カナダ東部のラブラドルやニューファンドランド沖で見られる氷山の多くは、その場の海水が凍ってできたものではありません。グリーンランドなどの陸上で育った氷河から分離し、海流に運ばれてきた淡水の氷です。
しかも、西グリーンランドから一直線に南下するとは限りません。いったん北へ運ばれ、バフィン湾を回ってカナダ側へ移り、ラブラドル海流で南へ向かう経路があります。氷山の旅は、出発地と到着地を最短の線で結ぶものではないのです。
海氷と氷山で異なる、氷が育った場所
海氷は、海水が冷えて海面付近で凍ったものです。対して氷山は、陸に降った雪が長い時間をかけて氷河となり、その末端などから海へ分離したもの。海に浮いているという共通点だけで、同じ成り立ちと考えることはできません。
カナダ氷況局の資料では、同国周辺で遭遇する氷山の大部分が西グリーンランドの氷河に由来するとされています。ラブラドル沖の氷山は、遠い氷床から海まで氷が流れてきた結果でもあります。
最初は北へ向かうこともある、バフィン湾の循環
西グリーンランド沿岸を北へ進んだ氷山が、その後、湾北部を西へ回り、バフィン島側で南向きの流れに乗ることがあります。次の出口は、デービス海峡。そこを抜けてラブラドル海へ向かうため、出発後しばらくは目的の沿岸から遠ざかるような旅になるわけです。
ただし、すべてが湾の一番北まで回るわけではありません。途中で西へ分かれる流れもあり、湾や入江へ寄り道する氷山もあります。カナダ沿岸警備隊が説明するのは主要な循環であって、一本の決まった航路ではないのです。
海岸線と経路は模式化しており、氷山の追跡記録ではありません。すべての氷山が湾北端まで回ったり、ニューファンドランドへ到達したりするわけではありません。
海面下にある大きな部分を動かす海流
海面に見える氷は、氷山の一部分にすぎません。漂流を左右するのは、上部へ当たる風と、水面下の大きな部分へ作用する海流です。氷山の形や大きさによって、両者の効き方にも違いが生まれます。
ラブラドル沿岸では、冷たいラブラドル海流が南への移動を担います。しかし海底の浅い場所に氷山の底が触れれば、一時的に動けなくなることもあります。海面上では同じ大きさに見えても、水面下の形が違えば経路は同じになりません。
融け、割れ、座礁しながら進む長い旅
漂流中の氷山は、元の形を保ち続けるわけではありません。海水や空気から熱を受け、波で削られ、割れて小さな塊になることがあります。形が変われば、風や流れの受け方、海底へ届く深さも変わります。
2026年には、NASAがグリーンランド北西部のペーターマン氷河から分離した大きな氷体について、島に衝突して向きを変えた様子を衛星画像で紹介しました。これは主要なラブラドル経路の全氷山を代表する例ではありませんが、漂流が単純な直進でないことを具体的に示しています。
南の海まで残る氷山と、途中で失われる氷山
ニューファンドランド沖へ届く氷山は、分離した氷のすべてではありません。出発時の大きさ、海流や風、海氷に囲まれる期間、暖かい水との接触などが、残るかどうかに関わります。同じ年の氷河の分離量だけから、南で見える数を直ちに決めることはできません。
冷たい海流は、氷山を南へ運ぶ経路であると同時に、途中の融解条件にも関係します。ラブラドル沖の白い塊には、陸上で育った氷の歴史と、海流に導かれた漂流の履歴が重なっています。