環礁と聞くと、青い海を細い輪が囲む、海面すれすれの島を思い浮かべるかもしれません。ところが、ソロモン諸島のレンネル島では、かつてのサンゴ礁が高い崖となり、その上に森林が広がっています。島の東部には、大きなテガノ湖が残りました。
この組み合わせをつくったのは、環礁の土台が海面に対して持ち上がる隆起です。外側の礁は陸の縁へ、内側の礁湖は島のくぼみへ。今の崖と湖を別々に眺めるより、元は一つの環礁の異なる部分だったと考えると、島の形が理解しやすくなります。
高い崖に変わった、かつてのサンゴ礁
環礁は、礁湖と呼ばれる浅い海をサンゴ礁が取り囲む地形です。現在の海面に近い位置で生きたサンゴが育つことと、その下にある古い礁の岩石が動かないことは、同じではありません。
サンゴなどの骨格が積み重なってできた石灰岩も、地殻の一部として持ち上がりえます。レンネル島では、周囲の地殻変動に伴う隆起によって、かつて海に接していた礁の部分が高い陸地になりました。
つまり、サンゴが空中へ伸び続けて崖になったのでも、森の中で生きたサンゴが育っているのでもありません。海中で形成された礁の岩石が陸上へ現れ、その後に植物が生育したのです。
島の周囲にある急な縁は、元の礁の縁に、内側のくぼみは元の礁湖の側に対応します。つまり、海だった場所の凹凸が、持ち上がった島の骨格になりました。
環礁の内側に残った、面積約150平方キロメートルの湖
島の東部を占めるテガノ湖は、かつての礁湖の名残です。面積はおよそ150平方キロメートルあり、島の小さなくぼみに水たまりができた、という規模ではありません。
ただし、環礁全体が一枚の皿のように、完全に水平のまま持ち上がったとは限りません。レンネル島では西側がより高く、東側には湖を収める低い部分が残っています。かつての礁湖の範囲が、今もすべて湖であるわけではないのです。
隆起環礁と湖の関係を示す模式図で、レンネル島の実測断面や隆起量の復元ではありません。高低差と幅を大きく変形して描き、長い歴史の海面変動や東西の隆起差は省略しています。破線は概念的な水の経路で、調査済みの一本の地下水路を示すものではありません。
水面を囲んでいるのは、火山の噴火でできたカルデラの壁ではありません。テガノ湖のくぼみは、環礁の内部という別の出発点を持っています。円や輪に見える地形でも、その起源まで同じとは限らないことがよくわかります。
また、島の崖の高さを、そのまま湖面の高さと考えることもできません。高くなったのは周囲の礁の岩石であり、湖には低い盆地としての性格が残っています。島の最高部、湖岸、湖底は、それぞれ違う高さの場所です。
海から離れて見えても、地下でつながる水
森に囲まれた湖なら、中の水は真水でしょうか。テガノ湖は、淡水と海水の性質が混ざる汽水の湖です。地表に太い川や開いた水路が見えなくても、海とのつながりが完全に切れているわけではありません。
石灰岩には割れ目や空隙があり、水は地下を通って移動できます。テガノ湖へ入る水も海水だけではありません。雨に由来する淡水も地下を移動し、湖岸の湧き水などを通じて湖を養っています。
このため、湖の汽水を「隆起したときの海水が、そのまま閉じ込められたもの」と説明するのは不十分です。古い海水を密封した容器ではなく、今も水が出入りする地形なのです。
見える水路だけを追うと、湖と周囲の土地との関係を狭く捉えてしまいます。森林に降った雨が地中へ入り、低い側や湖岸へ移動するため、湖面の外側にも水を供給する範囲があるからです。湖の広さと、湖を支える集水域の広さは一致しません。
石灰岩のくぼみと森林がつくる、島内の違い
隆起したあとも、石灰岩の形は固定されません。二酸化炭素を含む水が石灰岩を少しずつ溶かすことで、割れ目や穴、くぼみが発達します。こうした溶食による地形が、カルストです。
レンネル島には、角張った石灰岩が目立つ場所と、低い土地に森林が育つ場所があります。環礁が隆起したからといって、内部が一様に平らで、土の厚い土地になるわけではありません。
テガノ湖には、この湖に固有のウミヘビの仲間が知られ、周囲の森林には固有の鳥類などが生息します。陸に囲まれた汽水の湖と石灰岩の森という組み合わせは、それぞれの生物が暮らす環境の違いにも関わっているのです。
2021年の動物相の調査報告でも、この島では新たな生息記録が報告されました。島が古くから知られていることと、生物の分布が十分に調べ尽くされていることは別です。隆起環礁の地形は、生きものがどの環境を利用しているかを調べるうえでも重要な背景になります。
一度の隆起ではなく、海面との位置関係の積み重ね
レンネル島の成立を、一回の地震で環礁が丸ごと持ち上がった場面だけで想像することはできません。UNESCOとIUCNの調査報告は、複数回の隆起と、古い礁の地形が残ることを説明しています。
海面に対して陸がどの高さにあるかは、陸側の上下運動だけでなく、海面そのものの変化にも左右されます。過去の礁や海岸の段差を調べる際には、両者を区別する必要があります。現在の崖の高さだけから、一定の隆起速度を逆算することはできません。
環礁は必ず沈み続けて海面近くにとどまる、という決まりもありません。沈降や海面変動に対応して育った礁が、後の地殻変動によって隆起する場合もあります。「環礁」という地形名だけで、その土地の将来の上下運動まで決まるわけではないのです。
レンネル島に残ったのは、単なるサンゴの化石ではありません。外洋に面した礁、内側の礁湖、その間の高低差が、崖と盆地と湖へ姿を変えて残りました。海岸の森と内陸の大きな湖が、一つの海の地形の続きになっているのです。
参考資料
- UNESCO World Heritage Centre:East Rennell。隆起環礁、テガノ湖、カルスト地形と生態系の概要。
- UNESCO・IUCN:Reactive Monitoring Mission report to East Rennell in October 2012。複数回の隆起と、旧礁の斜面・縁・礁湖底の関係。
- UNESCO(2004):Our Pacific Heritage: The Future in Young Hands。レンネル島の地形、湖と海の地下水のつながり。
- NASA(2023):Silhouette of a Solomon Island。宇宙から見た島の東部の湖と、その周囲の森林。
- New Faunal Records from a World Heritage Site in Danger: Rennell Island, Solomon Islands(2021年、著者公開論文)。固有種と島内の動物相に関する調査。