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ボスポラス海峡ではなぜ上下で水の流れが逆になるのか 黒海とマルマラ海の塩分差

公開日

イスタンブールのボスポラス海峡で、海面近くの水が向かうのは南のマルマラ海です。ところが深い層の行き先は、北の黒海。一本の海峡で、上と下に逆向きの流れが同時に成立しています。

これは、満潮と干潮で海峡全体の流れが交互に反転する話ではありません。塩分の違う二つの海の間で、軽い水と重い水が交換される二層の流れです。さらに黒海側の水収支と海面の高さの差が加わり、上層と下層の輸送量は同じにはなりません。

淡水の多い黒海と、塩分の高いマルマラ海

黒海には、ドナウ川などの大きな川が注ぎます。河川と降水による供給が蒸発を上回るため、余った水は海峡を通じて外へ出る必要があります。

一方、マルマラ海はダーダネルス海峡を経てエーゲ海・地中海につながります。黒海側の比較的薄い表層水と、地中海側に由来する塩分の高い水の間には、密度の違いがあります。

もし両側がまったく同じ性質の水なら、水面の高さの差に従う一方向の流れだけを考えやすいでしょう。しかしボスポラスでは、深さによって圧力差の効き方が変わるため、上と下に別の流れが成立します。

ボスポラス海峡の上層流と下層流
左の黒海から右のマルマラ海へ塩分の低い上層水が流れ、塩分の高い下層水は逆に黒海へ入る。海底の地形も流れを制約する。

海峡の長手方向を単純化した模式断面です。矢印の太さは流量ではなく、上下の流量が等しいという意味ではありません。強風などで流れが一時的に変わることもあります。

表面では南向き、深い層では北向き

黒海側から来る軽い水は、表層を通ってマルマラ海へ流れます。その下では、塩分が高く重い水が、マルマラ海から黒海へ入り込みます。

重い水は、同じ深さまで積み重なったときに大きな圧力をつくります。海面の高さの差がある一方で、深い側では塩分による密度差が圧力の分布を変えるため、流れの向きが上層と逆になるのです。

上下の水の間に固い仕切りがあるわけではありません。境界では混合が起き、塩分や流速は連続的に変化します。二層という表現は、大きく異なる向きの流れを捉えるための区分です。

往復する水の量が同じではない理由

二方向の流れがあると聞くと、出る水と入る水が同量で打ち消し合うようにも思えます。しかし、黒海には河川から淡水が供給され続けています。その余剰分を外へ出すには、長期的には表層の流出量が深層の流入量を上回らなければなりません。

水の量だけでなく、塩の量も別に考える必要があります。薄い水を多く出し、濃い水をそれより少なく受け入れる交換なら、水量と塩分の収支が同じ割合で動くわけではありません。

このため、海峡を通る水を一本の矢印だけで描くと、大切な働きを見落とします。正味では黒海から外へ流れていても、同時に塩分の高い水が黒海へ運ばれているのです。

狭まりや海底の敷居が制約する二層の流れ

ボスポラス海峡は、同じ幅と深さが続く直線の水路ではありません。曲がり、狭まり、海底の高まりがあり、上層と下層が通れる断面積も場所によって変わります。

水路が狭くなると流れが速くなるだけでなく、上下の層の厚さや境界の位置も変化します。研究では、こうした地形が二層流の輸送を制約する「水理的な制御」が調べられています。

さらに海峡の両端で水が広い海へ出ると、噴流や渦、周囲の水との混合が生じます。マルマラ海や黒海の海流を理解するうえでも、海峡は単なる細い連絡路ではなく、水の性質を変える場所です。

風で一時的に崩れる、普段の上下関係

通常の二層流は、毎日まったく同じ速度で続くわけではありません。強い南西風などで海面の高さの差が変わると、表層の流出が弱まったり、一時的に逆転したりする場合があります。

2018年の海峡系の研究でも、マルマラ海側の水位が黒海南西部より高くなる状況に伴う、上層流の遮断や反転が扱われています。短期間の風の作用と、長期的な塩分・水量の収支は、時間尺度の違う要因なのです。

岸から見える水面の流れだけでは、海峡全体がどちらへ流れているかは判断できません。ボスポラスの特徴は、海の連結を二次元の地図ではなく、深さを持つ水の交換として考えるとよく分かります。

参考資料

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