広大な国土をもつブラジルでは、リオデジャネイロ、サルヴァドール、レシフェなど、主要な都市が大西洋側に並びます。けれども、最大級の都市サンパウロには海岸線がありません。内陸の高原にある都市まで含めて考えると、「海辺は住みやすいから」という説明だけでは足りなくなります。
大西洋側への集中を生んだのは、港、輸出産地、行政の拠点をつないだ長い歴史です。海からの距離そのものより、海へ出る道を誰がどのようにつくり、その道に何が集まったのかが重要なのです。
海上交通を前提に始まった植民地の都市
ポルトガルによる植民地支配は、大西洋を渡る航路と結びついていました。入植者や物資が船で到着し、生産物も船で運び出す仕組みでは、船が停泊できる港と、その背後の産地が拠点になります。
1549年に植民地の総督府が置かれたサルヴァドールは、その代表です。トドス・オス・サントス湾に面した港と行政の中心が結びつき、周辺のサトウキビ生産を含む経済活動の拠点となりました。海岸の点が都市になったのは、砂浜が美しかったからではありません。
この形成過程は、先住民の土地への侵入や、アフリカから強制的に連れてこられた人々の奴隷労働と切り離せません。港の発展を物資の便利な移動だけで語ると、その都市を支えた人々の強制された移動が抜け落ちます。
港の背後へ伸びる、産地と輸送の線
輸出する砂糖やコーヒーが海岸の岸壁で生産されるわけではありません。農園や加工の拠点は内陸にもあり、そこから港へ物を集める道が必要です。道沿いには積み替え、保管、取引、人の滞在などの仕事が生まれます。
こうして、港だけでなく港へ通じる内陸都市も大きくなります。「大西洋側の都市」というまとまりは、海岸に接している自治体の集合ではなく、海へ向かう輸送と経済のつながりとして捉えた方が、実態に近づきます。
また、輸出作物の中心地も固定されてきたわけではありません。ブラジル地理統計院IBGEのコーヒー地理の研究は、産地の分布が時代とともに変わってきたことを示しています。都市の発展には、現在の産地だけでなく、過去につくられた交通網も影響します。
サンパウロとサントスを隔てる、海岸山地
サンパウロは海岸より高い内陸側にあり、その海への出口として重要なのがサントス港です。両者の間にはセラ・ド・マールの急な斜面があります。直線距離が近くても、重い荷物を運ぶには大きな障害でした。
サントス港の歴史資料によれば、18世紀末には高原と港を結ぶ舗装路がつくられ、砂糖やコーヒーの輸送に使われました。さらに1867年、サントスとジュンジアイをサンパウロ経由で結ぶ鉄道が開通しています。
鉄道は、山を消したのではなく、山越えの負担を小さくする設備でした。内陸の生産地と港が結ばれると、高原側にも人や物が集まりやすくなります。海のないサンパウロの発展と、海に面するサントスの発展は、対立する話ではないのです。
港・山地・高原の関係を示す模式図です。方位・距離・高さを正確にした断面ではなく、赤線は特定の鉄道路線の線形や登坂方法を再現していません。矢印の大きさも輸送量を表しません。
一度集まった人と仕事が、次の集積を呼ぶ仕組み
港と道路をつくれば、どの町も同じ規模に成長するわけではありません。すでに取引先や働き手が集まっている場所には、新たな企業やサービスが立地しやすくなります。人が増えれば、商品を買う市場や、教育・医療などへの需要も大きくなります。
その結果、もともとは農産物を運ぶ役割が大きかった都市でも、工業、商業、金融などの仕事が重なり、地域の中心としての力を強めます。歴史の最初の役割と、現在その都市を支える仕事は、同じである必要がありません。
IBGEの都市網の分析も、都市を人口の点としてだけでなく、交通や情報、企業活動で結ばれた拠点として扱っています。大西洋側に蓄積された都市網は、その後の成長の出発条件となりました。ただし、集積の利益が全住民へ均等に届くわけではなく、住宅や交通の負担、地域間の格差も伴います。
ブラジリアが示す、海岸だけではない都市の歴史
ブラジルの都市化が海岸だけで進んだ、と考えるのも誤りです。1960年に首都となったブラジリアは、政治の中心を内陸へ移し、国土の統合を進める政策の象徴でした。道路建設と行政機関の移転が、新たな人口集積を生んでいます。
内陸には、ブラジリア以外にもベロオリゾンテやゴイアニアなどの大都市があります。アマゾン流域のマナウスも、海岸都市とは異なる立地です。IBGEは、沿岸への集積が続く一方で、農業や都市機能の内陸への広がりも進むという、二つの動きを指摘してきました。
大西洋側の都市の多さは、内陸が本来人の住めない場所であることを意味しません。港を起点とする歴史的な集中に、交通技術、産業、国家の政策が重なった結果です。サンパウロからサントスへ山を越える道と、内陸へ向かうブラジリアの道は、その異なる時代の選択を示しています。
参考資料
- Biblioteca Nacional:29 de março – Aniversário da cidade de Salvador, Bahia。サルヴァドールの成立と港湾都市の歴史。
- Autoridade Portuária de Santos:História。港の立地、山越えの道路、1867年の鉄道開通。
- DNIT:Histórico das ferrovias。鉄道とコーヒー輸送の発達。
- IBGE:A Geografia do Café。コーヒー生産地域の歴史的変化。
- IBGE:Atlas Nacional do Brasil Milton Santosの解説。2010年の都市網・沿岸集中・内陸化の分析。
- IPHAN:Patrimônio Mundial – Brasília。首都移転と内陸開発の構想。
- DNOCS:Rodovia Nordeste-Brasília。新首都へ向かう道路建設の記録。