本文へ移動
世界と暮らしの疑問を整理する知識ポータル
世界・国際理解

パタゴニアはなぜ西が湿潤で東が乾燥するのか 偏西風をさえぎるアンデス

公開日

南米南部のパタゴニアを西から東へ横切ると、雨の多い森林と氷河の山々から、草や低木の広がる乾いた大地へ景色が変わります。緯度は大きく変わらないのに、なぜこれほどの違いが生まれるのでしょうか。

分かれ目は、太平洋から来る偏西風と、その行く手に立つアンデス山脈です。西側で空気が持ち上がって雨や雪を降らせ、東側では山を下る空気が乾くため、山の高さだけではこの対照を説明できません。湿った風がどちらから来るかも重要なのです。

太平洋を渡って届く、雨雲を伴った偏西風

パタゴニアがある南半球の中緯度では、西から東へ向かう偏西風が卓越し、その流れに沿って低気圧や前線も通過します。太平洋からは水分を含んだ空気が届くため、西海岸は湿気と、雨を降らせる気象システムの両方を受け取る側です。

「山に風がぶつかると雨になる」という説明だけでは、その手前が抜け落ちます。乾いた空気を持ち上げても、十分な雨は生まれません。パタゴニアでは広い海からの水分供給と、繰り返し通過する天気の変化が、山による降水の土台になっています。

西斜面で雨や雪が増える、空気の上昇と冷却

アンデスに達した空気は斜面に沿って持ち上げられ、気圧の低い上空へ進むにつれて膨張し、冷えていきます。そこで水蒸気の一部が水滴や氷の粒へ変わるのが、雲の成長と雨・雪の降下につながる仕組みです。

NASAの衛星観測の解説でも、西側の多雨と、山の東に広がる乾燥した平原との対照が示されています。湿った森林と氷原は別々の偶然ではありません。同じ水分が、標高や気温によって雨として地表を潤すか、雪として高所に積もるかの違いでもあるのです。

偏西風とアンデスがつくる東西の降水差
西からの湿った空気がアンデスで上昇し雨や雪を降らせ、東へ下ると暖まり、雲が消えやすくなる概念断面。

山の高さ・斜面・風の軌道を簡略化した模式図です。特定の緯度の測量断面や降水量の観測値ではありません。氷原から東側へ流れる氷河や河川は省略しています。

東斜面で重なる、水分の減少と下降による昇温

風下が乾く理由は、風上で雨や雪を落としたことだけではありません。山を越えて下る空気は圧縮されて暖まり、同じ水蒸気量でも相対湿度が下がります。雲の粒が蒸発しやすくなり、雨雲も維持されにくくなるわけです。

このような山の風下の少雨域を「雨陰」と呼びます。日陰のように雨そのものを遮るというより、山を越す間に空気の状態が変わる現象です。強い西風が吹けば、東にも西と同じだけ水分が届くとは限りません。

2013年の気候研究は、西風の変動がパタゴニアの雨の変動を大きく左右し、東側では下降流と蒸発しやすい条件が乾燥に関わることを示しました。山の両側の差は、地形だけを眺めても完結しません。その上を通る大気の流れと一組になっているのです。

乾いた東側にも湖と氷河がある理由

東側の平原が乾燥しているのに、山麓には大きな湖があり、氷河が流れ込む場所もあります。これは矛盾ではありません。地面に降る雨の少なさと、山地から届く水の多さは、別の場所の現象だからです。

高所に積もった雪は氷河となって流れ、低い場所で解けて湖や川を養います。降水が多い山域と、蒸発の強い低地は、水によってつながっています。湖岸だけを見て「この地域は雨が多いはず」と判断すると、水の出発点を取り違えてしまうでしょう。

ただし、雪が多いことは氷河が必ず成長することを意味しません。雪として加わる量と、融解や氷塊の崩落で失われる量の収支が重要です。多雪の氷原でも、失う量が上回れば氷は減ります。

「西は雨、東は晴れ」が毎日の天気とは限らない理由

雨陰は長期的な降水の傾向であり、東側に雨や雪が降らないという規則ではありません。実際、2020年6月には、乾燥したパタゴニア東部の台地まで広く雪に覆われました。NASAは、通常の西風の流れを変える高気圧の停滞と、寒気の入り方を説明しています。

同じ「パタゴニア」の中でも、山の高さ、谷の向き、海からの距離は一様ではありません。高解像度の気候モデルを用いた研究が必要になるのは、こうした地形に沿って降水の変化が急になるためです。大陸全体の粗い平均では、隣り合う湿潤域と乾燥域を十分に表せない場合があります。

パタゴニアの東西差は、アンデスが水を止める壁だから、という一言では尽くせません。海からの供給、空気の上昇、降水、下降、そして山から流れ出す水。それぞれの向きを追うと、森林と乾燥した平原、氷河と湖が同じ地域に並ぶ理由がつながります。

参考資料

関連する疑問

同じ分類の近い疑問へ進む