雨がほとんど降らない土地なのに、ナツメヤシが茂り、畑を潤す水がある。サハラのオアシスは、砂漠の中に突然現れた水たまりのようにも見えるでしょう。しかし、その緑を支える仕組みは、目の前の泉や井戸だけでは分かりません。地下の岩石と、遠い場所や過去の時代に降った雨がつながっています。
重要なのは、水が「どこに蓄えられているか」「いつ入ったか」「どう地表へ届くか」の三つです。エジプトやリビアのオアシスには、古い時代の雨を蓄えた帯水層に支えられるものがあります。ただし、サハラのすべての地下水が、同じ深さ、同じ年齢、同じ供給経路を持つわけではありません。
地下の巨大な空洞ではなく、水を含む岩石の層
地下水というと、地下に大きな湖が隠れているように思えるかもしれません。実際には、多くの水は砂粒の間の隙間や岩石の割れ目を満たしています。水を蓄え、井戸や泉へ十分に送り出せる地層が「帯水層」です。
サハラ東部のヌビア砂岩帯水層システムは、エジプト、リビア、スーダン、チャドの地下にまたがっています。砂岩などの地層に水が分布しているので、国境の位置で地下のつながりが止まるわけではありません。一方、どこを掘っても同じ量の水が出る巨大な一つの容器、と考えるのも正確ではありません。
水を通しやすい層と通しにくい層、層の厚さ、割れ目の分布によって、地下水の動き方は変わります。地表の砂の厚さだけを見ても、その下の水資源の姿は決まらないのです。
現在の乾燥の下に残る、昔の雨
現在のサハラに十分な雨が降らないからといって、地下に水がないとは限りません。過去の湿潤な時期に地中へ浸透した水が、長い時間をかけて移動しながら残っている場合があります。こうした古い水は「化石地下水」と呼ばれます。
化石といっても、水そのものが石になったわけではありません。現代の人間が利用する時間の尺度では、くみ出した分が同じ速さで補われにくい、という特徴を表す言葉です。国際原子力機関はヌビア砂岩帯水層の水を、古く、実質的には再生しにくい水資源として扱っています。
ただし、帯水層の水を一律に「何万年前の水」とすることはできません。入り込んだ時期の違う水や、異なる経路の水が混ざることもあります。古い水が主であることと、全地点の水が同じ年齢であることは別なのです。
窪地・泉・井戸がつくる、地下水への入口
水が地中にあるだけでは、地表にオアシスは生まれません。地下水面が地表に近い窪地、地下水が湧き出す場所、井戸で水を取り出せる場所など、植物や人が水へ届く条件が必要です。自然の地形に加え、井戸や水路を維持してきた人々の仕事も、緑の広がりを支えています。
水を通しにくい層に挟まれた帯水層へ井戸を掘ると、内部の圧力によって、水位が帯水層の上面より高くなる場合があります。その上昇が地表を越えれば、ポンプを使わずに水が流れ出す「自噴」の状態です。湧き出す勢いは、水が蓄えられている深さだけでは決まりません。
被圧帯水層と井戸の関係を示す模式断面です。破線は説明用の水頭で、実際には場所により傾きます。現在の雨による補給を示す図ではなく、サハラの全オアシスが自噴するという意味でもありません。
深く掘れば必ず自噴するわけではありません。井戸の水が上がれる高さと、地表の高さの関係が決め手です。地下水をくみ出して圧力が下がると、地下にまだ水が残っていても、以前のように自然には流れ出なくなることがあります。
同じ西部砂漠でも異なる、水の混ざり方
エジプトの西部砂漠には、ハルガ、ダフラ、ファラフラ、バハリヤ、シワなどのオアシスがあります。2001年の研究は、複数のオアシスで地下水中のウラン同位体を調べ、水の来歴を比較しました。その結果、深い帯水層を通じて届く水に、かつて近くで浸透した雨水などが加わる割合は、場所によって違っていました。
例えばバハリヤやファラフラでは、南から来る地下水に、過去の湿潤期の局地的な補給が加わったと解釈されています。シワでは、別の浅い帯水層からの成分も認められました。「サハラのオアシスはすべて一つの地下湖につながっている」という説明では、この違いを捉えられません。
この研究が示すのは、特定の井戸の現在の状態ではなく、水源を単純化できないということです。地表では似た泉に見えても、その水が通ってきた地層と経路は異なります。
水の年齢を調べる、同位体という手掛かり
地下深くに入った水がいつの雨なのかは、見た目だけでは分かりません。そこで使われるのが、同じ元素でも質量が違う「同位体」です。水に含まれる成分の組み合わせや、時間とともに減る放射性同位体の量から、水の起源や地中で過ごした時間を推定します。
炭素14で調べられる範囲より古い地下水には、クリプトン81などを使う方法もあります。ただし、地下水の試料には異なる年齢の水が混ざる場合もあるため、測定値がそのまま一粒の水の誕生日になるわけではありません。地質と水の流れを合わせて解釈して初めて、帯水層の歴史が絞り込めます。
こうした測定によって、豊富な水があることと、今も十分な補給があることを区別できます。井戸から勢いよく水が出る光景だけでは、その水源がどれほど持続的かは判断できないのです。
オアシスを支える貯水量と、補給速度の違い
大きな帯水層に大量の水があっても、利用できる量が無限になるわけではありません。水が深すぎる場所、塩分が多い場所、くみ上げによって周囲の水位や圧力が下がる場所もあります。地下に存在する総量と、ある井戸から無理なく取り出せる量は別の数字です。
さらに、サハラには、現在の雨や周辺からの流入を受ける浅い地下水もあります。オアシスを理解するには、古い水の蓄えだけでなく、新たに入る水と出ていく水の関係も欠かせません。緑の場所は小さくても、その背後には、地層を横切る広がりと、人の一生をはるかに超える時間があるのです。
参考資料
- IAEA:Supporting the cooperative management of the Nubian Sandstone Aquifer System(2012)
- British Geological Survey:Hydrogeology of Egypt
- U.S. Geological Survey:How Ground Water Occurs
- Dabous and Osmond(2001):Uranium isotopic study of artesian and pluvial contributions to the Nubian Aquifer, Western Desert, Egypt
- IAEA:Water & Environment News No. 26(クリプトン81とヌビア帯水層の調査)