世界で最も高い山はエベレスト。それなのに、地球の中心から最も遠い山頂は、エクアドルのチンボラソ山です。標高6,000メートル台の山が8,000メートル台の山を上回るのは、測量の間違いでも、山頂が急に伸びたためでもありません。
地球は完全な球ではなく赤道付近が少し膨らんでいるため、赤道近くのチンボラソは、山の土台となる位置からして地球中心から遠い場所にあります。海面から測る標高とは別に、この地球そのものの形が順位を左右するのです。
海面からの高さでは、エベレストが上
普通、山の高さといえば、平均的な海面に対応する基準から測った標高です。エベレストは約8,849メートル、チンボラソは約6,263メートルで、標高にはおよそ2,600メートルの差があります。
チンボラソを「本当はエベレストより高い」とだけ紹介すると、この違いが消えてしまいます。標高の比較でエベレストを抜いたわけではありません。山頂の順位が入れ替わるのは、測り始める基準を海面から地球の中心へ変えた場合なのです。
2016年のフランス・エクアドル共同測量の発表では、チンボラソの標高は6,263.47メートル、地球中心から山頂までの距離は6,384,415.98メートルとされました。後者は約6,384キロメートルで、山自体の標高とは桁からして異なります。
赤道と極で約21キロメートル違う、地球の半径
自転している地球の大まかな形は、極方向につぶれ、赤道方向へ膨らんだ回転楕円体で表せます。普段の地球儀では分かりにくいほど小さな変形ですが、山の高さを比べるには無視できません。
国土地理院が示すGRS80楕円体では、赤道半径は約6,378キロメートル、極半径は約6,357キロメートル。差は約21キロメートルです。地球全体から見れば約0.3パーセントでも、エベレストの標高より大きな長さになります。
ここでいう21キロメートルは、チンボラソとエベレストの土台の差そのものではありません。赤道と極を比較した値です。それでも、緯度によって海面の位置が地球中心からかなり違うことを実感できるでしょう。
違いを見えるようにするため、地球の扁平さと山の高さを大幅に誇張しています。実測図ではなく、緯度・標高・距離の比率も正確ではありません。経度の違いは省略し、平均海面に近い基準面を滑らかな楕円として描いています。
山の高さの差を逆転させる、赤道に近い立地
チンボラソは南緯約1.5度、エベレストは北緯約28度にあります。チンボラソの方が、地球の膨らみの大きい赤道にずっと近い場所です。
海面に対応する基準の位置がもともと中心から遠ければ、そこから積み上がる山の標高が小さくても、中心から山頂までの距離は長くなり得ます。チンボラソは、この土台側の差が山の標高差を上回る例なのです。
NOAAは、チンボラソの山頂がエベレストより地球中心から約2キロメートル遠いと説明しています。地球を完全な球として扱えば消えてしまう差ですが、実際の形を取り入れると順位が変わります。
ただし、「赤道の山ならどれでも世界一」ではありません。緯度による有利さに加え、山頂そのものが十分に高いことも必要です。低い丘までチンボラソと同じ順位になるわけではないのです。
地下を掘らずに測れる、中心からの距離
地球の中心まで巻き尺を下ろすことはできません。それでも距離を求められるのは、人工衛星などの観測によって、地球の重心を原点とする立体的な座標系がつくられているためです。
2016年の調査隊は、チンボラソ山頂にアンテナを設置し、約2時間にわたって衛星からの信号を受信しました。山頂の位置を三次元の座標として決めれば、原点からその点までの直線距離を計算できます。
地球の中心を原点に、互いに直角な三つの軸で位置を表せば、学校で学ぶ三平方の定理を三次元へ広げて距離を求められます。地下へ直接触れる測定ではなく、地球全体に共通する座標の中で、山頂の位置を確定する方法なのです。
GPSの高さを、そのまま標高にできない理由
衛星測位でよく使う「楕円体高」は、滑らかな楕円体の表面からの高さです。これは地球中心からの距離とも、地図に載る標高とも同じではありません。
標高の基準には、重力を考慮した「ジオイド」という面が関わります。平均海面に近いこの面は、山脈や地下の密度の違いも反映しており、単純な楕円体とは一致しません。衛星で測った幾何学的な高さを標高へ換算するときには、この二つの面のずれも計算に入れるのです。
この違いは、山の順位だけの問題ではありません。道路や水路をつくる際には、水がどちらへ流れるかに結びつく高さが重要です。地球の中心から遠いかどうかだけで、坂の上り下りを判断することはできません。
海底からの高さなら、別の山が主役
測り始める場所を変えると、さらに別の比較ができます。ハワイのマウナケアは、海面下の山体まで含めた海底から山頂までの高さなら、約1万メートルに達する火山です。
エベレストは平均海面から、チンボラソは地球中心から、マウナケアは海底の山麓から。それぞれ異なる起点を持っており、どれか一つがほかの測定を否定する関係ではありません。
チンボラソが教えてくれるのは、「世界一」という言葉の意外性だけではないでしょう。地球の形、重力、地形の盛り上がりは、別々の量として測れます。山頂の位置を同じ物差しで比べるには、その物差しがどこから始まっているかまで決める必要があるのです。
参考資料
- ネパール鉱山地質局:General Geology(エベレストの標高)
- Géoazur・IRD:チンボラソ山頂の2016年共同測量結果
- エクアドル国立工科大学地球物理研究所:Chimborazo(位置と標高)
- NOAA:What is the highest point on Earth as measured from Earth’s center?
- 国土地理院:地球の形と経度・緯度(2019)
- NOAA National Geodetic Survey:Converting GPS Height into NAVD88 Elevation(楕円体高と標高の関係)
- NOAA National Geodetic Survey:Geoid Slope Validation Surveys