧が低くなるため膨張し、周りを押し広げる仕事にエネルギーを使います。その分だけ温度が下がるので、冷たい物体に接触しなくても空気は冷えるのです。この断熱冷却を抜きに、高地の気温を説明することはできません。

ただし、「標高が100メートル上がれば必ず何度下がる」と、街の気温を一つの数式で決めることはできません。上昇中の空気の冷え方と、異なる場所で実際に観測される気温差は別で、水蒸気、雲、風、地面の状態なども影響します。夜間などには、低いところに冷たい空気がたまり、上下の温度が逆転する場合もあります。

緯度に標高が加わると、熱帯のイメージは変わる
上段は海面より高い盆地の底にあるメキシコシティの位置を示す模式断面。下段は上昇した空気が低い気圧のもとで膨張し、温度を下げる過程。

上段は位置関係だけの模式図で、実際の海から都市までの地形断面ではありません。下段は周囲と熱を交換しない上昇を概念化したもので、空気の体積は任意です。現実の気温は湿度・雲・風などにも左右され、一定の気温減率や都市の気温を示してはいません。

海面付近の暑さを、そのまま持ち込めない標高

海辺の低地と高原では、同じような緯度でも、地表が接する大気の高さが異なります。高原では、周囲の高い位置の空気との熱のやり取りを含めて、気温が決まります。「メキシコだから暑い」という国単位のイメージでは、この差が抜け落ちてしまうでしょう。

メキシコ統計地理庁の資料にあるサン・フアン・デ・アラゴン観測所は、標高2,240メートル。1954〜2023年の平均では、年平均気温は17.1℃です。これは約70年間の資料に基づくその地点の値で、現在の市全体の平均や、特定の日の暑さを表したものではありません。

真夏より5月のほうが高い月平均気温

同じ観測所の長期平均では、5月は19.5℃、7月は18.4℃でした。日本の多くの地域のように、夏の盛りへ向かって単純に暑さが増すわけではありません。ここには、乾季と雨季の違いが表れています。

雨が増えると、雲が日差しを遮り、濡れた地面からの蒸発にも熱が使われます。サン・フアン・デ・アラゴンの同じ期間の月降水量は、5月の47.5ミリに対し、7月は117.1ミリ。日射の季節変化に、雨と雲の季節変化が重なるため、最も暑い時期が夏至の頃と一致するとは限らないのです。

一つの行政区域の中にある、盆地と山地

メキシコシティという行政区域は、一枚の平坦な盆地ではありません。南部や西部の高い山地も含み、統計地理庁の資料には、標高約2,240メートルの観測所とともに、約2,990メートルのエル・グアルダ観測所が掲載されています。都市名が同じでも、この二地点の標高差は約750メートルに及ぶのです。

そのため、「メキシコシティの気温」とだけ示された数字では、市街地のどの地点か、山地まで含む範囲かによって意味が変わります。これは細かな統計上の問題にとどまりません。実際に、低い盆地の市街地と高い斜面では、日々の寒さや植生の条件が異なります。

高地でも起こる熱波と、都市がためる熱

標高が高いことは、暑い日が来ないという保証ではありません。雨雲が少なく、強い日射を受ける状態が続けば、地面と空気は暖まります。アスファルトや建物に覆われた都市では、自然の地面とは熱のたまり方や放出の仕方も変わります。

UNAMの気候研究者は、2024年5月のメキシコシティで34.7℃が記録された例を取り上げています。涼しい長期平均の背景にある標高と、特定の期間に暑さをもたらす気圧配置は、同時に作用するものです。高原の気候も、都市化や地球規模の温暖化と切り離せません。

メキシコシティは、緯度のわりに涼しい都市であると同時に、強い日差しも熱波も経験する都市です。緯度を横軸、標高を縦軸として考え、そこへ雨季と都市の地表を加えると、その一見複雑な気候に筋道が通ります。

参考資料

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