湖にガスがたまると聞くと、湖底に大きな気泡の袋がある姿を想像するかもしれません。ルワンダとコンゴ民主共和国の国境にあるキブ湖では、主に水へ溶け込んだ状態で、深い場所にメタンや二酸化炭素が蓄えられています。
鍵になるのは、ガスの供給だけではありません。上と下の水が混ざりにくい成層と、深い場所にかかる水圧が組み合わさり、ガスを深水層に保っています。
深い水ほど重くなる、湖の縦方向の構造
湖水は、見た目が同じでも密度が同じとは限りません。温度だけでなく、溶けている塩類などの量によっても重さが変わります。キブ湖では深い水の溶存物質が成層を支え、表層の水との大規模な入れ替わりを妨げています。
温かい水なら必ず上へ浮く、という単純な関係ではありません。温度が浮力を増やす方向に働いても、溶けている物質の効果がそれを上回れば、深い水は下にとどまれます。密度を決める条件が、互いに競合しているのです。
地下からの二酸化炭素と、複数のメタン生成経路
キブ湖には水中の湧水などを通じて、地下由来の物質が供給されます。火山活動のある地域という地質条件は、二酸化炭素や熱の供給を理解するうえで重要です。
メタンは、湖に沈んだ有機物の分解だけからできるわけではありません。微生物が二酸化炭素を還元する経路もあり、地下由来の水素などが関わります。炭素の同位体を調べる研究では、深水層のメタンに地質的な供給が大きく寄与することが示されています。
したがって「火山があるから、火山ガスがそのままたまった」と言い切るのも不十分です。地下から材料が届き、湖内の化学反応や微生物の働きが加わる。その複数の段階を経て、現在のガスの組成ができています。
層境界・水深・濃度の測定図ではありません。実際には複数の層や薄い混合層があり、ガスの生成にも複数の経路があります。
見えないガスの起源を調べる、炭素の手掛かり
水中のメタンを見ても、有機物由来か、地下から来た炭素を材料にしたものかは区別できません。そこで使われるのが、炭素の同位体を調べる方法です。同じ炭素でも質量の異なる種類があり、その比率や放射性炭素の情報が、材料と生成過程を絞り込む手掛かりになります。
Eawagが紹介する2011年の研究も、こうした情報から深水層のメタンの起源を検討しました。ただし、地下由来の炭素が含まれることと、メタンがすべて地下から完成品として流入したことは別です。材料の出どころと、ガスができる反応の場所を分けることで、湖底下と微生物の両方の役割が見えてきます。
水圧による保持と、成層による隔離
深い水には上の水の重さによる圧力がかかり、一般に圧力が高いほどガスが溶け込みやすくなります。反対に、圧力が下がれば、溶けていたガスから気泡が生じやすくなる関係です。炭酸飲料のふたを開けたときに噴き出す泡を思い浮かべると、圧力を下げることの意味がつかめるでしょう。
ただし、キブ湖を密閉された一本のボトルと同じに扱うことはできません。水圧は深さで変わり、ガス濃度も一様ではなく、成層が水の移動を制限しています。高圧が溶解を助け、安定した層構造が深い水を隔離するという、二つの役割が重なっているわけです。
混ざらない湖の中にある、小さな混合層
「混ざりにくい」とは、湖内の水が完全に静止しているという意味ではありません。Eawagの観測では、深部に薄い混合層と、その境目が階段状に並ぶ構造が見つかっています。
熱と溶けた物質は、同じ速さで移動するわけではありません。その違いにより、小さな対流が生じながらも、湖全体では強い成層が保たれる場合があります。大きなスケールでは隔てられ、小さなスケールでは動いている。この区別が、深い湖の熱や物質の移動を考える際に役立ちます。
ガスの利用にも必要な、湖の構造の維持
メタンはエネルギー資源として取り出されています。しかし、ガスを抜けば何をしてもよいわけではありません。くみ上げた水をどの深さへ戻すかによって、密度構造や栄養塩の分布を変えてしまう可能性があるためです。
また、「ガス量は増え続けている」という古い説明にも注意が必要です。2018年の比較観測をまとめた2019年の研究は、それまで想定されていた増加を確認できず、測定法の不確かさを踏まえた基準値を示しました。これは危険が存在しないとの宣言でも、将来を永久に保証する結果でもありません。供給、保持、取り出しを別々に測り続けることが、湖の理解と管理を支えています。