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砂漠のトシュカ湖群はなぜ現れたり縮んだりするのか ナセル湖の水が流れ込む低地

公開日

エジプト南部の砂漠にあるトシュカ湖群は、衛星画像を比べると、年によって水面の広さが大きく違います。砂漠に突然雨季が訪れ、雨がその場にたまったのでしょうか。実際には、遠くのナイル流域で増えた水が、ナセル湖から人工の経路を通って低地へ入り、広い水面をつくりました。

トシュカ湖群は、常に同じ輪郭を持つ湖ではありません。水を受け取るくぼみは以前から存在し、そこへ入る水と失われる水の差によって、水面が大きく広がったり縮んだりします。

ナセル湖の高い水位と、砂漠側への逃げ道

ナセル湖は、アスワン・ハイダムによってナイル川の水をためる巨大な貯水池です。流入の増加などで水位が上昇した際には、西側のトシュカ低地へ水を逃がせるよう、越流路が設けられました。貯水池と低地の間に、人が水の通り道をつくったわけです。

重要なのは、砂漠の湖底まで人がすべて掘ったわけではないこと。自然のくぼみを受け皿にして、そこへ水が届く経路を整えたのです。ナセル湖の水位が高いときに供給されるため、いつでも一定量の水が流れ続けるとは限りません。

一つの湖ではなく、段階的につながる低地

衛星観測によれば、1990年代末からトシュカの水面が拡大しました。最初のくぼみに入った水が高くなると、低い鞍部を越えて次のくぼみへ移るため、湖群の成長は一枚の円が均等に広がる形にはなりません。

仕切りの高さが違う複数の容器を想像してみるとよいでしょう。水を入れた容器がある高さまで満たされて初めて、隣へ水が届きます。反対に、供給が止まって水位が下がれば、浅い接続部が干上がり、湖同士は再び分かれます。

自然のくぼみが水位に応じてつながり、再び分かれる
上段は越流路から供給された水がくぼみの間の低い鞍部を越える状態、下段は供給が減り蒸発で水位が下がった状態。

湖の数・位置・水位を再現した図ではありません。矢印は供給と蒸発の概念で、地下浸透なども水収支に関わります。

消えた水の主な行き先は、乾いた大気

供給が弱まっても、蒸発は続きます。暑く乾いた地域で広い水面が露出しているため、水は大気へ失われやすく、地下への浸透なども水収支に関わります。湖が縮んだからといって、湖底に突然大きな排水口が開いたわけではありません。

2002年から2006年の湖群を調べた研究では、水面積だけでなく、貯水量の大幅な減少も推定されています。もっとも、面積と体積の減り方は同じではありません。浅い岸辺が広い湖なら、少し水位が下がるだけで、見た目の面積が大きく縮むことがあります。

衛星写真の面積に、水面の高さを組み合わせる意味

2019年の研究は、異なる衛星の画像や標高情報を組み合わせ、トシュカ湖群の面積、水位、体積の変化を推定しました。青い部分の面積だけを測る方法から一歩進み、水面の下にどれほどの水が残るかを検討したものです。

浅い皿形の湖と深い鉢形の湖なら、面積が同じでも貯水量は同じになりません。また、岸の傾斜が緩いほど、わずかな水位低下でも湖岸が遠くへ移動します。水面の広さを示す画像と、容器の形を示す地形情報を合わせる理由は、こうした違いを捉えるためです。

2010年代の縮小と、その後の再拡大

NASAが2022年にまとめた衛星画像では、2000年代初めの大きな水面が、2010年代には縮小していく様子が確認できます。しかし、それで湖の歴史が終わったわけではありません。ナイル流域の雨とナセル湖への流入が増え、2019年以降に再び水が広がりました。

この変化は「砂漠の湖は一度消えたら戻らない」という想像を覆します。湖底のくぼみが残り、水が届く条件が整えば、水面は再び現れ得るのです。なお、これらは撮影年ごとの観測であり、過去の画像をそのまま現在の湖岸線とみなすことはできません。

砂漠の水面に現れる、遠い上流の雨

湖の周囲だけを見ても、これほどの水を生む雨の場所は分かりません。水源をたどると、遠いナイル上流の降水と貯水池の状態につながります。周囲の乾燥と大きな湖が両立するのは、外から届く水が地元の雨より重要だからです。

トシュカ湖群では、自然の地形、ダムの貯水、人工水路、蒸発が重なって湖の姿を決めています。衛星画像の青い輪郭は、その時点までに積み重なった水の出入りの結果。湖という地名があっても、その広さが固定されているとは限りません。

参考資料

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