地形図の細い線が、途中でくの字に折れています。そこは山の背なのでしょうか。それとも、水の集まる谷なのでしょうか。線の形だけを眺めていると、出っ張りとくぼみが入れ替わって見えることがあります。
谷を横切る等高線は高い方へ入り込み、尾根を横切る等高線は低い方へ張り出します。なぜ、曲がり方が逆になるのでしょうか。「同じ高さを結ぶ」という線の意味から考えると、丸暗記に頼らず、平面の模様を立体の地形として捉えられます。
等高線がつなぐのは、坂道ではなく同じ高さ
等高線は、標高が同じ点を結んだ線です。標高100メートルの線であれば、その線上のどこも100メートル。紙の上で線が上下へ曲がっていても、線に沿って標高が上がったり下がったりしているわけではありません。
地図上の上下と、土地の高低は別の方向です。地図の上へ向かう線は、通常の北を上にした地図なら北へ延びているだけで、登り坂を意味しません。ここを混同すると、尾根と谷の形も逆に捉えやすくなります。
山の模型を、水平な面で薄く切る場面を考えてみましょう。切り口の輪郭を上から重ねたものが、等高線の基本的な姿です。斜面に段差がなくても、切る高さを決めれば何本もの線ができるため、地図の線を実際の階段や畦のように想像する必要はありません。
国土地理院の2万5000分の1地形図では、基本となる主曲線は10メートル間隔、太い計曲線は50メートルごとです。太い線のところだけ急に大きな段差があるのではなく、高さを数えやすくするための区別なのです。
谷では山側へ、尾根では麓側へ曲がる線
谷の左右にある斜面を、標高120メートルの位置で横切るとします。谷底は、両側の斜面より低い場所です。そのまま真横へ進めば120メートルより下へ降りてしまうので、同じ高さを保つには、谷の奥、すなわち山側へ回り込まなければなりません。
この回り込みを地図に表すと、等高線は谷の部分で高い方へ折れ込み、V字に近い谷なら、Vの先端が上流側を向きます。川が流れる方向とは逆になるため、尖った部分を下流と考えないことが大切です。
尾根では関係が逆になります。斜面からそのまま山の背へ向かえば、両側より高い場所へ登ってしまうため、標高120メートルのまま尾根を横切るには、麓側へ回り込まなければなりません。こうして等高線は低い方へ張り出すのです。
下の図は、どちらも上側が高く、下側が低い地形です。標高は上から140、130、120メートル。高低の並びをそろえて比べると、谷と尾根で曲がる向きが逆になることを確かめられます。
上から見た等高線と、横切る断面を組み合わせた模式図です。実在する場所の測量図ではありません。数字は関係を示す仮の標高で、上下の断面の高さ・幅・位置は平面図と比例しません。破線は谷筋・尾根筋、青い矢印は横断方向の地表水の動きの例です。地表の凹凸、浸透、植生などの影響を省略しており、流量や危険度を表す図ではありません。
実際の谷には幅の広いものがあり、尾根にも丸い背があります。V字かU字かという文字の形より、周囲の標高に対して、どちらへ曲がっているかが本質です。図を回転させても、この関係は変わりません。
川が描かれていなくても存在する谷筋
谷は川の青い線で見つけられる、という考え方は便利ですが、谷と川は同じものではありません。谷は地形のくぼみであり、常に水が地表を流れているとは限らないためです。
雨の少ない時期には乾く小さな谷もあれば、水が地面へしみ込み、表面に流れが見えない谷もあります。国土地理院の地理教育資料でも、普段は川が流れていない谷があると説明されています。
そこで、何本かの等高線の折れ込みを、高い方から低い方へつないでみると、谷筋の方向が分かります。一本の線の角だけで判断するのではなく、隣り合う高さでも同じくぼみが続くか、という関係が手掛かりです。
尾根の張り出しをつなぐと、両側の斜面を分ける山の背が現れます。地表の雨水はこの背を境に左右の谷へ分かれやすく、川の流域を区切る分水界にも、こうした地形の特徴が表れているのです。ただし、地中の水の通り道は別にあるため、地下水まで必ず同じ線で分かれるわけではありません。
等高線の間隔に表れる、横の距離と高さの比
線が混み合っていれば急斜面、離れていれば緩斜面。この対応も、等高線の高さの差が決まっていることから説明できます。
たとえば、高さが10メートル違う二本の線の間を、水平距離で100メートルかけて横切る場所は、同じ高さの差を20メートルで上がる場所より、平均の傾斜が緩やかです。地図上で線が近いというのは、短い横の距離で高さが変わるということなのです。
前者なら、高さの差を水平距離で割った勾配は10パーセントです。これは10度という意味ではありません。角度に直すと約5.7度となり、パーセントと角度は異なる尺度です。後者の勾配は50パーセント、角度では約26.6度になります。
ただし、線の間を斜めに横切れば距離は長くなります。斜面が最も急に下る向きは、滑らかな地形なら、その場所の等高線におおむね直角の向きです。蛇行する山道の長さをそのまま使っても、地形の最大傾斜は求められません。
また、異なる地図どうしで線の密度だけを比べることにも注意が必要です。5万分の1地形図の主曲線は20メートル間隔で、2万5000分の1の地図とは、一本分の高さも図上の縮み方も違います。
閉じた輪の内側が、山頂とは限らない理由
等高線が同心円のように閉じていれば、小山を想像しやすいでしょう。しかし、すり鉢状のくぼみを水平に切っても、閉じた輪はできます。輪の形だけでは、山と穴を区別できません。
内側へ向かって100、110、120メートルと高くなれば山側、反対に低くなれば凹地です。数字に加え、国土地理院の地形図には、等高線の内側に短い線を添えて大きな凹地を示す記号もあり、低くなる側を形の上でも区別できます。
尾根の途中でいったん低くなり、その先で再び高まる場所は、鞍部と呼ばれます。馬の背に置く鞍のような形。山の背に沿って進めば一度下って再び上る一方、左右の谷からは、その同じ場所へ向かって上がってくるのです。
鞍部が興味深いのは、ある方向では低く、直角に近い別の方向では高いという点です。「高い場所か、低い場所か」の二択だけでは、地形を捉え切れません。尾根と谷を組み合わせて初めて、峠のような山の切れ目が理解できます。
等高線のない平地にも残る、細かな高低差
10メートル間隔の等高線だけでは、数メートルの起伏が十分に表れない場合があります。線がほとんどない場所を、そのまま完全な平面だと考えることはできません。
そのため、緩い斜面や複雑な地形には、5メートル、あるいは2.5メートル間隔の補助曲線が使われます。太さや実線・破線の違いは装飾ではなく、どの高さを選んで表したかという情報です。
航空レーザ測量などからつくる数値標高モデルでは、細かい格子ごとの高さも扱えます。地理院地図の標高値には、こうしたモデルから計算した値が使われますが、元の測定値や、等高線から推定した値と完全に一致するとは限りません。地図で示す一本の線と、画面上の一点の数字は、作成の過程まで同じではないのです。
等高線の強みは、地形を写真のように見せることより、離れた場所の高さを、一つの基準で結べる点にあります。谷の奥へ入り込む線、尾根の先へ張り出す線、斜面で狭まる線の間隔。それぞれが同じ高さの約束に従っているからこそ、平らな紙の上に、山の背と谷のつながりが表れます。