南太平洋のバヌアツには、タンナ島のヤスール、アンブリム島、アンバエ島など、活動的な火山が点々と並んでいます。さらに海の中にも噴火口があり、2023年にはエピ島の沖合で、海面から噴煙が上がりました。火山は、地図に描かれた島の上だけにあるわけではありません。
この火山の多さを支えるのは、列島の西側から地下へ入り込むオーストラリアプレートです。ただし、長い境界に沿ってマグマの生まれる条件が整っても、その出口の形まで同じにはなりません。バヌアツには、一つの沈み込み帯から育った、多様な火山が並んでいます。
列島の西側で始まる、東向きの沈み込み
バヌアツの島々の西には、ニューヘブリディーズ海溝が続いています。ニューヘブリディーズは、この列島にかつて使われた名前で、地質学の文献では今も島弧や海溝の名称に残りました。
海溝で下へ曲がるのは、オーストラリアプレートの海洋部分。そこから東側、つまりバヌアツの地下へ斜めに進んでいきます。「オーストラリアと太平洋の境界」という大きな区分はできますが、実際には列島側の小さなプレートや、その東の北フィジー海盆の広がりも関わる複雑な地域です。
こうした動きのある境界では、別々の場所でマグマを生み出す条件がそろい得ます。一個の巨大な地下の釜から、すべての島へ溶岩を配っているのではありません。列島に沿った地下の帯でマグマが生まれ、それぞれ異なる経路で上昇してくる仕組みです。
岩石を融けやすくする、沈むプレートからの水
なぜ、冷たい海底の岩石が沈むと、その先に火山ができるのでしょうか。摩擦でプレート全体が溶ける、と考えると実際の過程から離れてしまいます。大きな役割を果たすのは、沈み込む岩石や堆積物が運ぶ水分です。
水は海底の隙間だけでなく、鉱物の構造にも取り込まれています。岩石が深部へ進むと、温度や圧力の変化に伴う鉱物の反応で水が放出され、上側の高温のマントルで岩石が融け始める条件を変えるのです。
マントルは、もともと液体の海ではありません。大部分は固体であり、その一部が融けてマグマになるのです。水が融解を助けることと、海水が地下の管をそのまま火口まで上がることは、まったく別の話でしょう。
この反応が起きるまでには、岩石がある程度深くへ進む必要があります。そのため火山列は、沈み込みの入口である海溝そのものではなく、そこから離れた列島側に現れます。
沈み込みによるマグマ生成の基本を示す模式図です。海溝と火山の距離、深さ、沈み込み角度、融解域の形は実測値ではありません。青矢印は水分の移動で、海水が流れる管ではなく、赤い領域も巨大な空洞のマグマだまりを意味しません。列島側の細かなプレート境界は省略しています。
ヤスールの噴石丘と、アンブリムの大きな火山体
同じ沈み込み帯の火山でも、山の姿まで同じにはなりません。タンナ島のヤスールは、火口の周りに噴出物が積もった円錐状の火山として知られています。ただし、その小さな山だけで地質構造が完結しているわけではなく、より大きなカルデラのある地域の一部です。
対して、アンブリム島には裾の広がった大きな火山体があり、その上部にカルデラ、さらに内部に火口を持つ山が重なっています。島全体の形、頂上のくぼみ、いま噴出物が出る火口は、それぞれ異なる大きさの構造なのです。
この違いを生むのは、マグマの性質と積み重なった噴火の履歴。流れやすい溶岩が広がる場合と、細かく砕かれた噴出物が火口の周囲にたまる場合では、地形の育ち方が変わります。地下のマグマの移動や大きな噴火に伴う陥没も、後の火山の形を左右してきました。
バヌアツ気象・地質災害局は、噴火の様式にマグマの成分、温度、粘り気、水やガスの量、地下の通り道などが関わると説明しています。同じ火山でも、いつも同じ現象が起きるとは限らない理由がここにあります。
2023年、海面に姿を現したイースト・エピの活動
エピ島の北東沖には、イースト・エピと呼ばれる海底火山群があります。2023年1月31日、ここでガスや蒸気が海面から上がり、噴出物を伴う活動が確認されました。スミソニアンの記録には、現地の観察、航空機による確認、衛星画像がまとめられています。
島の山を眺めるだけでは、この火山群の存在は分かりにくいでしょう。海底の測量によって複数の円錐状の高まりが見つかっており、そのうちエピBでは、過去の噴火で一時的な島ができたこともあります。
海底の火山が成長して海面を越えても、それで長く残る陸地が完成したとは限りません。噴出物が増える量より波などで削られる量が多ければ、いったん現れた山頂が再び海面下へ隠れることもあります。
「島の数」と「火山の数」が一致しないのはこのためです。一つの島に複数の火口があるうえ、陸地として数えられない火山も、列島の地下活動の一部を担っています。
沈み込む海底にもある、巨大な高まり
地図上では一本に見える海溝も、どこでも同じ条件の境界ではありません。列島中央部の西からは、ダントルカストーと呼ばれる海底の高まりが近づき、沈み込み帯に衝突しています。
周囲より高い海底が入り込めば、上側の岩石の変形や持ち上がり方にも影響が及びます。1991年の地震波探査に基づく研究では、この衝突域の斜面に、断層だけでなく大規模な斜面崩壊でできた堆積物があることも示されました。均一な板どうしの境界という図だけでは、こうした局地的な変形を表し切れません。
したがって、火山が多い原因を沈み込みに求めることはできても、個々の島の形や噴火の頻度まで、一つの矢印で説明し尽くすことはできません。沈んでくる側の海底、上側の地殻、マグマが通る場所が、それぞれ異なる条件を持っています。
火山の列をつくる条件と、個々の噴火の時期
プレートの沈み込みは、火山が多く分布する背景を説明します。しかし、その知識だけで「次はどの火山が噴くか」を決めることはできません。地図上で隣り合う火山でも、内部の状態が同時に変わるとは限らないためです。
実際の活動を調べるには、地震、地面の変形、火山ガス、熱、火口の様子といった観測が欠かせません。長い地質学的な時間をかけて火山列が育つことと、ある火口で今起きている変化を捉えることは、異なる大きさの問いなのです。
海溝に沿ったマグマの発生、島ごとの火山の成長、海中にも続く噴火口。これらを重ねると、バヌアツは単に「火山のある島が多い国」ではなく、海面の上下にまたがる活動的な島弧だと分かります。目に見える山々は、その大きな構造の一部分にすぎません。