スーダン西部のダルフールにあるジェベル・マラは、乾燥した低地の中に立つ大きな火山性の高地です。山には谷や泉、植生の豊かな場所があり、周囲と同じ一色の乾燥地ではありません。
火山がつくった標高差は、空気の動きや気温を変え、降水の分布にも影響します。ただし、山全体が一年中濡れているわけではなく、季節や斜面による差も無視できません。
周囲の平野とは違う、標高3000メートル級の環境
ジェベル・マラの最高部は標高約3042メートル。山地には溶岩や火砕流の堆積物、火山性の岩体が分布し、その高い起伏が周辺の低地とは異なる環境を生んでいます。
同じ緯度でも、標高が違えば気温は同じではありません。高地の比較的涼しい条件は、植物の生育や水分の失われ方に影響します。地図で砂漠やサバンナの帯に入っているからといって、その内部の山まで同じ環境とは限らないのです。
湿った空気を持ち上げる、山の斜面
湿った空気が山に沿って上昇すると、低い気圧のもとで膨張して冷え、条件がそろえば水蒸気が凝結して雲や降水を生みます。山が水を無からつくるのではありません。遠くから運ばれた水蒸気を、雨へ変えやすくする地形なのです。
西側斜面を対象にした現地研究には、低い地点より上部斜面で降水量が多いという記載があります。ただし、標高だけで雨量を一意に決めることはできません。風の向き、空気の湿り気、雨季の強さによって、同じ山でも雨の分布は変わります。
降水と水の経路の概念図です。実際の風向・降水量・地下水路・植生境界を示す測定図ではありません。
雨季の水を、斜面と地下が時間差で下流へ送る
雨の一部は地表から谷へ、別の一部は土壌や岩の隙間から地下へ入ります。経路が異なるため、川や泉へ現れる時刻も一斉ではありません。
火山岩だから、どこでも水を無制限にためられるわけではありません。割れ目の多い層と、水を通しにくい層の組み合わせで、浸透や湧出の場所は変わります。高地の泉や流れは、山へ降った水が周辺へ配られる経路の一部です。
雨が止んでも水がしばらく出ることと、年間を通じて水量が変わらないことは別です。山に水があるという事実から、すべての谷に恒常的な川があるとは考えられません。
山頂付近に残る、デリバの火山地形
高地には、大規模な噴火で形成されたデリバ・カルデラがあり、その内部に湖や後の活動に関わる火山地形が残っています。雨の集まり方を理解するには、標高だけでなく、水を受け止めるこの窪地も欠かせません。
カルデラの湖があるからといって、山のすべての泉がそこから流れ出すわけではありません。湖の水収支、斜面の雨水、地下水の経路は、それぞれ調べる必要があります。火山は高地と窪地をつくりましたが、水の分配を一つの池だけで説明することはできないのです。
分水界の山は、外側へも水を渡す
山の頂部や尾根は、雨水がどちら側へ向かうかを分ける境界です。一方の斜面に降った雨は、その反対側の川へすべて集まるわけではありません。ジェベル・マラから周辺へ延びる複数の谷は、高地の水を異なる方向へ配る経路になります。
そのため、麓で水を考えるときには、すぐ上の斜面がどの流域に属するかが重要です。近くに山が見えていても、尾根の反対側へ雨が流れる場所なら、同じ恩恵を受けるとは限りません。高地の存在と、個々の地点で利用できる水を直結させないための地形の区別です。
また、高地の雨が川へ集まるのは、穏やかな補給ばかりではありません。短時間に強い雨が降れば、急な斜面を下る水や土砂も増えます。緑を育てる降水と、地形を削る水の力は、同じ雨から生じる別の側面なのです。
緑を支えるのは、雨量だけではない
同じ雨が降っても、川沿いと乾きやすい尾根では、根の周りに残る水分が違います。さらに気温、土壌、斜面の向きも関わるため、植生を年間雨量だけで説明することはできません。
ジェベル・マラは、乾燥地域の中に水が現れる例ですが、地下から無尽蔵の水が湧く特別な土地ではありません。火山がつくった高さが降水を変え、土と岩が水の経路を変え、谷がそれを集める。その一連の働きが、周囲とは異なる緑の分布を支えています。