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リマはなぜ曇りや霧が多いのに雨が少ないのか 太平洋岸の冷たい海と逆転層

公開日

空は灰色で、空気もしっとりしている。それなのに周囲の丘は乾いていて、本格的な雨はめったに降りません。ペルーの首都リマには、日本で暮らしていると少し結びつきにくい天気の組み合わせがあります。

その理由は、海から水分が届かないことではありません。冷たい海の上で雲や霧はできるものの、上空へ厚く育ちにくいのです。海面近くの冷気と、その上の暖かな空気。この上下関係が、曇り空の多い砂漠の都市をつくっています。

「湿った空気」と「雨の多い土地」の違い

雨量は、地面へ落ちてきた水の量です。一方、天気予報でいう湿度は、ある温度での飽和水蒸気量に対して、空気中にどれほど水蒸気があるかを表しています。湿度が高くても、それだけで多くの雨が降るとは限りません。

空気が冷えれば、含み得る水蒸気の量は小さくなり、同じ水分量でも相対湿度は上がります。十分に冷えると水蒸気の一部が小さな水滴になり、雲や霧として見えるようになります。

しかし、微小な水滴が空気中に漂う段階と、雨粒へ成長して地面を濡らす段階とは別です。霧で遠くが見えなくなっても、大量の水が一度に地表へ供給されているわけではありません。リマの湿った印象と、雨の少なさは両立するのです。

熱帯の海岸を冷やす、フンボルト海流と湧昇

リマは南緯12度付近にあり、緯度だけなら熱帯の都市です。それでも、海岸の気候は赤道近くの蒸し暑い雨林とは大きく異なります。

ペルー沿岸を冷やすのは、フンボルト海流とも呼ばれる海流系と、風の作用で海中の冷水が上がる湧昇です。海面近くの空気が冷やされて水蒸気が凝結し、冬の沿岸を覆う低い雲が生まれます。

ただし、「冷たい海なら水分が一切蒸発しない」ということではありません。リマの大気には海から水分が供給され続けています。冷たい海は湿気をなくすのではなく、空気の温度と雲のでき方を変えているのです。

雲の上への成長を抑える、温度の逆転

対流圏では、一般に高い場所ほど気温が低くなります。ところが、リマ沿岸の上空は、その単純な関係では説明できません。地表付近の冷たい空気の上に、より暖かい空気が重なる「逆転層」ができるのです。

南太平洋の高気圧に伴って下降する空気は圧縮され、暖まります。その下では冷たい海が低層の空気を冷やすため、上下の温度差が維持されやすくなるのです。

低い場所の空気が上昇しようとしても、周囲の空気より冷たく重ければ、上へ進みにくくなります。逆転層は固い天井ではありません。それでも上下の混ざり方を抑えるため、雲は横へ広がりやすく、激しい上昇流を伴って高く育つ条件は整いにくいのです。

冷たい下層と暖かい上層が、雲の縦の成長を抑える
海に冷やされた低層の空気と、下降して暖まる上層の間に逆転層がある概念断面。逆転層の下で低い雲が横に広がっている。

リマ沿岸の代表的な大気の構造を単純化した模式図です。高さ・厚さ・温度の実測値は示していません。逆転層は固体の天井ではなく、日や季節によって位置や強さが変わります。雲の小さな乱流や霧雨は省略しています。

霧、低い雲、ガルーアのつながり

低い雲の層が地面に触れれば、その場所では霧になります。海岸で見上げていた雲も、丘の斜面では周囲を白く覆う霧になることがあるのです。

雲の水滴が成長すると、細かな霧雨が降る場合もあります。ペルー沿岸で知られる「ガルーア」は、このような霧雨に関わる言葉です。雨が少ないとは、365日まったく水滴が落ちてこないという意味ではありません。

NASAが紹介した2015年6月の衛星観測では、低い雲が沿岸平野を覆い、内陸へは谷に沿って入り込む様子が確認できます。雲の高さより山の方が高ければ、一面の雲海の中から山地が突き出すでしょう。同じ都市圏でも、海からの距離と地形によって霧の出方は変わります。

霧の季節に緑へ変わる、沿岸のロマス

霧は降水量の数字には表れにくくても、植物にとって大切な水源です。ペルーの沿岸には「ロマス」と呼ばれる植生があり、霧の多い季節に乾いた丘が緑を帯びます。

植物の葉や茎に霧の水滴がぶつかると、水が表面に集まり、植物や地面へ届きます。上から落ちる雨粒だけでなく、横から流れてくる霧も水を運ぶのです。

リマ地方のラチャイやパチャカマックなどにも、この環境に対応した植生が見られます。大雨を待つだけでは生きられない海岸で、霧に触れる高さや斜面の向きが、緑の育つ場所を決めているというわけです。

曇り空が続く冬と、同じではない一年の天気

低い雲や霧が多いのは、特に南半球の冬から春先です。夏には日射や大気の状態が変わり、晴れ間も増えます。リマが一年中、同じ厚さの雲に覆われているわけではありません。

また、都市の平野で雨が少ないことと、アンデスの高所で雨が降らないことも別の話です。SENAMHIの流域調査は、海風と谷風が組み合わさり、大気が不安定な条件では、流域の中・上部で雨が強まる仕組みを説明しています。

海から水分が届くかどうかだけでは、リマの天気は決まりません。その水分がどの高さへ運ばれ、雲がどこまで成長できるかが重要なのです。霧の多い海岸、緑になる丘、雨の降る山地は、同じ水循環の中にある異なる場所です。

参考資料

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