アルジェリア南東部のタッシリ・ナジェールには、建物の廃墟を思わせる岩の柱や壁が並んでいます。「岩の森」と呼ばれる景観ですが、岩が地面から木のように伸びたのではありません。かつて連続していた砂岩が削られ、残った部分が目立つようになりました。
現在の乾いた風景だけを見ると、砂を運ぶ風がすべてを造ったように思えます。しかし深い谷や岩の形には、水が働いてきた長い歴史も刻まれています。
砂丘ではなく、砂が固まった台地
砂岩は、砂粒が堆積し、押し固められたり鉱物で結びついたりしてできた岩石です。今、風で移動する砂丘の砂と、崖を形づくる砂岩は、同じ「砂」という字を含んでも状態が違います。
タッシリの台地には古生代の砂岩層が広く分布します。これは現在のサハラ砂漠で積もった砂が最近固まった、という話ではありません。岩石ができた時代と、その岩石が今日の形へ削られた時代を分ける必要があります。
水の通り道から、壁や柱の間の隙間へ
台地の岩盤には割れ目があり、岩の固まり方や層の性質にも差があります。水や風化が弱い部分に集中すれば、そこが先に失われ、比較的残りやすい部分が壁や塔として際立ちます。地面全体が均等に低くなるわけではありません。
ここでの「森」は、岩が積み上がって成長したものではありません。周囲が取り除かれた結果、残った部分の高さが目立つようになった景観です。同じ台地の中でも、削られ方の違いが壁と柱を分け、その間の空間を通路へ変えていきました。
タッシリの特定の柱を復元した図ではありません。地層の傾き、地形の大きさ、各作用の期間は省略しています。
乾いた谷が残す、現在とは違う水の流れ
タッシリには、今の少ない降雨からは想像しにくい深い峡谷があります。UNESCOの評価も、水による侵食と、その後の風の作用を組み合わせて、この地形を説明しています。
川の水が減っても、削った谷がすぐ平らに戻るわけではありません。谷は現在の水量だけを表す器ではなく、過去の流れを残す地形でもあります。今日の乾燥した環境は、すでにできていた谷や岩壁へ作用を重ねているのです。
今も残る水たまりと、乾燥地の中の小さな環境差
タッシリ全域から水が消えたわけでもありません。雨の後には、ゲルタと呼ばれる水場ができ、場所によっては長く水が残ります。谷の深さや岩の性質、日陰の有無が、水の残り方を変えます。
UNESCOの生物圏保存地域の説明では、こうした水場と、多様な植物や動物の存在が結びつけられています。広域の地図で「砂漠」と一色に塗られた土地にも、湿り気のある谷と乾いた尾根がある。地域全体の気候と、個々の場所の環境は同じものではありません。
古い谷が制約する、現在の水の通り道
谷をつくった流れが失われても、低く削られた地形まで消えるわけではありません。まれな雨が降れば、そこへ水が集まり、日陰やくぼみに湿り気が残ることがあります。過去の侵食が、現在の水の行き先にも影響しているのです。
したがって、今日の降雨だけから、谷の深さと水場の分布を同時に説明しようとしても十分ではありません。大きな地形は過去から引き継がれ、その上で現在の水が再配分されています。砂漠になったことは、以前の地形が白紙へ戻ったことを意味しないのです。
岩絵に描かれた動物と、地形が示す過去
この地域は岩絵でも知られ、水に依存する動物を描いた例や、牧畜の場面が残っています。それらは、人がどんな生きものと関わり、どのように暮らしていたかを知る資料です。
ただし、岩絵一枚から当時の降水量や、すべての谷の形成時期を計算できるわけではありません。岩石、谷、堆積物、考古資料では、示す時間の長さも証拠の性質も異なります。それらを重ねることで、単なる風の彫刻ではない、長い環境変化の中にある「岩の森」が浮かび上がります。