アルゼンチンのパンパでは、地平線まで続く草原や畑が土地の広さを実感させます。しかし、この平原は大きな岩盤の表面を磨いてつくったような場所ではありません。低く広い堆積の場に、川と風が運んだ細かな物質が重なり、その上に土壌と草原が育ってきた大地です。
なかでも重要なのが、風で運ばれた細粒の堆積物「レス」と、それが水などによって運び直された堆積物です。パンパの地面には、遠くの山地で生まれた粒子と、その土地で育った植物の働きが重なっています。
山を削った風ではなく、低地を覆った堆積物
パンパの平らさを「風が土を運んだから」とだけ説明すると、もともとあった山々を風が平らにしたように聞こえるかもしれません。実際には、土砂がたまる低地の成り立ちと、その表面を覆う堆積物の由来を分ける必要があります。
チャコからパンパに続く平原は、アンデス山脈の東にある広大な堆積地域の一部です。長い地史の中では海が入り込んだ時期もあり、海が退いた後にも川や風が地表をつくり変えてきました。現在の平原は、たった一度の出来事で完成したわけではありません。
堆積物が広い範囲に積もると、細かな凹凸が覆われ、緩やかな地表が広がります。それでも谷や古い山地まで、すべて消えるわけではありません。「平原」は起伏が比較的小さいという意味で、完全な水平面という意味ではないのです。
アンデスからパンパへ続く、川と風の受け渡し
パンパの細かな粒子には、アンデスに由来する鉱物や火山性の物質が含まれます。ただし、すべてが噴火口から直接飛んできた火山灰ではありません。岩石の風化や侵食で生まれた粒子が川へ入り、いったん別の場所に積もってから、風で再び動く経路もあるためです。
川は粒子を低地へ運び、乾いた氾濫原や河原は風が粒子を拾い上げる場所になります。細かな粒子ほど空中にとどまりやすく、砂より遠くまで運ばれることもあります。山から平原までの移動には、流れる水と吹く風が交代で関わってきました。
パンパの堆積物がたどる代表的な経路の模式図です。すべての粒子が同じ順番を通るわけではなく、火山灰の直接降下や水による再移動などもあります。地層の厚さ・距離・時間の比例関係は示していません。
2003年の総説は、南米のレス質堆積物には運び直されたものが多く、供給源も地域によって異なると整理しています。南部パンパと北部パンパを、一つの噴火、一つの風向、一枚の同じ地層で説明することはできません。
積もった粉が、そのまま肥えた土になるわけではない理由
レスは土壌の材料ですが、土壌そのものと同じではありません。地表に植物が育ち、根や枯れた葉が分解され、雨水が成分を移動させることで、堆積物は少しずつ土壌へ変わります。材料を運んだのは風でも、畑を支える性質を育てたのは、その後の長い生物・水・空気の働きです。
アルゼンチン国立農牧技術院(INTA)は、ブエノスアイレス州の土壌について、風成のシルト質物質から発達し、暗い色で養分に富む表層を持つものが多いと説明しています。一方、同じ州内にも塩類や排水条件などによって利用が制約される土地があります。パンパ全域が均一な「天然の農地」というわけではありません。
2023年のパンパ北東部の地層研究では、過去の土壌が堆積物の間に残り、湿り方や地下水位の違いも記録されていました。地層は土が積もった履歴であると同時に、いったん地表になり、草が育った時間の記録でもあるのです。
平らな土地ほど大きくなる、わずかな高低差の影響
急な山地なら、水は谷へ向かって流れます。ところが勾配の小さい平原では、水の行き先がはっきりせず、わずかな窪みや低地にたまりやすくなります。低平なパンパに湿地や水のたまりやすい土地があるのは、この地形と無関係ではありません。
また、東寄りの湿潤な地域から西寄りの乾いた地域へ移ると、降水条件も変わります。平らな土地ならどこでも十分な水がある、とはいえません。同じような広い地平線の下でも、草原、耕地、砂質の土地、排水の悪い低地では、地面の性質が異なります。
ウルグアイの草原と、アルゼンチンの平原の違い
パンパを南米南東部の草原地域として広く捉える場合、ウルグアイの草原も一緒に紹介されます。しかし、草原が続いているからといって、地下の岩石まで同じとは限りません。ウルグアイには低地だけでなく、緩やかな丘陵や岩石質の土地もあります。
ウルグアイの農牧当局がまとめた草原分類では、植物の組み合わせの違いが地質や、土壌の水の保ち方と関係していました。似た草原の景色でも、風で運ばれた厚い堆積物の上なのか、異なる岩石からできた土壌の上なのかで、育つ植物は変わります。
パンパの魅力は、何もない平らな土地であることではありません。見通しのよい地表の下に、山からの粒子、川の流路、乾いた時代の風、草の根がつくった土が重なっていること。広い地平線は、その長い積み重ねの最も新しい表面なのです。
参考資料
- Kruckほか(2011)Late Pleistocene-Holocene History of Chaco-Pampa Sediments in Argentina and Paraguay
- Zárate(2003)Loess of southern South America
- Rico・Block(2023)Climate and environmental changes recorded in Quaternary sediments of the Rolling Pampas
- INTA:ブエノスアイレス州の土壌図と土壌の特徴
- ウルグアイ農牧水産省:Nueva Cartografía de Pastizales del Uruguay