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トンガ海溝はなぜ深いのか 急角度で沈み込む太平洋プレート

公開日

トンガの東の海には、水深1万メートルを超える細長いくぼみがあります。トンガ海溝です。最深部のホライゾン海淵は約1万800メートル。島の近くに、なぜこれほど深い海底があるのでしょうか。

そこは、古く冷えた太平洋プレートが西側の地下へ曲がり込み、沈んでいく場所です。ただし、急角度で沈むから深い、という説明だけでは足りません。岩板のたわみ、海底を埋める堆積物の少なさ、沈み込む海山と上側の地盤の変形までが、海溝の深さに関係しています。

海底に開いた割れ目ではなく、岩板が曲がる場所

海溝を、地球の内部へ通じる巨大な亀裂のように想像すると、深さの理由を取り違えてしまいます。底が抜けているわけではなく、海溝の底にも岩石と堆積物があります。

プレートとは、地殻と、その下にあるマントルの硬い部分を合わせた岩板です。東から来た太平洋プレートがトンガ側の岩板の下へ潜り込む際に海底が下へ曲がり、細長い谷状の地形ができるのです。

硬い岩が曲がることを不思議に感じるかもしれません。しかし、厚く大きな岩板も広い範囲に力が加わればたわみ、曲がり切れない部分では断層ができて、海底に段差が生じます。トンガ海溝の外側で見つかっている断層群は、この変形の痕跡でもあります。

地下へ入った岩板は、その先でも沈み続けます。したがって、海溝の水深と、沈んだプレートが地下のどこまで達するかは別の量です。水深が約11キロメートルだからといって、岩板の先端もそこで止まるわけではありません。

長い時間をかけて冷えた太平洋プレート

中央海嶺などで新しくできた海洋プレートは、移動しながら熱を失い、冷えて厚くなっていきます。海溝へ着くまでにどれほどの時間を過ごしたかによって、地下へ沈み込む際の性質も違うのです。

トンガ付近へ入ってくるのは、古く冷えた海洋プレート。米国地質調査所は、この地域の岩板の古さと高い密度を、急な沈み込みを生む重要な条件として説明しています。沈んだ部分の重さが、後ろに続く岩板を引く働きもあります。

ただし、年齢を知るだけで沈み込み角度が一つに決まるわけではありません。上側のプレートの動き、マントルの流れ、岩板の厚さや浮力の違いも影響します。トンガ海溝では、冷えた岩板と、周囲の活発な運動が組み合わさっているのです。

また、「急角度」といっても、海溝の底から岩板が直角に折れているのではありません。海底付近の曲がり方と、さらに深い地下での傾きには違いがあります。断面図の一本の線は、その変化を簡略化したものです。

西へ沈む太平洋プレートと、東へ後退し得る沈み込みの入口
上段は右の東側から来る太平洋プレートが、トンガ側の地下へ左下向きに沈む断面。西側のラウ海盆では海底が広がる。下段は岩板の曲がり目が海洋側へ移るロールバックの概念。

トンガの代表的な沈み込み方向を示す模式図です。海底の深さ、岩板の厚さ、角度、距離、移動量は実測値に比例しません。下段は位置の違いを示す概念図で、年代を指定した復元ではありません。海山や堆積物、小プレートの細かな境界は省略しています。

沈み込む海溝の背後で、広がるラウ海盆

プレートがぶつかる場所なら、周囲は一様に押し縮められるのでしょうか。トンガの西側にあるラウ海盆では、むしろ海底が引き離され、新しい地殻がつくられています。沈み込みのすぐ背後に、海底が広がる場所があるのです。

なぜ、ぶつかり合う地域の背後が広がるのでしょうか。沈む岩板の折れ曲がる位置が海洋側へ後退すると、上側のプレートもそれに伴って引き伸ばされやすくなります。このような動きが、スラブ・ロールバックです。

ここでいう後退は、沈んだ岩板が地上へ引き返すことではありません。地下へ沈み続けながら、その入口に当たる場所が移る現象です。トンガでは、この動きと背後の海盆の拡大を切り離せません。

二人が向かい合って歩く場合、一方だけが歩く場合より、二人の間の距離は速く縮まります。それと同様に、海溝に対して岩板が入っていく速さは、太平洋プレートの動きだけでは決まりません。海溝側の移動も加わるため、オーストラリアと太平洋という二つの大きなプレートの接近速度だけでは、この地域の沈み込みを表せないのです。

深いくぼみを埋め切らない、少ない堆積物

海溝の水深は、岩盤がどれだけ下がっているかだけでなく、その上に何が積もっているかにも左右されます。谷に土砂が厚くたまれば、海水が届く底は浅くなります。

大陸近くの海溝には、河川から運ばれた土砂などが大量に届く場合があります。一方、トンガ海溝は、多くの沈み込み帯と比べて堆積物に乏しい場所です。海底調査でも、斜面に岩盤が露出する部分が広く確認されてきました。

泥が全くないわけではありません。斜面の途中の平らな場所には堆積物がたまり、崩れた岩石も移動しますが、それだけで深い谷が埋まるとは限りません。深く曲がった海底の形が、水深として現れやすいのです。

ここには、海溝の深さを一つの原因だけで説明できない理由があります。同じ程度に岩板が曲がっていても、堆積物が谷をどの程度埋めるかによって、測られる水深は変わります。

沈み込む海山が変える、海溝の深さと形

太平洋プレートの表面は、平らなベルトではありません。火山がつくった大きな海山を載せた部分もあります。トンガ海溝へ入ってくるルイビル海山列は、その代表例です。

海山が海溝へ近づくと、海底の高まりそのものが谷へ入り、上側の岩板にも強い変形を与えます。1994年の海洋掘削計画の報告では、この海山列との交差付近に比較的浅い区間があり、その北側には急斜面と非常に深い海底が続くことが示されました。同じトンガ海溝の中でも、断面は一様ではありません。

このような場所で研究されてきたのが「構造侵食」。上側の岩板の縁が削り取られ、沈む岩板とともに運ばれる働きを指します。海岸を波が削る侵食とは異なり、地下へ入っていく岩板が、相手側の地盤の形まで変える過程なのです。

ただし、特定の最深点を「海山が削った穴」と言い切ることもできません。研究では、海山の衝突履歴、上側の岩板の薄化、断層や斜面崩壊などを併せて検討しています。水深の分布そのものが、プレート同士の接触の歴史を知る材料です。

水深9,000メートル台で引き上げられた岩石

トンガ海溝の調査は、音で深さを測るだけではありません。海底の岩石を回収し、どのような物質が斜面に現れているのかも調べてきました。

1969年に公表された調査では、水深9,150〜9,400メートルから、かんらん岩や、かんらん石に特に富むダナイトなどが回収されています。これほど深い海の斜面に、地殻の深部やマントルを考えるうえで重要な岩石が露出していたのです。

もっとも、かんらん岩が見つかったことだけで、その地点がそのままマントルの表面だと決まるわけではありません。岩石ができた過程や、断層で動いた履歴、周囲の構造を組み合わせる必要があります。海底からの試料は、音響探査とは異なる手掛かりを与えてくれます。

トンガ海溝の深さには、冷えて沈みやすくなった岩板、移動する沈み込みの入口、少ない堆積物、海山との衝突が重なっています。海底の最深点は単なる深さの記録ではなく、海洋プレートが地球内部へ戻っていく過程が、地形として現れた場所なのです。

参考資料

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