スペインと聞いて、強い日差しと乾いた大地を思い浮かべる人は多いでしょう。ところが北岸には緑の牧草地が広がり、北西部の山地には多くの雨が降ります。同じイベリア半島の中で、なぜこれほど景色が違うのでしょうか。
違いをつくるのは、緯度だけではありません。大西洋から湿った空気が届く経路、夏と冬で変わる気圧配置、そして空気を持ち上げたり遮ったりする山脈。この三つが重なって、水を受け取りやすい土地と、夏に乾きやすい土地を分けています。
雨の多い北西部と、湿った空気を受け止める山地
大西洋から低気圧や前線が近づくと、湿った空気が半島へ流れ込みます。西や北西に開けた地方はその影響を受けやすく、さらに山の斜面で空気が上昇すると、冷えて雲や雨を生む条件が整います。
スペインとポルトガルの気象機関による『イベリア気候図集』では、北西部や北部の一部の山地に多雨域が現れます。海から近いだけでなく、湿った風をどの向きの斜面が受けるかが重要なのです。
北岸の背後に連なるカンタブリア山脈を越えると、内陸の高原へ入り、海からの影響は弱まります。海岸からどれだけ離れたかだけでは、植生や土地利用の違いは説明できません。間にどのような山があるかも、重要な条件なのです。
地中海性気候の核心は、暑さより「夏の少雨」
地中海性気候という名前から、地中海に面した地域だけの気候だと思うかもしれません。しかしポルトガルの大西洋岸にも、夏に雨が少なくなる地域が広がっています。海の名前は、気候区分の境界線ではありません。
夏のイベリア半島では、アゾレス高気圧に関係する高圧部が影響しやすくなります。下降する空気は雲の発達を抑え、雨をもたらす大西洋の低気圧や前線も、半島の北側を通りやすくなります。
冬には気圧配置が変わり、雨を伴う低気圧や前線が半島へ入りやすくなります。年間を通じて雨がないのではありません。雨の少ない季節に強い日射による蒸発も重なるため、夏の水不足が際立つのです。
上段は一定の風向のときの模式断面で、半島全体の南北断面ではありません。下段は代表的な夏の条件で、毎日同じ天気になることを意味しません。
内陸の乾燥と、冬の寒さが両立する理由
乾いた風景を見て、年中暑い場所だと判断することはできません。半島中央部のメセタは標高の高い台地で、海から離れた地域では冬の冷え込みも厳しくなります。
海は陸に比べて温まりにくく冷めにくいため、沿岸の気温変化を和らげます。内陸ではその調節作用が届きにくく、夏と冬の差が大きくなるうえ、標高も気温を下げる方向に働くのです。
ポルトガル気象庁の気候区分にも、乾いた夏が比較的涼しい地域と、暑くなる地域の区別があります。「夏に雨が少ないか」と「夏がどれほど暑いか」は、同じ質問ではないのです。
南東部の少雨と、「南はすべて乾燥」の落とし穴
アルメリアやムルシアなど、スペイン南東部には特に雨の少ない地域があります。大西洋側から来る空気にとっては半島を横断した先に当たり、途中の山地で雨を落とすことや、周囲の山による雨陰の影響も加わります。
ただし、南部全体を同じ色で塗るような説明はできません。南西から湿った空気を受ける山地では雨が増え、海に近い低地と山の斜面でも条件が異なります。北と南の差は大きな傾向であり、実際の雨量分布には東西差と起伏が刻み込まれています。
また、年間の雨量が少ないことは、激しい雨が降らないという意味ではありません。地中海沿岸では、湿った空気と不安定な大気の組み合わせによって、短い期間に雨が集中することもあります。乾燥した景色と、時折の強雨は矛盾しないのです。
緑の牧草地と硬い葉に表れる、水の受け取り方
景色に効くのは年間雨量だけではなく、植物が育つ季節に水が残るかどうかです。夏にも比較的水を得やすい北部と、日差しの強い時期に雨が減る地方では、同じ緑でも維持のされ方が違います。
夏の乾燥に耐える植物には、小さく硬い葉など、水を失いにくくする特徴を持つものがあります。一方、目の前の畑や緑地は自然植生そのものとは限りません。灌漑や作物の選択、牧草地としての管理も、現在の景観を形づくっています。
半島の景色は、単純な「北の緑、南の乾燥」だけでは説明しきれません。海からの風を受ける斜面、夏に雨が途切れる期間、内陸の標高。その組み合わせが、隣り合う土地にも異なる暮らしと風景を生んでいるのです。