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ワジとは何か 普段は乾いた谷に水が流れる仕組み

公開日

砂漠を写した衛星画像に、木の枝のような筋が見えることがあります。川に似ているのに、地上へ降りれば砂や礫のある乾いた谷。西アジアや北アフリカでワジと呼ばれる谷には、こうした姿のものが少なくありません。

ワジは、水が一度も流れない場所ではなく、流れる時間が限られる場合の多い谷です。短時間の雨が広い斜面から集まり、谷へ集中し、やがて地面へしみ込む。水のない景色にも、はっきりした水の経路が残っています。

水の有無だけでは決まらない「ワジ」の意味

ワジはアラビア語に由来する谷の呼び名で、地名としても広く使われます。地理の説明では普段は乾いた河道を指すことが多いものの、ワジと名の付く場所がすべて同じ流れ方をするわけではありません。

雨の直後だけ流れる区間もあれば、季節的に水が続く区間、湧水や水たまりが残る区間もあります。「普段は乾いている」は代表的な特徴であって、全区間に一年中水がないという厳密な定義ではないのです。

一地点の雨ではなく、流域全体から集まる水

谷底に届く水の量は、その真上に降った雨だけでは決まりません。周囲の斜面や支谷へ降った雨も、地形に沿って低い方へ集まります。この、水を同じ出口へ届ける土地の範囲が流域です。

たとえば、広い屋根から流れる雨が一つの雨どいへ集まると、出口では細い範囲の雨とは思えない勢いになります。ワジでも同様に、離れた山地の降雨が、雨の降っていない下流へ流れを届けることがあります。

雨の降る山地と、離れた下流の流れのつながり
上流の山に雨が降り、谷を伝って晴れた下流へ流れる。流路の途中には川底から地下へ向かう浸透の矢印もある。

流域内のつながりを示す模式断面です。流れの到達時刻・水深・危険範囲を予測する図ではありません。ワジの水量や流れる期間は、雨と地質などの条件によって異なります。

ただし、地図で囲んだ流域全体の雨が必ず出口まで届くわけではありません。途中に水をためるくぼみがあったり、河床へ大量に浸透したりするため、実際につながる範囲は雨の規模によって変わります。

乾いた大地でも、激しい流れが生まれる条件

乾いた土なら、雨をいくらでも吸い込むように思えるかもしれません。しかし水が地中へ入る速さには限度があり、固い地表や露出した岩盤では浸透しにくい場所もあります。降り方がその速さを上回ると、水は地表を流れます。

斜面から細い谷、細い谷から太い谷へと合流すれば、流れは短時間で増大することがあります。こうした急な増水は、年間の降水量が少ないことと矛盾しません。少ない雨が、いつ、どれほど集中的に降るかが違うためです。

つまり、年間雨量は一年分の合計であり、ある一時間の川の働きをそのまま表す数字ではありません。乾燥地の谷が深く刻まれている理由の一つも、この時間の偏りにあります。

下流へ行くほど水が減る川

日本の大河では、支流が合流するほど水量が増える姿を想像しやすいでしょう。乾燥地の一時的な流れでは、反対に下流へ進むほど水が減り、途中で地表の流れが消える場合があります。

流れの途中では、砂や礫の河床へ水がしみ込み、蒸発によっても失われます。上流から届く量より失う量が多ければ、地表の流れは先へ続けません。小規模な雨のあとに、上流だけが濡れて下流が乾いたままになるのは、このためです。

地表から消えた水は、すべて直ちに遠くの地下水へ到達するわけではありません。浅い地層に蓄えられ、植物に使われる水もあります。流れの一部は、目に見える川から地面の中の水へ形を変えています。

この性質は、地図の青い線だけで水の量を考えると見落としがちでしょう。常時流れる川なら一本につながって見える水系も、ワジでは雨ごとに接続が変わります。谷の形としては連続していても、その日に水が連続して流れたとは限りません。

短い流れのあとに残る、礫と植物の帯

増水時の水が運んだ泥や砂、礫は、流れの勢いが弱まる場所に残ります。次の増水では、その堆積物をよけた別の経路が削られるかもしれません。乾いた谷底も、前回までの流れが配置した材料の上にあるわけです。

河道に沿う植物の帯も、水の存在を考える手掛かりになります。米国モハーヴェ砂漠の一時河川を調べた研究では、上流との水のつながりを失った河道と、流入が続く河道で浸透や植生の条件に違いが見つかりました。これはアラビア半島の全ワジに同じ数値を当てはめる話ではなく、断続的な水でも生態系を支えることを示す実例です。

ワジを「昔の川の跡」とだけ捉えると、今も続く作用を見落とします。乾いた時間が長くても、たまに戻る水が谷底の形を更新し、その水の一部を地面に残しています。

参考資料

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