ドイツ西部のアイフェル地方には、森の中を丸く切り抜いたような湖があります。火山の湖と聞くと、高い山の頂上に水がたまった姿を思い浮かべるかもしれません。ところが、ここで目立つのは山よりも、周囲の土地をくぼませた大きな穴です。
その穴をマールと呼びます。地下から上がってきたマグマが地下水と出会い、爆発によって岩盤を壊し、地表に残したくぼみです。湖は、その後に水がたまった姿。火山が穴をつくる過程と、穴が湖として残る条件は、分けて考える必要があります。
山を積み上げる噴火と、地面を掘り広げる噴火
火山は必ずしも、溶岩や火山灰を積み上げて山になるわけではありません。アイフェルのマールでは、マグマと水の接触による激しい爆発が重要でした。熱のやり取りによって水が急速に膨張し、マグマだけでなく、もともと地下にあった岩石も砕かれます。
砕けた物質が外へ吹き飛ばされる一方、地下で支えを失った部分は崩れ込みます。こうした爆発と崩壊の繰り返しによって、地表に漏斗状のくぼみが生まれました。一度の爆発で、完成形の穴がきれいにくり抜かれたとは限らないのです。
穴の周囲には、放り出された岩片や火山灰が低い環状の盛り上がりをつくります。中央が低く、縁が少し高い。その組み合わせが、上空から見た丸い輪郭につながっています。
マール形成の代表的な過程を単純化した模式図です。爆発や崩落は繰り返すことがあり、地下の形・水位・噴出物の厚さは実測値ではありません。
マールとカルデラを分ける、くぼみの成因
マールもカルデラも、火山に関係するくぼみです。しかし、同じ形だから同じ仕組みというわけではありません。大規模なカルデラでは、地下のマグマが大量に移動・噴出した後、上の地盤が広く陥没することが主要な成因になります。
マールで焦点となるのは、マグマと地下水の相互作用が起こす爆発と、その周辺の崩壊です。外観だけなら、隕石の衝突でできた丸い湖とも似て見えるでしょう。そこで地質学者は、縁の堆積物にどんな岩片が入っているか、地下にどのような構造が続くかを調べます。
丸さは手掛かりにはなっても、成因の証明にはなりません。湖の青い水面だけでなく、それを囲む地層の中に、火山活動の痕跡が残っているのです。
湖のないマールと、湿原へ変わったマール
マールは湖の名前でしょうか。正確には火山地形の名前で、アイフェルには湖のあるものだけでなく、湿原になったものや、ほぼ乾いたくぼみもあります。水面のある景観は、この地形が取り得る状態の一つなのです。
湖が続くには、雨や地下水などによる供給が、蒸発や地下への流出と釣り合わなければなりません。また、周囲から土砂が入り、湖内で育った生物の遺骸が積もると、底は少しずつ浅くなります。やがて水生植物が広がり、湿原へ移る場合もあるでしょう。
つまり、水のないマールを「噴火が弱かった失敗作」と捉えるのは誤りです。噴火後に過ごした時間、水の出入り、堆積物の量によって、その後の姿が変わったものなのです。
湖底の薄い縞に残る、噴火後の気候
爆発が生んだ湖は、後に過去の環境を保存する場所にもなりました。深い部分で底の水がかき混ぜられにくく、生物による攪乱が小さい条件では、季節ごとに沈む物質の違いが薄い縞として残ります。すべてのマールに、完全な年ごとの記録があるわけではありません。
アイフェルの湖では、堆積物中の花粉や火山灰、粒の大きさなどが調べられてきました。花粉の種類は周囲に育っていた植物を、鉱物の粒は流域から運ばれた土砂を知る手掛かりです。同じ場所の記録を深さ方向に追うことで、植生や気候の変化を比較できます。
ただし、縞を数える作業だけで年代が確定するとは限りません。別の年代測定や、他の湖にも残った火山灰との照合が重要です。噴火の瞬間を示す地形の下に、その後の長い時間を記録した地層が積もっています。
一枚の景色に重なる、爆発と静かな堆積
アイフェルの丸い湖は、激しい現象がつくった容器に、穏やかな過程が続いた結果です。まず爆発が岩盤を壊し、水が入り、その底へ土砂や花粉が沈みました。現在の静かな景色と、形成時の激しさは矛盾しません。
周囲の輪郭は火山活動を、湖底の層は噴火後の環境を伝えます。水面が消えても、くぼみや埋まった堆積物まで直ちに失われるわけではありません。湖の有無だけでは見えてこない、火山地形の長い履歴がそこにあります。