オーストラリアの人口分布を見ると、広大な内陸に比べて、東岸、南東部、南西部などに都市が偏っています。国土が広いのに、なぜもっと均等に住まないのでしょうか。
理由は、内陸が乾燥していることだけではありません。水と気候が居住の条件を絞り、海上交通が港を育て、仕事や公共サービスの集積が人を呼び続けてきたことが重なっています。自然条件と都市の歴史を合わせて考える必要があります。
海岸への集中と、大都市への集中の二重構造
オーストラリア政府の「環境の現状2021」沿岸編は、2019年時点で人口の約87%が海岸から50キロメートル以内に住んでいたと紹介しています。この距離には、砂浜沿いの住宅だけでなく、海岸に近い大都市の広い市街地も含まれます。
ただし、人々が海岸線に沿って均等に並ぶわけではありません。シドニー、メルボルン、ブリスベン、パースなどの都市圏に大きなまとまりがあります。ABSの2021年人口資料でも、人口密度の高い地域は特定の都市圏に集中していました。
したがって、問いは二段階です。なぜ内陸より沿岸なのか。そして沿岸の中でも、なぜ一部の都市が大きいのか。前者には気候が、後者には港と都市の成長史が深く関わります。
海に囲まれていても、内陸へ十分な雨が届かない大陸
周囲に海があるだけで、内陸まで雨が多くなるとは限りません。オーストラリアの広い部分は、下降流が生じやすい亜熱帯の緯度帯に位置します。大陸の大きさや山地の配置も加わり、内陸には乾燥・半乾燥の地域が広がります。
一方、北部は雨季と乾季のある熱帯、東岸や南部の一部は比較的温和な気候です。気象局の気候区分が示すように、同じ海岸でも条件は多様で、北西岸から南東岸までを一括して「湿潤な沿岸」とは呼べません。
都市で必要なのは、家庭用の水だけではありません。産業や公共施設の需要もあるため、雨の量に加え、年ごとの変動、貯水できる地形、水を運ぶ距離が、大きな人口を維持する条件になります。内陸に水が全くないのではなく、広い市街地へ安定的に供給する負担が大きくなりやすいのです。
海上交通の入口に育った都市
現在の大都市の配置には、ヨーロッパからの植民と海上交通の歴史が残っています。1788年に英国の第一船団が入植地を置いたのは、シドニー・コーブでした。外洋から船で人と物資を運ぶ時代には、港は新たな都市の入口になります。
港に着いた物資を保管し、売買し、内陸へ運ぶには、人手、道路、行政施設などが必要です。それらが集まる場所には次の商業や居住の拠点もできやすく、交易の入口が、街としても育っていきます。
ただし、これは先住民の暮らしが沿岸だけにあったという意味ではありません。内陸にも長い居住の歴史があります。現在の大都市分布と、大陸で人が暮らしてきた歴史全体を同一視してはいけません。
大きくなった都市が、さらに人を集める仕組み
港として成長した場所は、やがて物流だけでなく、行政、教育、医療、金融、さまざまなサービスの拠点になります。そこへ仕事を求める人が集まれば、事業を営む側にも働き手や顧客を得られる利点が生まれます。最初の立地の有利さが、次の成長条件を育てる循環といえるでしょう。
人口集中を説明する概念図です。統計的に各要因の寄与率を測った図ではなく、すべての沿岸都市が同じ歴史をたどるという意味でもありません。
鉄道、空港、水道などの設備が整った都市へ移る場合と、設備の少ない土地で同規模の暮らしを始める場合とでは、必要な負担が違います。海岸からの距離が同じでも、すでにある都市網とのつながりによって、その後の成長は変わります。
この集積の説明は、人口が必ず増え続けるという予言ではありません。住宅費や混雑、産業の変化によって移動の方向は変わりえます。それでも、巨大都市を内陸へ均等に配り直すような動きが簡単には起きない理由にはなります。
内陸都市と乾いた海岸が示す、気候だけでは決まらない配置
内陸にも都市はあり、首都キャンベラは海岸都市ではありません。鉱業、農牧業、交通、行政などが拠点を必要とすれば、人口は内陸にもまとまります。反対に、海岸であっても水資源や交通、産業の条件がそろわなければ、大都市になるとは限りません。
現代の都市は、ダムや送水、地下水、海水淡水化などによって、自然の水の分布を補うこともできます。ただし設備を造り、動かし、維持する負担まで消えるわけではありません。技術は地理の制約を変えますが、地理を無意味にはしないのです。
オーストラリアの人口は、単に海の近くを好んで集まったのではありません。暮らしを支える水、海へ開いた港、長年にわたって積み重なった都市の機能が、互いに補強し合ってきた結果です。
参考資料
- オーストラリア政府:Australia state of the environment 2021: Population
- ABS:Regional population, 2020–21
- オーストラリア気象局:Why do we have different climates across Australia?
- オーストラリア国立博物館:Convict cargo
- オーストラリア国立博物館:The First Fleet arrives at Sydney Cove
- オーストラリア準備銀行:City Sizes, Housing Costs, and Wealth(2001年)
- Water Corporation:Perth’s water supply