流れてきた川が岩の入口へ吸い込まれ、その先の地表から姿を消してしまう。スロベニアからバルカン半島西部へ続くディナル地方では、こうした地下へ潜る川が見られます。雨が降るのに地表の川が少ない土地も、水そのものが乏しいとは限りません。
広く分布する石灰岩は、水に少しずつ溶けて地下の通路を発達させます。川が消えたように見えても、水がなくなったわけではありません。流路の一部が、地図の表面から地下へ移ったのです。
固い石灰岩に水の通り道ができる仕組み
石灰岩の主成分である炭酸カルシウムは、二酸化炭素を含む弱い酸性の水によって溶けます。雨水や地中の水が割れ目を通るたびに、少しずつ岩が溶け去り、水の通り道が広がっていくのです。
最初から巨大な洞窟が開いている必要はありません。水が通りやすい割れ目へ流れが集まり、そこが広がると、さらに多くの水が通るようになります。長い時間をかけて、細い割れ目から水路や洞窟へ発達するのです。
石灰岩なら全体がスポンジのように均等に水を通す、と考えるのも正確ではありません。岩の割れ目、地層の境界、断層などが流れの集中する場所を決めます。このような溶食による地形を、カルスト地形と呼びます。
地下河川の基本関係を示す模式断面です。レカ川の実測経路ではなく、未探査区間の形を推定したものでもありません。実際の地下水路は枝分かれします。
レカ川が示す、岩質の境目で変わる流れ
スロベニアのシュコツィアン洞窟群では、地表を流れてきたレカ川が地下へ入ります。公園の地質解説によると、川の水は、砂岩や泥灰岩などを含む比較的水を通しにくい地層の地域で集められています。
そこから石灰岩の地域へ進むと、地下の通路へ流れ込む条件が生まれます。同じ雨量でも、地面の岩質が変われば、水の集まり方と流れ方も変わるのです。
この例は、川が地表から消える理由を、乾燥や蒸発だけで考えてはいけないことを示します。上流では立派な川を保っていても、下流の岩盤に十分な入口と通路があれば、流れ全体が地下へ移ることがあります。
地下を通った水の出口と、見えない途中経路
レカ川の水はカルストの地下を通り、約35キロメートル離れたイタリア側のティマヴォ川の湧水へつながります。水のつながりは国境を越えていますが、その全区間が歩いて通れる洞窟として把握されているわけではありません。
地下には水で満たされた区間や、深くて人が届きにくい場所があります。入口と出口の関係が分かることと、途中のすべての分岐や断面が分かることは別です。
また地下の水路は、一本の管だけとは限りません。周囲から浸透した水が加わり、水位によって流れの経路や量も変化します。「消えた川が、そのまま同じ量で一本の穴から出る」という図だけでは、実際の地下水系を単純化しすぎてしまいます。
地下でも起きる洪水と、古い流路の高さ
川が地下に入れば、水がいくら増えても吸い込めるのでしょうか。そうではありません。入口や狭い通路の能力を流入量が上回れば、水はせき上がります。シュコツィアンでは、大雨のあとに洞窟内の水位が大きく上昇することが知られています。
地下河川にも、急流、滝、増水があります。静かな地下湖だけを思い浮かべると、川が岩を削り続ける力を見落としてしまいます。
洞窟の高い位置には、今は水のない古い通路が残ることもあります。より低い経路が発達して水が移ったためで、乾いた空間が最初から乾いていたとは限りません。上下に並ぶ通路は、地下河川の移り変わりを記録しているのです。
地表の谷だけでは決まらない集水域
普通の河川では、尾根を境に雨水の行き先を区切れる場合が多くあります。しかしカルストでは、地下の割れ目や水路が地表の地形と違う方向へ水を導くことがあります。地表で見える谷の範囲と、ある湧水に水を送る範囲が一致するとは限りません。
そのため、洞窟の入口だけを保護しても、水系全体を守ったことにはなりません。離れた地表から入った物質が、地下の通路を比較的速く移動する可能性があるからです。
ディナル地方の川が教えてくれるのは、地表に線がない場所にも水のつながりがあるということです。川の終点に見える穴は、本当の終点ではありません。石灰岩の大地には、その先へ続くもう一つの流域が広がっています。