クロアチアのプリトヴィツェ湖群では、高さの違う湖が滝でつながり、水が階段を下りるように流れます。山崩れの岩や人造の堤防が、谷を何段にも区切っているのでしょうか。
湖を分ける堤防は、運ばれた岩の山ではありません。水に溶けていた成分から炭酸カルシウムが析出し、藻類、細菌、コケなども関わりながら成長したものです。ここでは水が石を削るだけでなく、石をつくって自分の流れを変えています。
川の谷を区切った、多孔質の石の堤防
プリトヴィツェの水域は、かつての川の谷に石の障壁が成長し、水をせき止めることで発達しました。この多孔質の石はトゥファと呼ばれ、日本語では石灰華などと説明されます。
石灰華と聞くと温泉の周囲を想像するかもしれませんが、ここでは周囲の環境に近い温度の水から形成されます。高温の湯が冷えて固まる仕組みを、そのまま当てはめることはできません。
障壁の上流に水がたまり、低い部分を越えて次の湖へ流れ落ちる。これが繰り返されることで、湖と滝の階段ができます。公園が挙げる16の名のある大きな湖のほかにも、小さな水域が存在します。
湖の段差や障壁の形は模式的です。下段の赤い点は結晶の位置を表し、実際の大きさではありません。コケだけで石がつくられるわけではなく、水の化学条件も必要です。
石灰岩を溶かした水から、再び石が生まれるまで
周囲に広がる石灰岩などを、二酸化炭素を含む水が溶かすと、カルシウムや炭酸水素イオンなどが水中へ入ります。目には見えなくても、水は岩の成分を運んでいるのです。
その水が瀬や滝を通ると、二酸化炭素が空気中へ逃げるなどして、水の化学的な条件が変わります。炭酸カルシウムが溶けたままでいられる状態から、微小な結晶として析出しやすい状態へ移るわけです。
ただし、水しぶきが上がれば必ず堤防ができるわけではありません。溶けている成分の量や酸性・アルカリ性の程度、生物の働きなど、複数の条件が必要です。滝の形だけをまねても、同じ地形は再現できません。
結晶の足場になる微生物と、形を与えるコケ
岩や水草の表面には、藻類や細菌などがつくる微細な生物の膜があります。国立公園の説明では、炭酸カルシウムの微結晶が、こうした生物の分泌物に付着し、さらに結晶が成長する足場になります。
コケを覆うように石灰質が付着すると、下側は石に取り込まれながら、先端はさらに成長していきます。その形が残った石の内部は、均一で密な塊ではありません。植物の輪郭や空隙を含む、複雑な構造になるのです。
したがって、コケだけで湖を建設しているわけではありません。化学反応による析出、水の流れ、微生物の膜、植物の形が組み合わさり、石の障壁の成長を支えているのです。
下流の堤防が育つと、二つの湖が一つになる
堤防が増えれば、湖の数も増える一方でしょうか。実際には逆の変化もあります。下流側の堤防が上流側より速く成長すると、水位が上がり、手前の低い堤防を水没させる場合があるのです。
コジャク湖の底には、そのように沈んだ障壁が残っています。以前は別々だった水域が、出口側の成長によって一つにつながりました。堤防の成長が、見える滝を消すこともあるわけです。
これは、湖の輪郭が単なる過去の遺産ではなく、今も動く水位と堆積の関係で決まることを示します。石の障壁が高くなる作用と、湖底へ泥などがたまる作用も同じ速さではありません。
成長だけでなく、崩壊も含む湖群の変化
石だから頑丈な永久の堤防、とは限りません。トゥファは空隙の多い構造を持ち、水の流れや倒木、氷などの影響で壊れることもあります。水が流れなくなって表面が乾けば、成長を支える条件も失われます。
そのため、現在の景色を理解するには、石が積み重なる速さだけでなく、どこへ水が流れ、どの部分が侵食・破壊されるかも重要です。すべての堤防が同じ割合で高くなるわけではありません。
プリトヴィツェの階段は、完成した石造建築ではありません。上流で溶けた岩の成分が運ばれ、生物の表面に付着し、流れをせき止め、ときには崩れる。その繰り返しが、水と石の境目を変え続けています。