海に囲まれた低い島では、地面を掘っても塩水しか出ないのでしょうか。実はサンゴ礁の島にも、地下に雨水由来の淡水がたまる場所があります。横から見た形がレンズに似ているため、「淡水レンズ」と呼ばれる水のまとまりです。
ツバルの島々でも、淡水レンズは重要な地下水の仕組みです。ただし、どの島にも同じ厚さの淡水が眠っているわけではありません。雨、地面の隙間、島の幅、潮の満ち引きが組み合わさり、同じ国の中でも地下水の状態には大きな違いがあります。
サンゴの砂や礫の隙間にしみ込む雨
環礁の島をつくるのは、サンゴや貝などに由来する砂や礫、それらが固まった石灰岩です。雨の一部は、岩や粒の間にある隙間へしみ込み、地下水になります。
「地下に水がたまる」といっても、巨大な洞窟の中に湖があるとは限りません。砂の一粒一粒はその場に残ったまま、粒と粒の隙間を水が満たしているのです。
その地下は、島の岸を通じて海ともつながっています。したがって、地下水の下部や海岸近くには、塩分の多い水が入り込みます。雨水が海水から完全に隔離された容器へ落ちるのではありません。
では、なぜすべて塩水にならないのでしょうか。雨が淡水を供給し続けることに加え、淡水と海水の密度に小さな差があるからです。
海面より下にも残る、淡水の薄いふくらみ
海水には塩類が溶けているため、同じ体積の淡水より重くなります。地面の隙間でも、軽い淡水は上側に、重い塩水は下側に位置しやすくなります。
さらに、雨水が島の内部へしみ込むと、地下水面は海面よりわずかに高くなります。水が地面の隙間を通って海へ流れる際には抵抗があるため、入った水が瞬時に全部抜けるわけではありません。この淡水の水位と重さが、下側の塩水との釣り合いに関わります。
その結果、淡水のまとまりは海面より下にも伸び、島の中央付近で厚く、岸へ向かって薄くなる典型的なレンズ形が生まれます。低い島でも淡水を持てるのは、淡水が海面より上の地面だけに収まる必要がないためなのです。
ただし、油と水のように、境目できれいに分かれるわけではありません。淡水と海水は混ざり合い、間には塩分が徐々に変わる帯ができます。図に描いた境界線は、地下に仕切り板があることを意味しません。
淡水レンズの基本を示す模式図で、ツバルの特定の島の実測断面ではありません。縦方向を強調し、水位・厚さ・流出量は比例していません。青い破線は海面の高さ、緑の矢印は流れの例です。色の境に仕切りはなく、地下全体に地盤の粒や岩石が存在します。淡水レンズがほとんど発達しない場所もあります。
水が入れ替わり続ける、地下の貯え
淡水レンズは、地下に封じ込められた昔の雨ではありません。新しい雨が入る一方で、水は岸や海底へ少しずつ流れ出ています。供給と流出が釣り合うことで、一定の大きさが保たれます。
雨の少ない期間には供給が減っても流出は続くため、淡水の領域は縮みやすくなります。まとまった雨が降れば再び広がり得ますが、変化の速さや量は島の地質によっても異なります。
潮の満ち引きによる海面の上下も、海とつながる地下水を揺さぶります。その繰り返しによって、淡水と塩水の混合が進む場所もあります。地表に波が届いていなくても、地下水まで海の影響を免れるわけではありません。
水をくみ上げる場合も同様です。淡水が減れば下側の塩水が上がってくることがあり、地下を深く掘ればいつでも良質な水を増やせるわけではありません。淡水レンズの厚さと、取り出せる水量は同じものではないのです。
地面を広げても、淡水の貯えが増えるとは限らない理由
一般に、幅の広い島では海岸から遠い場所を確保しやすく、雨を受ける面積も大きくなります。しかし、地図上の面積だけで地下水の量を見積もると、重要な条件を見落とします。
たとえば、大きなサンゴ片を積んで埋め立てた地面は、細かな砂が詰まった地面と、水の通りやすさが異なります。隙間が大きくつながっていれば、雨水が入りやすい反面、海へ抜ける水や、潮に伴って出入りする塩水も増えやすくなります。
ツバルのフナフティ環礁にあるフォンガファレ島を調べた研究は、この問題を具体的に示しました。2012年刊行の論文では、大潮時の地下水と電気的な性質の調査から、同程度の大きさの別の環礁島で期待されるような、厚い淡水レンズは確認されませんでした。
研究者が重視したのは、かつての湿地を、透水性の高いサンゴ塊で埋め立てた部分です。このような地面を自然の島と同じ条件で幅に加えると、淡水レンズの厚さを過大に見積もりかねません。陸地が増えることと、水を保つ地盤が増えることは、必ずしも一致しないのです。
フォンガファレとバイツプで異なる地下水の条件
フォンガファレの調査では、満潮位より低い場所や透水性の高い埋立地で、潮と歩調を合わせた塩分の変化が広く見られました。一方、より高い部分の表層には、ほぼ淡水の薄い層もありました。「ツバルの地下には淡水がない」という結果ではありません。
別の島、バイツプでは、太平洋共同体(SPC)が2015年に地球物理学的な調査を実施しています。SPCの2024年の事業資料によると、島の北部にある小規模な淡水レンズについて、地域に伝わる知識を確かめ、その範囲や量を調べたものでした。
ここで注目したいのは、一つの島全体が同じ地下水条件ではないことです。淡水が保たれる場所は、島の特定の部分に限られる場合があります。島の名前や面積が分かるだけでは、水の貯えまで分かったことにはなりません。
フォンガファレとバイツプの調査は、異なる時期と場所で行われました。どちらか一つの記録で、ツバル全体の地下水を代表させることはできません。低い島という共通点の下に、地形と地質の違いが隠れています。
雨水タンクと地下水は、同じ雨を異なる形で蓄える仕組み
ツバルのような環礁の国では、屋根に降る雨を集めてタンクにためる方法も重要です。地中へしみ込む前に集める雨水と、地下へ入った後の水を利用する方法は、同じ雨を異なる場所で蓄えていると考えられます。
タンクには容器の容量という限界があり、淡水レンズには地盤、雨量、海との水の出入りという限界があります。地下に水があることを確認できても、それがそのまま飲用に適するとは限りません。塩分の少なさと、衛生上の水質は別の条件です。
2024年にSPCが報告したツバルなどの沿岸帯水層の事業でも、地下水の量だけでなく、塩水の侵入や土地利用などを含めた調査・管理が課題になっています。淡水レンズの発見だけで水の問題が解決するのではなく、雨水と地下水それぞれの性質を理解する必要があります。
海に囲まれた島が淡水を持てるのは、海とのつながりを完全に断ち切っているからではありません。海水と接する地面の中で、雨が補給され、密度の違いと水の流れが釣り合っているからです。小さな島の地下には、雨と海の両方に支えられた、動き続ける水の貯えがあるのです。
参考資料
- USGS(1994):Kwajalein Islandの地下水調査図版、淡水レンズの断面・流れ・混合帯(一般的な仕組みの参照)
- USGS:Saltwater Intrusion、淡水の水位低下と塩水侵入
- Nakada・Umezawa・Taniguchi・Yamano(2012、オンライン公表2011):Groundwater dynamics of Fongafale Islet, Funafuti Atoll, Tuvalu
- SPC:Programme Results Report 2015、バイツプ島などの地下水調査
- SPC(2024):RFQ 24-6277、バイツプ島の水資源調査と雨水利用の背景
- SPC(2024年6月4日):Pacific Island atolls fixed on water security、ツバルなどの沿岸地下水事業