鳥取砂丘では、砂の景観を守るために草を取り除く活動が行われています。自然を保護するなら植物を増やすはずではないか。そう感じるのも無理はありません。しかし砂丘では、草が増えること自体が、そこに特有の地形や生きものの環境を変える場合があります。
理由は、砂丘が動く砂でできていることです。風が砂を運び、植物がその風を弱め、砂の移動が減るとさらに植物が定着する。この循環によって、裸地だった場所が草地へ変わっていきます。
砂漠ではなく、雨も雪も降る海岸の砂丘
鳥取砂丘は、乾燥した気候によって植物が育ちにくい砂漠とは成り立ちが違います。川から海へ運ばれた砂が波によって海岸へ寄せられ、風が陸側へ運ぶことで形成された海岸砂丘です。
つまり、砂が広がる見た目は似ていても、草が生えない理由まで同じではありません。鳥取では、砂の表面が乾きやすいことに加え、風で削られたり埋まったりする不安定さが、植物の定着を難しくしています。
根を張った直後に周囲の砂が吹き払われたり、葉ごと砂に覆われたりする場所では、普通の草地と同じ植物は育ちにくいでしょう。裸の砂は、水が全くない証拠ではなく、地面が動き続ける結果でもあるのです。
草の一本が、砂を止める障害物になる仕組み
風で跳びはねたり転がったりする砂粒は、地表近くの風の力に支えられて移動します。そこに植物が生えると、茎や葉が風を遮り、近くの砂が動きにくくなります。
植物は地下でも根や地下茎を広げます。地上では風を弱め、地下では砂を固定する。その周辺では、砂に埋もれたり根を露出したりする変化が小さくなり、ほかの植物も定着しやすくなります。
砂と植生の相互作用を示す模式図です。矢印は観測した風速ではなく、植物があれば砂が全く動かなくなるという意味でもありません。鳥取砂丘に本来生育する海浜植物と、草原化に関わる植物の区別も必要です。
このため「草が増えたから砂が動かなくなった」と「砂が動かなくなったから草が増えた」は、どちらか一方だけが正しいわけではありません。原因と結果が互いを強める関係にあります。
砂を止めるための植林と、砂丘を動かすための管理
飛んでくる砂は、砂丘の内側では風景をつくる力でも、周辺の畑や集落には負担となります。鳥取砂丘の周辺では、飛砂を抑えるための植林などが進められてきました。
生活を守るために風と砂を止めることは、砂丘の形成を支える条件を変えることにもつながります。さらに川や海岸の環境が変われば、供給される砂の量や通り道も変わります。草原化を、草だけの問題として切り離すことはできません。
鳥取県立博物館の説明では、1970年代ごろから砂の移動が減り、本来の砂丘には少なかった内陸性の植物の侵入・定着が目立つようになりました。1991年から計画的な除草が行われているのも、この変化への対応です。
砂丘の植物をすべて取り除くわけではない理由
もともと砂丘には、厳しい条件に適応した植物が暮らしています。ハマヒルガオなどは地下茎を伸ばし、砂が動く海岸で生きる性質を備えています。砂丘保全は、植物の存在そのものを否定する仕事ではありません。
問題になるのは、本来の砂丘環境と異なる草地への変化や、外来植物などの広がりです。裸地を利用する生きものと、砂丘固有の植物が育つ場所の両方を考える必要があります。緑の面積が増えるほど自然が豊かになる、という単純な物差しでは測れません。
森林なら木が多いことが重要でも、砂丘では砂が動けることに価値があります。守るべき自然の種類によって、望ましい植生の状態も変わるのです。
風紋をつくる砂と、固定された砂の違い
砂丘の細かな風紋は、砂粒が風で移動し、少しずつ並べ替えられた模様です。風が吹いていても、地面が植物に覆われて砂粒が動かなければ、同じ模様はできません。
除草によって露出した砂面を戻すことには、写真映えする景観以上の意味があります。砂が削られ、運ばれ、たまるという、砂丘を砂丘として成り立たせる過程を保つことにつながります。
放っておくことと自然を保つことが、必ずしも一致しない場所がある。鳥取砂丘の草原化は、人の影響を受けてきた土地を守る難しさを、足元の砂と草の関係として示しています。