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ブラジル北東部はなぜ熱帯でも乾燥するのか セルトンの雨と大気の循環

公開日

ブラジルと聞いて、湿った熱帯雨林を思い浮かべる人は多いでしょう。ところが北東部の内陸、セルトンには、長い乾季と雨の不安定さに悩まされる地域が広がっています。同じ低緯度にあるのに、アマゾン流域とこれほど違うのはなぜでしょうか。

鍵は暑さの強さではなく、雨を生む空気の動きです。湿った空気が上昇する帯がいつ、どこまで近づくのか。反対に、上空から空気が下りてくる条件がどれほど続くのか。セルトンの乾燥は、陸の上だけでなく、大西洋や太平洋を含む大気の循環と結びついています。

暑い空気と、雨を降らせる空気の違い

地面が強く暖められていても、それだけで大雨にはなりません。水蒸気の供給に加え、空気が上昇して冷え、雲が発達できる条件が必要です。熱帯という言葉が示す緯度や高温の特徴と、雨の多さは別の問題なのです。

湿った空気が集まって上昇すると、水蒸気が雲粒になり、雨雲が育ちやすくなります。反対に、広い範囲で空気が下降する場合は、圧縮されて暖まり、相対湿度が下がる方向へ。地表付近の湿り気だけでは、深い雨雲の発達は保証されません。

セルトンでは、こうした大気の上下の動きと、その季節変化が重要になります。「赤道に近いから、毎日夕立があるはず」という予想は、上昇する場所と下降する場所の違いを見落としているのです。

雨雲を育てる上昇と、発達を抑える下降
上段は湿った風が集まって上昇し、雲をつくる関係。下段は広域の下降流で空気が暖まり、雨雲の発達が抑えられる関係。

大気の基本的な働きを対比した模式図です。特定の日のセルトンの観測断面ではなく、上下二つの状態が一年中固定されるという意味でもありません。風速・高度・降水量の比例関係は示していません。

北部の雨季を左右する、南北に動く雲の帯

北東部の北寄りの地域で、とくに重要なのが、北東貿易風と南東貿易風の出会う「熱帯収束帯」です。両側から集まる湿った空気の上昇によって雲の帯ができ、ブラジルの気象情報には、ポルトガル語の略称ZCITで登場します。

この帯は赤道上に固定されているわけではありません。ブラジル国立気象研究所INMETによると、南半球の夏の終わりから秋の初め、とくに3〜4月には南へ移り、ブラジル北部・北東部の北側に雨をもたらしやすくなります。2月や5月にも影響が及ぶ場合がありますが、一年中同じ働きをするわけではないのです。

北へ遠ざかる季節には、その雨を期待しにくくなります。つまり、セルトン北部は、豊富な水蒸気を含む大気が常に真上で上昇する場所ではなく、雨を生む帯の季節的な接近が大切な場所。雨季に強い雨が降ることと、年の大部分が乾燥することは両立します。

ただし、北東部全域の雨季が同じという意味ではありません。東側の海岸や南寄りの地域には別の雨を生む仕組みも作用し、海からの距離や地形も違います。セアラ州の雨季の説明を、そのまま北東部全体の暦に当てはめることはできません。

遠い海の温度が変える、雨の届き方

雲の帯の位置は、太陽の季節変化だけで決まるものではありません。熱帯大西洋の海面水温も、風や上昇流の分布に影響します。とくに重要なのは、北側と南側の海が、それぞれ平年に比べてどの程度暖かいかという関係です。

セアラ州の気象・水資源機関FUNCEMEは、熱帯大西洋の南側が相対的に暖かく、北側が相対的に冷たい条件を、北東部北側への熱帯収束帯の作用に有利な配置として説明しています。単に「海が暖かいほど、近くの陸に雨が増える」とは言い切れません。どちら側が暖まったかによって、空気の集まる位置も変わるためです。

太平洋のエルニーニョも、遠隔的に大気の循環を変え、北東部の雨に影響します。ただ、すべての干ばつをエルニーニョの一言で説明できるわけではありません。2010〜2016年の干ばつを扱ったMarengoらの研究でも、太平洋だけでなく、熱帯北大西洋の水温との関係が指摘されました。

ボルボレマ高原だけでは説明できない半乾燥地帯

海からの湿った風が山で上昇し、風上側に雨を落とすことで、その反対側が乾燥する「雨陰」は各地に見られます。北東部にあるボルボレマ高原も、地域ごとの雨の分布に関わっています。

しかし、セルトンの乾燥を「この高原が雨をすべて遮った結果」とする説明は不十分です。Reboitaらが大気循環と地形の影響を検討した研究では、広域の下降流の方が、セルトンの半乾燥気候を説明するうえで重要とされました。

同研究では、高原の風下側の流れが広域の下降流と重なることで、低い高度の空気がより暖かく、乾きやすくなる関係も示しています。山の影響がゼロなのではなく、山だけを切り離して主役にすると、広い半乾燥地帯の成り立ちを説明しきれないのです。

一年の雨量だけでは分からない、水不足の長さ

水の収支を左右するもう一つの条件は、次の雨までの長さです。短期間に大雨が降っても、その後に長い無降水期間が続く間に、高温や強い日射に促された蒸発・蒸散によって、地面や貯水池の水が失われていきます。

ブラジル国家水資源庁ANAは、少ない降水量、不規則な雨、高い蒸発散の傾向が、水の利用可能量を小さくしていると説明しています。その対策として各地に造られてきたのが、雨の多い時期の水をため、乾いた時期へ持ち越す貯水池です。

気候として「半乾燥」であることと、ある期間に「干ばつ」が起きていることは、同じ意味ではありません。もともと雨が少ない土地でも、平年なら期待できる雨季の雨が大きく不足すれば、通常の乾季を超えた水不足になり得ます。さらに少雨の年が続くと、前年までの貯水不足が翌年に残るのです。

一度の雨で地表が湿っても、地域の貯水が十分に回復したとは限りません。セルトンの水事情を決めるのは、今日の空の様子だけでなく、短い雨季に入った水と、何か月もかけて失われる水の釣り合いなのです。

参考資料

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